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花咲侠者 7

 草原街グラスラードから、テツオという転生者を迎えて会合を開く当日。


 俺は、カナン商会の事務街支部にソアラ嬢を訪ねていた。

 会合の開催は、昼からだ。まだ三時間ほど余裕がある。にも関わらず、あえて事前にソアラ嬢を訪ねた理由は簡単だ。二人だけで話がしたかったのである。 


「すみませーん、ソアラお姉ちゃんはいますかー?」


 ショタ演技のまま、俺は店内に足を踏み入れた。商店という名に反して、物を売っている様子はない。事務所という方が正しいだろう。

 近くにいた、眼鏡をかけた頭の良さそうな男性が俺の姿を認め、近寄ってくる。


「君は――ええと、そっちの関係者かい?」


「そうです。ソアラお姉ちゃんから聞いてた特徴に当てはまるから、あなたがライオットさんですか?」


 ソアラ嬢いわく、とても頭が良い人。物静かで一見すると冷たい印象を受けるけど、でも実は優しくしてくれる人。眼鏡が似合ってて、いかにもインテリジェンスーって感じの人。


 なるほど、聞いていた通りの人物のようだ。

 やり手のビジネスマン特有の緊張感をまとっている。

 

「ソアラは、私のことは何と――? いえ、聞くべきことではありませんでしたね。呼んできます」


 彼から告白され、そしてソアラ嬢はそれを断ったと聞いていた。

 それを語るソアラ嬢は淡々としていて、なぜ断ったのか聞ける雰囲気ではなかったので、俺とヤハウェ君の間では腫れ物のような扱いとなっている。


 ライオット氏は、どこか元気がなかった。失恋の痛手をまだ引きずっているのであろうか。


 頑張れライオット君。俺の見る限り、脈有りである。それも、かなり。

 

「わ、キョーシャ君じゃない。どうしたの? まだ会合までは時間あるでしょ?」


「あのね、会合が始まるまでに、ナイショ話がしたかったんだ。少し時間くれないかな?」


「ええ? ヤハウェさんに内緒でってこと?」


 うんうん、と俺は頷いて見せた。

 別にいいけど、場所はどうしよっか、とソアラ嬢はしばし悩む。


「ライオットに頼んで、会議室借りてくるよ、そこでいい? 私の部屋でもいいんだけど、二人で話すにはちょっと狭いんだよね。あ、どうぞ上がって上がって」


 言いつつ、俺を店内へと招きいれるソアラ嬢であった。ライオット氏を捕まえ、会議室を借りるね、と一言だけで済ませている。


 振った振られたの関係にしては、経済的な援助とかは続いているらしい。


「お茶淹れてくるから、先に会議室に行っててくれる? ライオットが場所教えてくれるから」

 

「わかったー」


 給湯室がどこかにあるのか、ソアラ嬢が奥に引っ込んでしまうと、後には俺とライオット君が残された。これは好都合である。じゃあこちらへ、と先導し始める彼を制し、こっそりと耳打ちした。


「ね、ソアラお姉ちゃんのこと、まだ好き?」


「む」


 ぽりぽりと頬をかきながら、ちょっとバツの悪そうな顔を彼はした。

 それはそうだろう。自分が振られた話が広められている上に、子供にほじくられていい気がする人はいまい。しかし、前世三十四歳の俺から見れば君たちはまだ子供である。


「ごめんね、人の恋路に口を出す趣味はないんだけど。ソアラお姉ちゃん経由で、今日はライオットさんに頼み事をしにきたんだ。初対面なのに図々しくてごめんね? もしまだ気持ちが残ってるなら、お姉ちゃんの頼み事、聞いてくれないかな。いいとこ見せるチャンスだよ? 僕の見たところ、ソアラお姉ちゃんは押しに弱いと思う。めげずに頑張ればいけるかもよ?」


「キョーシャ君、お茶入ったよー」


「はーい、今行くー」


 考えといてくれると嬉しいな、とライオット君に言い残して俺はソアラ嬢の後をついていく。現時点で出来る限りの根回しというやつである。


 案内されたのは、大きな四角形に机が配置された会議室だった。二十人ほどが座れそうなそこで、俺とソアラ嬢は隣り合って座る。


「隈がすごいけど、どうしたの?」


「ん、ちょっと寝れてなくて」


 しょぼしょぼと彼女は目をこする。ぱっと見でもわかるほど、ソアラ嬢は目に隈を作っていた。

 

「ごめんね、まだ寝ていたかったかな――じゃあ、早速本題のナイショ話に入るね」


「ナイショ話ね、了解だよキョーシャ君。一体どんな話なのかな?」


 二人して、何やら悪巧みをする悪代官と越後屋のようにふっふっふと笑い合う。特に意味はない。こんなやり取りも今日で最後になるかと思うと、少し名残惜しかった。俺の年齢を知ってしまっては、今まで通りあけすけに話す間柄ではいられないだろう。


「真面目に話そうか。まず、俺は年齢退化の特典を持ってる。本当は三十四歳さ」


 口調も、素のときのものに戻した。

 思いもかけないカミングアウトだったのか、えええええ、と椅子三つ分ぐらいソアラ嬢は後ずさった。


「まあそうなるよね。なんで今わざわざそれをバラしたかというと、結構真面目な話になるからさ。そんなわけで、ちょっと真面目に聞いて欲しいんだけど」


「う、うん?」


「ヤハウェ君の商売が成功してるせいで、屋台とかがどんどん潰れてるって話、この前したでしょ? 結論から言うとね、あれのフォローをカナン商会にして欲しいんだ」


「どういうこと?」


 意外と混乱からはすぐに立ち直り、ソアラ嬢は俺に向き合った。

 彼女が真面目な顔をするところを初めて見たかもしれない。普段おちゃらけている彼女からは想像も付かない、厳しい表情だった。演技で外面を覆っているのは俺だけではないということだろう。


「多分ね、日本の基準で物を考えてるから、店が潰れるってことが軽く捉えられすぎてるんだ。こっちの世界の人たちは、貧しい。それこそ蓄えもなく、その日その日の稼ぎで飯を食ってる人だっている。そんな人たちがいま、大量に職を失ってるわけだ」


「なるほど。続けて」


「率直に言うとね、このままだと餓死者が出る。すでに路頭に迷ったり、子供を奴隷として身売りさせる人が出始めてる。俺が戸籍を作った教会が孤児院を兼ねてるんだけど、そこの子がはっきり俺に言ってきたよ。ヤハウェ君の店が出来たせいでこれから潰れる店が増える、孤児がどんどん増えて教会の経営が厳しくなるから、自分を買ってくれって」


「そこまで――」


「言っちゃなんだけど、それって俺たち転生者のせいだよね。ヤハウェ君一人を悪者にするのは簡単だけど、彼が稼いだお金で護衛を雇ったりとか、俺たち二人もその恩恵には預かってる。彼の次に、俺たち二人にも責任があると思うんだ。だから、尻拭いてやらなきゃと思ってさ」


 ソアラ嬢は絶句して、押し黙った。

 自分たちのせいで子供が身売りをしているという事実は、一般的な感性の日本人にはちと辛かろう。


「身の回りの人ぐらいなら、俺は一人でフォローできる。でも、それは根本的な解決にはならない。これだけ大きな市場の混乱だと、いち個人の力ではどうにもならない。だから、カナン商会の力を借りたい。これが今日、早めにここへ来た理由」


「カナン商会の力を借りるって言っても、具体的にはどんな? いくらライオットでも、お金下さいって言って素直にくれる人じゃないよ?」


「もちろんそうだね。俺が今考えてるのは、職にあぶれた人たちに、他の仕事を斡旋すること。例えば首都の外で石積みをしたり、畑を耕したり、商店の店員として雇ったりだとか。要は、カナン商会の力で働き口を作って、そこを職を失った人の受け皿にしたいんだ」


「それなら、何とか」


「そう? 提案しておいて何だけど、そんなにすぐ黒字になるような新規事業って、中々ないと思うよ。だから、頼みって形になるんだ。赤字になってまでやれとは言わないけど、採算ギリギリぐらいの仕事なら、ライオット君なら考えつくかと思ってね。君が話しているのを聞く限り、優秀な商人らしいから。これは、現場の商売を知り尽くしてる彼にしか頼めない。そして彼としては、そんな採算が取れるかわからない事業になんて、手を出す必要はないんだ、本来ならね。だから、君の口からライオット君に頼んで欲しい。そうでなきゃ、多分彼は動かない」


 じっと、俺はソアラ嬢を見つめた。

 彼女はうつむき気味に何かを考え込んでいたが、目が泳いでいる風ではない。感触は悪くなかった。


「うん、わかった。何とかする」


「ありがとう。上手くいったら、一つ借りにしておくよ。何かあれば呼んでくれ」


「用件は、それだけ?」


「そうだね。俺からはこれ以上何もない。そっちもないなら、昼の同盟会議でまた会いましょう、かな」


「ん、私の方もない。じゃあ、また後で」


「了解。ああ、それとね」


 未だ真面目な顔を崩そうとしていないソアラ嬢に、俺はいつものショタっ子スマイルで笑いかけた。


「外では、いつも通りの口調で話すね。よろしくね、ソアラお姉ちゃん!」


「ズコー」


 いまこの子、口でズコーって言っちゃった。しかも椅子からすべり落ちる振り付きである。いいリアクションだと言えよう。

 

 ソアラ嬢が俺の年齢のことをヤハウェ君にチクるようだと色々面倒なことになると思っていたが、この分では問題なさそうである。









「や、お二人ともお揃いで。まだテツオ氏は来ていませんので、今日の会議の方向性を復習しときましょうか」


 ぱっと見てわかるほどに、ヤハウェ君は上機嫌だった。

 対するソアラ嬢は、先ほどの俺の話を聞いてしまったからか、複雑そうな表情である。そんな彼女の様子に気づかず、ヤハウェ君は流れるように語りだした。


「基本的には、同盟に引き込むことを優先します。ただし、テツオ氏が他人を好んで襲撃するような危険人物だと困るので、会話である程度の情報を引き出す必要がありますね。スキル構成を教えないと同盟には入れないぞとか、そういう交渉をしていく必要があります。これは、私が皆さんを代表してやりますので、皆さんは自分の気になった点を彼に質問していってください」


 はーい、と朗らかに俺とソアラ嬢は返事をする。

 二人とも声色が演技であると判明してしまったいま、ヤハウェ君だけをのけ者にしているみたいで少々哀れではある。しかし、自分の損得に関わる問題には綺麗事を持ち込まないのが大人という生き物だ。

 ヤハウェ君は、金やレベルといった目に見えるものだけが力ではないということを知っているべきだった。


(この分だと、そのうち大きく敵を作りそうだな)


 独善的。

 自分が正しいと思い込み、他者の意見を聞かない性格。

 新興企業の社長に多く見受けられがちなその性格は、会社を発展させるには有利な気質だが、反面、会社を維持させるにあたってはマイナス面が大きい。


 同盟の抜け時(・・・・・・)をそろそろ見計らっておくべきだった。

 口に出しこそしないが、ソアラ嬢も似たようなことは考えているだろう。今日話した感じだと、素の彼女はとても冷静で賢い娘だ。この同盟の危うさに気づかないはずがない。


「主な条件を二つ、彼に提示しようと考えています。まず、全特典スキルの開示。

それと、定期的に居場所を報告するとか、行動予定を事前に必ず連絡させるなどの義務付けですね。これらは、彼が他人を襲わない人物だという保証をする意味でも必須だと思っています。彼がもし二人のように穏健派で、争いに関わらずにカケラロイヤルをやり過ごそうと思っているならば、武力によって守られたこの同盟に参加することは大きなメリットがあるはずですから、条件を飲むと思っています」


 ぱちぱちおーと、俺とソアラ嬢は拍手をする。

 ヤハウェ君の案は、それなりに、良く考えられてはいた。

 

 もしこの同盟が、いち個人がどう抵抗しようとも絶対に勝てないほどの圧倒的な力を持っているのなら、彼の提示は正しい。俺がもし彼の立場だったとしても、後半は似たような規則を作るはずだ。

 

 彼はおそらく、レベル1600のベアバルバ氏を引き込んだことで、自分たちの安全と地位が確保されたと考えているのだろう。


 しかし、俺はそうは思わない。

 ソアラ嬢は、どちらかというと穏健派だ。その彼女ですら、レベルは500に近い。ということは、レベル上げに専念している転生者ならば、もっと高レベルの人物もいるはずだ。転生者が特典スキルを使えることを加味すると、ベアバルバ氏と渡りあえる人物がそのうち出てくると考えるべきである。

 

 その状況になってしまえば、同盟に入るメリットは著しく低下する。

 身の安全が保証されるわけでもないのに、厳しい行動の制約を受け、その上カケラロイヤルを優勝できる可能性がまったくなくなるのだ。誰も入ろうとはしまい。


(俺がもし同盟の盟主なら――)


 今は条件を比較的緩くして、参加人数を増やすことを優先する。規律の引き締めは、後からでも出来るからだ。今は、同盟の戦力を少しでも増やすことに腐心するべきだった。


「お二人も、テツオ氏の言動で気になる点、不審に思う点があったら、どんどん突っ込んでください。彼が忍者ルンヌである可能性もありますからね」


 ぴくりと、俺とソアラ嬢は反応した。

 忍者ルンヌ。この首都に今も潜んでいるであろう、暗殺者。


 この同盟を成立させている最も大きな要因の一つである、外敵の存在だ。

 ここのところ死亡ログのアナウンスがない、つまり被害者が出ていないのは喜ばしいことだが、それは一方で忍者ルンヌが活動を控え、どこかに潜伏しているという意味でもある。不気味であった。


 ――りりぃん。


 聞き慣れた、屋敷の玄関に備え付けられた鈴の音が聞こえたことで、俺たちはみな口をつぐんだ。本日のメインイベント、テツオ氏が来訪したのだろう。


 執事のミハイル氏が、厳かに階下へと降りていく足音、そして玄関先で客と何やら話している声が聞こえる。その間、俺たちは何も喋らなかった。三人ともそれなりに緊張していて、表情もどこか硬い。


 無理もない。面識のない転生者と久々に会う上に、彼が敵となるか味方となるかわからないのだから。


 こつこつと、階段を上がってくる足音は、二人分が聞こえる。

 この状況下で執事のミハイル氏が一般客を家に上げるわけがない。間違いなく、テツオ氏が来ているのだ。


「皆様、テツオ様がお見えになりました」


「お招きに預かりました、盤台哲雄です。カケラロイヤルの今後の展望について話し合いたいと伺いましたが?」


「よく来てくれました。この同盟の盟主、ヤハウェ・コンスタンティです」


 ミハイル氏に続いて部屋の中へ入ってきたのは――なるほど、確かに異装の人物であった。

 

 着ているのは、このリングワールドにおいてまず存在しないであろう、藍染めの甚平だ。そして、本来であれば脛が露出しているであろう膝から下は、なんと革のブーツである。俺も最近革鎧を買ったからわかるが、あれはただの靴ではなく、革鎧の足部分だ。


(和服の履物といえば、草鞋わらじとか下駄じゃないんだろうか)


 ミスマッチかと思いきや、意外なことに甚平とブーツはそこそこ調和している。


 次に目を奪うのは、肩の後ろに見える銀の十字架だ。あれは、剣の柄だ。彼の身長ほどもある大きな剣を、肩からかけた革ベルトのようなもので背負っている。


(武装してきたか)


 ベアバルバ氏が脇に控えているので命の危険は感じていないものの、やはり身近に武器を持った人物がいるというのは一定の威圧感があり、俺たちの顔から緊張の色は消えない。


 とはいえ、見た目は、生前の俺と同年代ぐらいのおっさんである。

 柔和な微笑みを浮かべ、眼鏡をかけた、どこにでもいそうなおっさんだ。

 カナン商会の店員が調べてきた情報通り、穏やかで温厚そうな人物だったために、俺は一瞬気を抜いた。


 その評価が一変するのは、彼のステータスを覗き込んだ瞬間である。


【種族】人間(転生者)

【名前】テツオ・バンダイ

【レベル】211

【カケラ】3


(複数カケラ持ち――!!)


 俺の警戒度は一気に跳ね上がった。

 それはヤハウェ君も同様だったようで、おそらく彼のステータスを見たのだろう、一瞬で顔色を変えた。ソアラ嬢だけは彼のステータスを見るのを忘れているのか、いつも通りの表情だった。


「見ての通り、皆さんお茶を楽しまれておいでです。背中のものをお預かりしても?」


「ご無用に願います。近くに剣がないと落ち着かない性分でしてね」


 ヤハウェ君の言葉を受け、執事のミハイル氏が近づいていくが、テツオ氏はそれを一顧だにせず自ら椅子を引いてそこに座った。背中の長い剣を取り外し、懐に抱くようにして座っている。


(交渉は難航しそうだな)


 提案を断られたヤハウェ君の方はというと、怒りで少し顔を紅潮させている。

 まずは武器を取り上げ、高圧的に接して同盟に組み込もうという目論みが真っ向から拒否された形だ。


「言い方を変えましょう。武器を預けて頂きたい。これから対等な話し合いをするにあたり、そちらだけ武器を携行されたままというのは館の主として、そして同盟の盟主として見過ごせません」


(あちゃー)


 ヤハウェ君は、正面から突っかかっていってしまった。表情には出さず、俺は内心で顔を覆う。このあたりの駆け引きが単純で幼稚なのは、やはり十六歳という若さ故であろう。


 高圧的な態度というのは、効く相手にはとことん効果的だが、効かない相手だと心証が著しく悪化する。明らかに、テツオ氏は後者であった。


「ふむ――四対一で待ち構え、そのうちの一人はレベル1600超え。この状況で、さらに相手から武器を取り上げようとしておいて、対等な話し合い、ねえ。君は鏡を見てきた方がいいんじゃないかな?」


 この短期間で、自己の客観視が足りないという欠点を相手に見抜かれる我らが盟主であった。

 どっしりと椅子に落ち着いているテツオ氏と、今にも椅子から立ち上がらんばかりのヤハウェ君。役者が二、三枚は違っている。


「なら、質問を変えましょう。あなたはカケラを三つも持っている。増えた二つをどこで手に入れました? いえ、はっきりと言いましょうか。忍者ルンヌとはあなたのことですね? フヒト氏とジン氏、忍者ルンヌが手にかけたと思われる人たちのカケラの数とちょうど同じだ」


「違うとも。カケラは二つとも、行きずりの親切な転生者から貰ったのさ」


「そんなことを、信じられるわけがない!」


「なら、逆に聞くが――君たち三人の中で、盟主の君だけカケラを二つ持っているね。それは一体誰を殺して手に入れたカケラだい?」 


(そりゃ、そこを突っ込んでくるよなあ)


 所持しているカケラの数は、ヤハウェ君が二個、俺とソアラ嬢が一つずつ。

 忍者ルンヌが地震騒ぎの元凶であるジンを殺害して去っていったときに、おこぼれで手に入れた物だということを俺たちは知っているが、それを相手が信じるかどうかは別の話だ。


「これは他の転生者同士の争いの際に、たまたま手に入れたものだ。他の二人がそれを証言してくれる」


「意味がないね。仲間内で口裏を合わせていたら確証の取りようがない」


「なら、どうしろっていうんだ!」


 完全にヤハウェ君はヒートアップしている。

 盟主としては不適格だと思ってはいたが、思ったよりも早く弱さが露呈してしまっていた。


「それはこちらが聞きたいよ。客を圧倒的な戦力差で取り囲んでおきながら武器を預けろという。自分の方は潔白を証明できないのに相手のカケラの数を問題にして難詰する。一体何のために僕を呼んだのかな? ええと、ぷっ――ヤハウェ君、だっけ?」


(煽るねえ)


 内心で俺は噴き出す。


 キリスト教の神様の名前を自分で名乗るヤハウェ君を、テツオ氏は鼻で笑ってみせた。もちろん相手をおちょくるための演技なのだろうが、効果は抜群である。

 ご丁寧に君付けで呼ぶあたり、この厨二病が、と言外で馬鹿にしたのと同義であった。


(そろそろ仲裁に入るか)


 このままだとテツオ氏は帰ってしまうだろう。

 というより、ヤハウェ君のキレっぷりが尋常ではないので、テツオ氏の拘束をベアバルバ氏に命じかねない。


 いくらなんでもそこまで馬鹿ではないと思うが、万が一戦闘に発展してしまったら、俺とソアラ嬢まで同類かつ共犯になってしまう。


「そろそろ二人とも落ち着こう? ヤハウェお兄ちゃんも、すぐ怒っちゃダメだよ。ベアバルバさんがいて僕たちは安全なんだから、剣の一本ぐらい許してあげようよ」


 正確には、テツオ氏はずっと落ち着いてるんだけどね。


「む――キョーシャ君が、そう言うなら」


 しぶしぶと言った体で、ヤハウェ君は椅子に座りなおす。

 テツオ氏はというと、元から微動だにしていなかったものの、懐に抱いた剣の鞘をさわさわと触っていた。特に意味のある動作だとは思えないが、気のせいか、どことなくほっこりしているように見える。よほど剣が好きなのだろうか?

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