女1
暗い中、シャワーを浴びている描写
スタイルの描写。やっと肩口まで伸びてきた黒髪
主人公、脱衣所にでる。
窓から差し込む月明りは、シャワーの飛沫を反射して輝かせながら、湯船の水面に美しく着地する。
外から聴こえる虫の音も、暗い中では冴えざえと聴こえた。
シャワーを浴びながら窓を見透すと、簡易プラネタリウムといった感じで、とても綺麗だ。
窓に自分の顔が映った気がして、スッと視線を下げた。
おっと、いけない。
見つめてはいけない。魂を持っていかれてしまう。
自分の乳房が目に入る。大きくはないが、形は悪くないと思う。
華奢な骨格に張り詰めた白い肌が、月の光に照らされて、妖しく蒼く浮かび上がっている。
やっと肩口まで伸びてきた黒髪は、またサイドポニーにでもしてみようかな。
何気に手で髪を横に纏めて窓を見た。見つめてしまった。
ああ、なんで、私が
私がこんな境遇に落ちなきゃいけなかったんだ。
泣いてはいけない。
涙を受け止める瞼は、もう無いのだから。
「ひっ」
不意に聞こえた驚く声に、逆にこっちの心臓が止まりそうになる。シャワーをとめて、体を拭こうと脱衣所に出てきたときに鉢合わせた。
「うあ…」
ながらく使っていなかった私の舌は、上手く次の言葉を紡げない。
私の願いも虚しく、パチリ、と電気を点けられた。
お互いに引き攣るような顔で、数瞬の間。
そして会話がはじまった。
「…っ姉さん、いたんだ。もう一人で部屋から出れるんだね」
コッソリ部屋を抜け出して彼氏のところにでも行っていたのだろう。見たこともないほど艶のある顔をした少女がそこに居た。
ナニしてたんだか
「まあ、ね。流石に、い、1年近く篭っていたら、ね」
歯の間から空気を漏らすように一息に言った。
そこでまた間が空いた。
このままではマズイと継ぎ足して言う。
「シャワー浴びるんでしょ? わたし、もう上がったから…すぐ体拭くから、あと入りなよ」
なるべく気安く、以前のように。ニッコリ笑ってサムズアップした。
「あ、あとで入るよっ」
妹は小動物のようにビクリと震えて、逃げるように2階の部屋に駆けていく。
私は上手く笑えなかったのだろうか?
洗面台の鏡を覗き込む。
素っ裸で片手を腰に当て、仁王立ちした化け物がサムズアップしていた。
ダダダダっと音がして、階段を降りてきた妹が、脱衣所の向こうから器用に手だけ伸ばして、パチリ、と電気を消して、また走って戻って行った。
やっぱりウチの妹は優しいなあ
暗闇の中で思う。ヨダレがポタリと床に落ちる。唇の肉も削られたので、抑えがきかないのだ。
気を取り直してタオルを探す。
私には瞼も、鼻も、唇もない。
皆の厚意で生き永らえた、ただの一個の化け物だ。