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レオが出所する前日。部屋に来たマホナは興奮した様子で切り出した、
「良いこと思いついた。この部屋に三人で暮らすの、そしたら二人をいー子いー子してあげる!」
言われてすぐ想像した、おれがリビングで寝て、レオが畳で寝るとする、マホナは・・・・・・
「ねぇ、聞いているの?」
「え」
「お願い、添い寝して。何日も眠れてないの」
寮で添い寝した日を思い出した。彼女の態度の変化に、二週間前が遠い昔のことのように思えた。今マホナは何を考えているのだろうか。
彼女はいったん目を閉じると身動きを一切しなくなった。生まれたての赤ちゃんのように無防備だった。言っていた睡眠薬を飲んだのだろうか? 手から愛が伝わることを願って頭を撫でた。
撫でながら、随分前に見たドキュメンタリー番組を思い出した。舞台はアフリカのだだっ広い乾燥した荒れ地。げっそりとした雌ライオンが木陰でうずくまっているインパラの赤ちゃんを見つける。恰好の獲物だった。しかし、どうしたことかすぐに食べない。隣まで来ると彼を守るように伏せた。すると、インパラは無邪気に雌ライオンのおっぱいを探り当て、吸い始める。雌ライオンはそれを許すが弱りすぎて乳が出なかった。雌ライオンは最後の力を振り絞りって別の獲物を探しに出た。ナレーターはここで、「インパラに乳を分け与える為に栄養をつけようとしています」と言った。しかし、もうろうとしている雌ライオンは走ることすらままならず、度々、獲物たちの方が目の前までやって来て首をひねるありさまだった。雌ライオンはインパラの元に戻って、隣に横になるとそのまま動かなくなった。翌朝、インパラの群がやってきて、赤ちゃんインパラはその群に何事もなかったように加わっていなくなった。
今、正にマホナの中に入らないことが致命傷になることは理解していた。なす統べなく「ずっと一緒にいよう」と耳元でささやいて目をつぶった。
「もうこんな時間!」
突然マホナは飛び起きた。おれが眠りに入るのを見計らったような不愉快なタイミングだった。
「さいやく、今日同伴あるの。寝ている間に好きとか言わなかったでしょうね?」
「言ったよ。これでもかって言うくらい、言いまくった」
マホナは優しく微笑んだ、
「長いこと寝られなかったの。こんなに深く寝たの生まれて初めて。ありがと」彼女は急いで部屋を出る準備をし始めた、「彼とはどっちにしても別れる。でも今は一緒にいてあげなきゃ可愛いそうだから」
「うん、どっちにしてもね」
「え、うん」




