シスコンな妹は姉の結婚式にご不満な様子です。
結婚式。女の子なら、誰もが憧れる人生最大のイベントだ。
でも。
「むぅぅぅー……」
教会の椅子に大人しく座りながらも、私は。
もやもやする胸に戸惑っていた。
今日は、大好きなお姉ちゃんの結婚式。まだ高校一年の私とは、少し年が離れてるんだけど。
美人で、優しくて。いつも私のこと大事にしてくれる、自慢のお姉ちゃん!
そんなお姉ちゃんのことを、男の人たちも放っておくわけなくて。
昔から私が、「がるるるるるるるる!」と威嚇して追い払ってきたのだけど。
……とうとう、この日が来ちゃいました。
「うわ、お姉ちゃん綺麗……」
思わず見惚れる、花嫁姿。
それが、すごく悔しくて。隣の花婿さんが、妬ましくて、羨ましくて。
ふと思い出す、昨晩の会話。
『ふふ、私がいなくなっても、寂しいからって泣いちゃだめよ?』
『はぁ? 私、そんな子供じゃないもん! お姉ちゃんなんて、どこにでも行けば?』
そんな強がりを言った。
……私の嘘つき。もっと素直になれば良かった。甘えちゃえば良かった。
これが、最後だったのだから。今夜から、大好きなお姉ちゃんは。男の人のモノになってしまうのだから。
「む、むぐぐぐぐ! べ、別に私! お姉ちゃんのことなんて何とも思ってないし!」
そう自分に言い聞かせる。もやもやした気持ちに蓋をする。
ふと、神父さんの前に立ったお姉ちゃんが振り返り。私と視線が交錯する。
「……ふふっ」
にこっと。天使様のように微笑むお姉ちゃんの笑顔に。かぁっと、頬が熱くなる。
お姉ちゃん、やっぱり綺麗だ。私だけの、お姉ちゃんでいてほしい。
私に困らされて、それでも優しく頭を撫でてくれる。そんなお姉ちゃんのままでいてほしい。
(でも、だめよ。そんなのだめ! お姉ちゃんは、これから幸せになるんだから……!)
ずきずき痛む胸に、雨降りの心に。
もうあの人は、「私だけのお姉ちゃん」ではなくなるんだよと。言い聞かせるけれど。
「汝、病める時も健やかなる時も、この者を愛し続けると誓うか?」
「誓います」
「……誓います」
ああ、お姉ちゃんは誓ってしまった。
結婚式のクライマックス。あとは、誓いのキスを残すのみ。
ああ、お幸せに。大好きなお姉ちゃん。あなたは遠いところに行ってしまっても。
私はきっと、変わらずに。ずっと、大好きなままだよ……?
「うぅぅぅぅぅぅ……っ!」
腿に爪を立てる。唇を噛み締める。
そんな私の目の前で。
花婿さんは、お姉ちゃんのヴェールを払い。二人は、唇を近付けて……。
「やっぱり、だめぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇッ!!!!!」
叫んでいた。全身の力を振り絞り、叫んでいた。
教会のステンドグラスをびりびり震わせて、私の声は響き渡っていた。
「お姉ちゃんは! 私のなんだからぁぁぁぁーっ!?」
ごめんねお姉ちゃん。ごめんねお姉ちゃん。ごめんねお姉ちゃん!
でもやっぱり、こんなの無理だよ。耐えられないよ。
お姉ちゃんが、私以外を見るなんて。私以外と……キスを交わすなんて。
「男は! 近づくなぁぁぁぁぁーッッ!!!!」
がるるるるるるるる!!
花婿さんを威嚇! 私は驚いてるお姉ちゃんの手を引き……教会から逃げ出した。
・ ・ ・
「はぁ、はぁ……」
どれくらい駆けただろう。花嫁衣装のままのお姉ちゃんを引っ張って、息が切れるまで無我夢中に走り続けた私。
風渡る緑の丘の上で、ようやく息をつく。
「……もう、困った子なんだから」
頬に手を当て、ため息を吐くお姉ちゃん。
「だ、だって……!」
大胆なことをしでかしたとは思う。顔が赤くなる。
これじゃ、家にだって帰れない。でもお姉ちゃんが傍にいれば、それだけでいいの。
「お姉ちゃんは、私のだもん。ずっと、ずぅっと! 私と一緒にいるの! それ以外認めないんだからね!?」
泣きながら叫ぶ私。でも、これが偽らない想い。
私のお姉ちゃんは、誰にも渡さない。
「ふふ、分かったわよ」
やれやれ、と肩を竦めたかと思うと。優しく笑って、お姉ちゃんは。
「……お姉ちゃん?」
私の頬を掌で包み、顔を近付けて。
「こんなことして。責任、取ってよね?」
……ちゅう。
唇を、重ねてきた。
「え、えええええええええええええッッ!?」
と、突然のキス!? わ、私! お姉ちゃんに、キスされたぁッ!?
「ずっと、あなたのお姉ちゃんでいてあげるから。これは、誓いのキスよ♪」
悪戯っぽく笑うお姉ちゃん。ああ、これは、この口づけは。
まるで、結婚のキス。この緑の丘が、私達姉妹の結婚式場。
うん、私達はずっと、お互いの一番。姉は妹を、妹は姉を愛し続ける。
もちろん、私だって。ずっと、ずっと。お姉ちゃんのモノだよ。
キスの感触に、残り香に照れながら。私も、にっこり笑って。
もう一度、キスをせがんだ。
映画「卒業」の、花嫁を連れて逃げちゃうシーンを参考に執筆。
でも百合は! 卒業できませんから!!