the A team
「しつけえぞアバズレっ!」
突き飛ばされてゴミ箱に突っ込む。
「なんだいせっかくしゃぶってやろうってのにさ、たったの5ドルでいいってんだよしみったれっ、ケチっ!」
路地裏のゴミ箱には生ゴミ、夏の暑さでむせるほどのすえた臭いがする。
散々男に悪態をついてアイリーンは立ち上がる。
アイリーンといってもアジア系、偽名だ。
元は形の良かった顔立ちもどこかやつれてくすんでしまった。
アイリーンは18歳から通りに立っている。
そろそろ潮時なんだろう、女の春は短い。
日に日に客が取れなくなってきている。
思い浮かぶのは先月死んだジョセという婆さんのこと。
「歯がなくなってからしゃぶるのが上手くなったよ」と、ニヘラニヘラ笑っていた。
当然70過ぎた婆さんに客がつくわけもなく、路地裏の残飯を漁って生きていた。
「あたしももう潮時かな」
まだ23歳だ。
だけども若い子がひっきりなしに通りにやって来る。
顔を撫ぜる手が震えていて、薬が切れてきたことを教えてくれた。
頭の中で死という言葉がよぎる。
死んでしまえば楽になれる。
分かってはいるけど死ねはしない。
もし死ぬのだったら、もっと早く死んでいた。
今更、こんなに汚れてしまった今更、死んで一体、なんだってんだ。
始めた当初は泣いていた。
きっと誰かが助けてくれる。なんとかなると信じてた。
誰が好き好んで鼻の下伸ばしたおっさんなんかに股開くもんか。
IDが無けりゃバイトも出来ない。
親が死んだのは16のときで、それから暫く男の家を転々としていた。
どいつもこいつも身体目当てだ。
だったらいっそのこと直接売った方がマシじゃないか。
稼いだお金は貯めていたけど、当時の男に持ち逃げされた。
まあ、娼婦と知りながら付き合う彼氏に人間性なんて期待できない。
自暴自棄になって薬に手を出し、依存してどうにもなくなり彼氏も作れなくなり、もう橋の下に住むしかなくなった。
「おはよう、エド。今日も一曲お願いよ」
最近橋の下に変な奴が潜り込んできた。
5ドルをそいつのギターケースに放り込み、目の前に座り込む。
気まずそうに真っ赤になって目をそらすそいつの反応が、欲望にすり減らされたアイリーンにとっては好ましく思えた。
「HEY! 何見てんのさ、さっさとしないと5ドル返してもらうよ」
慌ててギターを鳴らすそいつ。
空気が変わって、
ヤク中の女がすり減っていく歌。
なんて選曲だい。
けれど、
救われない結末だけど、
何故かホッとする。
こいつはきっと大物になる。
すり減った心に歌声が沁みた。