3/19
月の宮殿
「また、来てくれますか?」
別れ際に寂しげな顔を浮かべて毎回言う。
はて、これを言うのは誰だろうか。
散々に体を弄られ身勝手に果てられて、浮かぶ感情は怒りであり憤りであり悲しみであるべきだ。
もう慣れたもの。
名残惜しげに去っていく男を他人事のように見送ると、途端に糸が切れた操り人形のように床に崩れ落ちた。
膝を抱えてすすり泣いてみる。
自分の哀れな境遇に。
でももう慣れたもの。
それも他人事に思う。
冷めた心で別れ際の男の名残惜しげな目を思い出し、あの客はまた来るだろうと僅かばかりの達成感を覚える。
「ハハッ」
笑うしかない。
あの客で今日は最後。
だからいくら泣いても大丈夫、と打算が働く。
ーーなぜ、私は真面目に娼婦をやってるんだろうか?
他の人らと比べたらマシだ、と心は言う。
逆らえば殺される。見せしめに残虐に。
生皮を生きながらに剥がされて地下室に転がされるのは嫌だ。
立ち上がり外を見る。
他の建物より頭一つ抜き出た娼館の窓は小さいが、遠く王宮まで見渡せる。
月明かりを受けて鈍く輝く丸屋根。
月の宮殿を眺め思う。