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Endless Summer  作者: akiona
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 昼休み、今度は正直に寮で昼寝がしたいとオヤジに言って、部屋の鍵を受け取った。ヒッチハイクでローソンに着くと、あろうことか、向かいの酒屋にマホナがいた。

「ビックリした! 何でいるの?」とマホナ。

「それはこっちの台詞、おれはこれから昼寝だよ」

「マホナは警察署に服を届けに行って来たの」

「はいはい」

 坂を上がっているとトラ猫が足めがけてやってきて、歩き続けるおれの足、左右交互に、八の字を描くように自分の体を擦り付けた。

「こいつ、いつもこう。ここんところ毎日だよ」

「可愛い」

 マホナがしゃがもうとすると猫は逃げていった。

「動物嫌いなんでしょ」おれは笑った。

「うん」

「もう着くけど来ていいの?」

「何でだめなの? 荷物もあるのに」

 鍵を開け、部屋に入るやいなや二人は長いキスをした。アヒル口の正体は、唇を通して顎骨の形が伝わってくるほど薄い唇だった。おれはキスを許されて、昨日のことはあれで良かったのかもしれないと思った。

「マホナの源氏名決めて」とマホナは玄関で抱き合ったまま言った。「昨日決めるの忘れちゃった」

「ヒカルゲンジ? なら知ってるけど?」

「・・・・・・ま、いいわ」マホナはおれから離れて、いつの間にかに部屋に持ち込んでいた大きな段ボールの前でしゃがみ込んだ、

「マホナのお店の名前、写真の下とか名詞に書くやつ、あなたに決めてほしいの」

「ああ、芸名のことね。ちょっと考えさせて」

 マホナは荷物を探る手を止めて、笑い声混じりで言った、

「眉毛染めてあげてもいいわよ」

「流行ってるの?」

「眉毛だけ黒い人ばっかり、可笑しいでしょ、マホナは昔から両方染めていたわ。モデルさんはみんな前からやっているの」

「へぇ、眉だけ染めてる人もいる?」

「さあね。やるの、やらないの、どっち」

「染めるよ、染める。格好良くなるならして」

「今よりダサくはならないでしょ」マホナは目に見えるため息を吐き、チューブを持って近づいてきた。

「メイキャップなりたかったの、ちゃんと勉強もしていたのよ」と言って、重たい液をおれの眉毛にのせた。途中、突然マホナはふき出した、

「ちょっと、剛毛過ぎ、うける」

「むらにならないようにしてよ、ちゃんとやって、かっこよくして」おれは至近距離でマホナの顔をまじまじと見た。「確かにチークとかちょっと違うね」

「これが正しいの。みんな低い位置にやり過ぎてアンパンマンにしちゃう、だからだめなのよ、トップに置くの、外人さんとかそうでしょ」

 言われてみれば、一見無頓着に思える派手なチークとそばかすは、不揃いな顔のパーツの中で重要な役割を担っている。

 『チークはトップに』教えてやろう朱色のチークが好きな彼女に。サキの顔を思い浮かべたが、すぐには出てこなかった。そこで、頬の低い位置に朱色のチークをのせて、頭の中で描こうとした。いつだって鮮明に描けたはずなのに、何度やってもアンパンマンになってしまう。

「いってーこれ大丈夫なの?」

「目に入ったら失明するわよ」

「まじかよ! それ早く言えって」

「急に大きい声出さないで!」

 おれはふてくされながら液体を洗い落とした。

「どう、いまふう?」

「ましにはなった、後はおめぇでしな」マホナは独り言のように、しかし、はっきりと続けた、「マホナと張り合おうなんて全然努力が足りないわ」

 機嫌を取るために頬にキスをした、

「時間だ」

「行かないで」

 失うものがない女は卑怯だと思った。

「名前わかった」おれは意味深に笑った。「これ以上ないよ・・・・・・」

「はい、もう聞かない。早く言わないから」

「レオナ」もう一度言った、「マホナとレオで、レオナ。どう?」

「は? もう行きな。じゃあね」

「いいじゃん怒ったふりしなくても、レオのことが好きなんだから」

「わかったから早く出ていって」

「おれが鍵持ってるんだけど」

「あ、そっか」マホナはケラケラ笑った。


 一人で浜に戻った時、軽トラの荷台に立っているオヤジに、菊池が折りたたまれたビーチベッドを受渡しているところだった。おれは、いつもの横断歩道を渡らず、軽トラの頭で二人の死角に隠れるように国道を渡った。挙動不審なのはわかっていた。

 ギリギリまで近づいて大声で謝ると、

「なにやってたんだ」と振り向いたオヤジは他人行儀な声で言った。

 ガードレールを跨いだ、次の瞬間、ビーチベッドが投げ捨てられたガリガリという音と共に、菊池が突進してきた、

「てめぇえ、舐めてんだろ!」

 汗で滑る菊池の裸体にクリンチしながら、マホナを舐めていたかもな、と心の中で菊池をあざけた。

 おれはクリンチが得意だった。殴りかかりたくさせる性なのか、学生時代も何度もこれで逃れてきた。根性なしだ、おまえはタコか、なんて言われながら人を殴るよりはましだった。

「てめぇの分まで誰が片づけなきゃならねえかわかってんのか!」

「おれが悪い」と菊池の耳元で言うと、菊池は再び暴れ出した。

「やめとけ!」とオヤジが叫んだ。

 菊池がオヤジの言葉に反応してこっちに背を向けた、その瞬間、おれは菊池の耳を殴り、髪の毛を掴んで顔面をトラックの荷台の角に押しつけた。菊池は両手でトラックにしがみついた。

 オヤジが何か言いながら割って入り、菊池を軽トラの運転席へ座らせた。

 堅くなったおれの右手には菊池の太い癖毛が束になって残っていた。

「もう一つの仕事があるので、明日まで寮にいてもいいですか?」とおれはオヤジに言った。

「そうしろ」とオヤジは言った。色んな感情が含まれた信用できる声だった。


 交通費についてだけ食い違いがあった。特急を使っていた分、オヤジの予想より高かったらしい。最終的に、オヤジは、おれの言い分を了承した。逆にオヤジが帰りの分を払うと言い出すと、おれは再三それを拒んだ。オヤジは胡座を掻き、左手の札束を右手で数えながら畳に落としていった。一枚だけ五千円札が千円の間に落ちていったのが見えた。手の中で数え直すと、やっぱり金額が多かった。金額の間違いを正すことで好意と感謝を表せると思ったが、いくら悩んでも埒があかない、おれの手は、指摘されることを逃れるように、そそくさと金をしまった。わざとか見落としか、いずれにしてもオヤジに対してお金をきちっと貰えたこと、世話になったことを一方的になってしまったが感謝していた。


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