神流崎秀也 生前
神流崎秀也の享年は、十六歳である。死因は交通事故であった。
もっとも、事故の責任は本人にある。
若者のバイク離れが囁かれるようになって久しいが、彼はバイクは格好いいものという信条の持ち主であった。見た目の格好良さという点においては、しょせん原付なのでたかが知れていたが、行動範囲は自転車のそれに比べると大幅に広がるだろう。
土日には近所のコンビニでバイトをし、小金を稼ぐ。たった数万といえど、高校生には大金である。その上、バイクを持っていて行動範囲も広い。遠出をして、色々な遊び方を知っている。
秀也の考える格好いい男とは、そういうものだった。
十六歳を迎えたばかりの彼は、待ちに待ったとばかりに原付免許を取得し、親にねだって買ってもらった電動バイクを駆って、颯爽と初めての公道へと試運転をさせた結果、優先道路の表示を見落として速度を落とさずに十字路を進み、横の道から現れたトラックに撥ねられた。
実走行時間が三分にも満たない118,700円の電動バイクを道連れに、彼は十六歳の生涯を閉じた。
バイクショップの店員の受け売りそのままに、秀也が親を説き伏せてわざわざ高いバイクを購入した理由の一つ、「地球環境にも配慮した、バッテリーを交換すれば半永久的に使えるエコな電動バイク」はその性能を発揮せず終いであった。