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色々  作者: 千里三月記
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異世界転生

≪たすけて≫≪たすけて≫




 ――繁華街。風俗店の立ち並ぶビルとビルの間の細い路地。その先に入口のある二階建ての汚れた建物。




「下半身まる出しのまま気ィ失って、警察に捕まったんだって?」


 まわりで起こる、品のない笑い声。別の男が続いて言う。


「普段、いくらカッコつけて一匹狼気取ってても、まるだしじゃな~」


 さらに大きく笑われる。


 笑われていた黒いスウェット姿の男が、右手を無造作に振る。


 ぱきょ


 と、変な音がして黒いスウェット姿の男の前に立った巨漢、太い首に、白髪の混じった頭、明らかにカタギではない風体の、最初に口火を切った男の鼻が曲がった。


「オヤジ、今まで世話になったな。」


 ――高校まで行かせてもらってな。


 スウェット姿の男が、振り終えた手を逆回しするように、凄い速度でまた振った。


「へっ、流石、虎の子ってわけかよ」


 スウェット姿の男の右手が顎先を掠め、太い笑みを浮かべたまま巨漢は意識を失う。


「て、てめ」


 ぱぐん



 言いかけたパンチパーマの男は、最後まで言い切ることが出来なかった。

 スウェット姿の男が、巨漢の顎先を掠めた手をそのままの勢いで反転、後ろに立ったパンチパーマの男の顎にぶつけたためだ。


 膝から崩れ落ちるパンチパーマ。


『孤拳』


 空手ではそう呼ばれる技。腕の、手首の付け根のところで殴りつける技。本来はこれほどの威力の出る技ではない。


『虎拳』


 そう言った方が、この男の動きを、より正確に表現できると感じる。それほどの強烈な一撃。


「梧桐っ!自分が何やってんのか分かってんのか!?」


 パンチパーマの言えなかったことを、かわりに言ったようなセリフ。


 白いスーツ姿の男が、スーツの内側に手を突っ込んで、何かを取り出そうとする。


「やらせねえよ」


 間にあった机を飛び越え、即座に間を詰めた黒づくめの男。相手の肘を押さえて抜かせない。


 同時に床から跳ね上げた左足がスーツ姿の男の股間を直撃。衝撃で引き金を引いてしまい、天井に穴を空けてしまったスーツの男。気を失い、沈んでいく。



「あっぶねえ」


≪たすけて≫

 女の声がする。


 声の方向を確かめる間もなく、横っとびに避けたスウェットの男。


 もといた場所に一閃、日本刀が机に突き刺さる。


「『波遊ぎ兼光』、素人が扱うにゃ勿体ない刀だ。あ~あ、可哀そうに。そんな雑な打ち込み方じゃ、刀身が曲がっちまうじゃねえか。」


 同時に男の腹に蹴りを一撃。


 突然の一撃に前かがみになった最後の男の服を掴んで、左手一本で窓から放り投げる。


 ガシャン


 と窓を割って、キラキラ輝く破片と共に二階から地面へと落ちていく男。


 落ちた男が動かなくなったことを確認した黒いスウェットの男 ―梧桐と呼ばれた男は、机に刺さった刀を引き抜き、切先に刃こぼれがないことを確認すると、床に転がった鞘を拾って納刀する。


「さすがは『兼光』。歪みねえぜ。」


 二、三度、出し入れして滑らかに動作するのを確認すると、鞘ごと左腰のズボンとベルトの間に差し込み、部屋の奥に向かう。


 その向こう、重いマホガニー製の本棚をどかした先にあった小さな部屋。


「おお、オヤジさんも好きだね、まったく。」


 壁一面に掛けられた、様々な種類の銃、銃、銃。手榴弾やロケットランチャーまでが置いてある。


「これから色々入り用なんでね。」


 頂いてくよ、と、銃や銃弾、手榴弾を、部屋の中においてあった使い古されたスポーツバッグへ詰めていく。ロケットランチャー?バッグに入りきんねえよ。一度撃ってみたかったけど。


≪たすけて≫


 ―おっと、金を忘れてた。金は天下の廻り者ってね。オヤジさんには最後まで世話になるね。


 梧桐は無視して元の部屋の金庫へ向かう。


≪たすけて≫

≪たすけて≫

≪たすけて≫

≪たすけて≫

≪たすけて≫


「だァ、もう、うるせえなあ、分かったよ。」


 振り返って武器庫に戻るが誰もいない。


「いよいよイカレちまったか?」


 置きっぱなしていたスポーツバッグを手にとって、とっとと、この物騒な場所を去ろうと決めたそのとき、


 ()()()()()()()()()




 ~~~~~~~~~~~~


 雲の隙間から僅かに月明かりが差し込み、森の切れ目からちょろちょろと人が出入りしているのが見える。


 ここを越えられたら村は壊滅するだろう。

 種類こそバラバラで統一感のない姿だが、真っ暗い森と村のある小さな平地の境界線で月明かりに照らされた賊たちの姿は、まるで戦でも行うような鎧を着用したもの。

 馬のいななく声までする。どうやら賊は馬を持ちだしてきたらしい。馬はやたらに餌を食うし、毎日手入れをしてやらないとすぐに病気に掛かってしまう。そんな高級品を持ち出してくるあたり賊の本気度がうかがえた。

 四方を山賊に囲まれた開拓村。

 調査のために立ち寄っただけなのに、どうして今日の今日襲撃されるのか。魔術師ギークは長い溜息を吐いた。

 どうみたってただの開拓村だ。掘っ立て小屋が立ち並ぶ。完全武装で奪う価値のあるものがあるとも思えない。

 頑丈な石造りの教会の一番安全な2階の鐘撞き場






 村に男は五人ほどしか残っていない。残りは皆、山賊を外から誘導して、術の範囲内に収める遊撃隊にしてしまった。一人でも防壁を抜けて入ってこられたらヤバいことだ。


 ――しかし、そうすると3ヶ月も掛けて構築した魔法陣が無駄になってしまう。


 構築するのに使った材料だけで、今までコツコツ貯めてきた魔道物質が半分以下になっている。ギークにとっては、まさに、魔道人生、一世一代の大舞台なのだ。どうせ準備したのだから、使いたい。使わずに撤去作業をするのは危険だし、面倒だ。


 村に架かっていた橋は、この一か所を除いて全部落とした。村に残してきた男たち=見張り役からも、賊が堀を渡ってきたときのために渡してある信号弾は発射されていない。


 この膠着状態に嫌気が差したのか、一人の勇気ある賊が、パイクを乗り越え侵入を図った。そのとき、



 パ――ン



 遠くで鳴る発砲音。一拍遅れで眩く光が森を照らす。続けて色々な方向から同じ音が聞こえてくる。森が、まるで日中のように明るくなる。


 山賊たちは何事か、とあたりを見回す。もと来た道を逃げ帰っていくもの、いや、そっちは罠だ、と平野部分に殺到するもの。蜂の巣をつついたような騒ぎになる。馬がパニックを起こして走り去っていった。



(頃合いか。)


「~~~~~~」


 口の中で、焔を司る神への祈りを唱え、掌から火種を放り投げる。


 次の瞬間、堀から上がる爆炎。堀の中を、巨大な大蛇の如き炎が駆け抜けていく。


 即座にその場を離れ、村で一つだけしか無い教会へと走って、その三階、大きな鐘のある場所まで辿りつくと、急いで鐘を、三回鳴らした。



「おお~」


 自分で構築した術であるが、あまりの光景に恍惚となる。眼前を伸びていく炎の蛇。


 もう少し高いところから見れば、村を中心に同心円が3つ。その間に網の目のように縦線が走った、巨大な炎の魔法陣が拝めたことだろう。


(『炎の壁』と名付けたが、これは『炎蛇の一噛み』の方が相応しかったか?)


 近場で響く爆発音。物見台の上から男たちが次々と放つ、手投げ弾。


『炸裂する閃光』


 ギークが魔術大学で博士号を取るときに造った魔道兵器が、平野に集まった賊たちを次々と切り裂いて行く。



「フハ、フハハハハハハハ!!見たか、俗人ども!これが魔術大学、始まって以来の超天才(学科)、『業火の魔術師』ギーク様の『超魔術』ダッ!!!」




「ギークさまッ!報告します。南の防壁が一部破られ、敵が次々と侵入してきていますッ!!」


 息を切らしながら、3階まで上がってきた、物見の男。

 思いっきりエビぞりになって、カッコいいポーズで決めていたギークだったが、恥ずかしいところを見られ、赤面する。


「何だと?」


 報告してきた男を押しのけ、南の防壁を確認する。


 丸太で出来た防壁が一部延焼し、偶々外側に倒れて、堀の上に橋のように架かっている。


「そんな馬鹿な!?」


 その橋を抜けて、次々と殺到する敵。


(しかしッ!堀はまだ燃えているッ!!橋の上だって、熱くて動けたものではないはず!!)


 ギークは、現在まで、一度も戦場に出たことがなかった。戦場では、『死』を覚悟した勇敢な兵士、『死兵』と化したいくさ人たちが、机上では完璧な作戦をひっくり返すなんて良くあることなのだ。


「ご指示を!!」


 後ろから声が掛かる。

 振り返ると、先程の伝令がこの状況を覆すナイスな作戦を求めて、キラキラした目でギークを見ていた。


「~ッ」


 作戦など無い。ギークは魔術師であって、軍師ではないのだ。自らの魔術を炸裂させたら、敵もあまりの威力に恐れをなして逃げ帰るだろう。 ―そう考えていた。


 村の南の方で上がる、断末魔の声。見張りの男が賊の迎撃に出て、殺されてしまったのだろう。


(か、考えてないなんて言えない。)


「~~~~」


 必死に考えるが何も案は浮かばない。伝令に来た男も、少し不信の色を見せてきた。


 ―繰り返すが、ギークは魔術師であって、軍師ではないのだ。ここに魔術師として派遣されてきた。本来、指揮をとるべきは村長だろう。


 だけれども、何も言わないわけにはいかない。考えが纏まらないまま、ギークは口を開く。


「」


 そのとき、突然、大地が揺れた。思わず鐘を吊り下げている柱にしがみつくふたりの男。


≪本当に助けに来てくれた。≫


 頭の中で声が響いた。


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