彼女は考える
学生ってこんなものだよね
私は変わった人間だ。
彼女は自分をそう評していた。事実彼女は変人と呼ばれていたしそれを否定しなかった。しかし彼女としては、変わっているのは周りであって自分はごく当たり前の行動をしているに過ぎないと思っていた。だから、正確には彼女は自分が周りから変わっているといわれても仕方がない人間だと思っているのだった。
彼女は朝礼前の時間も、トイレに行くときも、教室移動の途中も一人だった。別段それを寂しいとは思わなかったし、むしろ一緒に誰かいてくれても困るとさえ考えていた。
彼女は大抵考え事に夢中で、話しかけられても生返事しかしないことを自覚していたので、相手に悪いと思っているからだ。
どうせ相手をしないのだから、最初からいない方がいい。
唯一の例外はお昼休みで、物好きなクラスメイトと弁当を食べていた。仲がいいというほどでもないくらいの、仲ではあったが。少なくとも相手の「親友」は他にいて、自分はただの「友達」かそれ以下だというのは分かった。
彼女にとっての興味は本だった。乱読するタイプで、なんでも読んだ。気になることはもっとよく知りたい。理解を深めるためコミュニケーションさえ放棄して思考を進めた。
関心のあること以外は全てどうでもいいと思っている冷たい人間。
彼女は自分をそう表した。
考え事をするだけで生きていければいいのに。
彼女は常々そう思っていたし、それを即無理だなと決めつける自分の思考に嫌気が差していた。
ある日。
いつにもまして誰も私に話しかけてこないな。
と彼女は感じた。別段困ることはなかった。
数日たって、クラスで席替えがあった。いつものように考え事をしているといつのまにか終わっていたらしく、適当に空いている席に座った。
数か月が過ぎた。
彼女は思考を巡らし、本を読み、また思考を巡らした。
(――さん、出るんだって)
(友達とか、いないんでしょう)
(――図書室の幽霊)
にぶい彼女でもその噂は聞いた。
どうやら自分のあだ名は図書室の幽霊らしい。特に思うところはなかった。
帰り道。
彼女の通学路は墓場の横を通る。幽霊というあだ名は、このことを知っていた誰かが言ったのかもしれない。
ぼうっと歩いていると、例の昼食を一緒に食べてくれる物好きな知り合いが、制服のまま墓場に入っていくのが見えた。
珍しいこともあるものだ。学生が、彼岸でもないのに一人で墓になど。
彼女の家の墓もここだ。せっかくだから、彼女に声をかけてわけを尋ねるついでに挨拶して行こう。
桶を手に取り、水を汲んで、彼女は件の知り合いが歩いて行った方へ向かう。自分の家の墓とも同じ方向だった。
「こんにちは」
声をかけると、知り合いは彼女の家の墓にいた。両手を合わせて目つぶり、彼女の声に応じなかったその知り合いがつぶいた。
「――さん、死んでまで図書室に行くなんて、本当に本がすきななのね。でも、安らかに眠ってもらいたいわ……」
それは紛れもなく自分の名前で、彼女は持っていた桶を落としてしまった。
しかし、それは幻で、実際彼女は桶なんてもっていなかった。
身体がないのだから当然だ。
死んでいた。
とっくの昔に死んでいた。
関心のないことには自分の死ですら気づかない。
かといって今更なにをどうすることもできない。
考え事をするだけで生きていければ良かった彼女は、今や考えることしかできなかった。
閲覧ありがとうございました。