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「これは快適だなあ。風は気持ちいいし、のどかにあったかい、と。眠くなってくるぜ」


 あたしは今、馬車に揺られている。馬車といっても、一人乗り専用の小さな馬車だ。それを、一頭の白馬に曳かせて、隣の街へと向けて旅しているところである。


 隣町へと向かう旅路の目的は、他の転生者を傘下に従えるためだ。つまり、カケラロイヤルを勝ち抜くため、部下を増やしに向かっているのである。


 ゲーム開始から、言い換えればこの世界に転生してから十日が経ち、あたしのレベルは150を超えた。


 完成した銃器の殺傷力は、目を見張るほどのものだった。一射あたりの破壊力は弓矢と同等か少し落ちるぐらいであったが、何せ銃であるからして連射が可能な上に飛距離が長い。


(しかも、だ)

 

 魔力感知スキルでかなり手前から敵を察知できる上に、射術スキルのおかげで的を外すことはない。弾頭は貫通力を重視した、先の尖ったものだから、オークエリートのときのように、頑丈な肉体に阻まれるということもない。

 

(あたしってば、超強い)


 銃は、四丁作成した。一撃の破壊力を重視したハンドガンを二丁、連射力に優れたマックイレブンを二丁だ。

 

 ハンドガンについては、マグナムと呼ぶべきかもしれない。威力を高めるために銃弾を太く長くし、同時にマグナム本体もデカく丈夫に作ってある。イメージしたのは、ルパンの相棒である次元が持っている銃だ。スミスアンドウェッソンとかって名前だったはずだ。


 当然、銃自体の重量も、射撃時の反動も増えてしまったが、レベルアップに伴い筋力値が上がったあたしなら問題ない。そこらに生えていた木に試し撃ちをしたところ、数発も撃つ前に木の幹を砕いてしまったのは笑い話だが。



(動くなら、今かな)


 向かうところ敵なしの今のうちに、あたしは部下を増やすことにした。

 今のあたしは恐らく、全転生者の誰よりも強いだろう。だが、それがいつまでも続くとは限らない。

 

 レベルが上がると、身体も丈夫になるのだと、あの神様は言っていた。

 つまり、いつかは鉄の銃弾が通用しない敵が出てくるのだ。それはより強い魔物かもしれないし、レベルを上げまくった転生者かもしれない。

 銃と弾を鉄ではなく、さらに硬い特殊な金属に変えることで一時的に最強の座は取り戻せるかもしれないが、それだってさらに時間が経ったら通用しなくなるかもしれない。いたちごっこなのだ。


 だから、あたしがゲームクリアに向けて動くなら、最強である今のうちなのだ。 

 今のうちに、仲間を増やし、保険をかけまくっておいて、逃げ切り勝ちをする。それが、あたしの必勝法だ。


「んっんー。前途は洋々、天気も陽々、のんびり寝転がって縁側気分ってか? 商店街の田中のばあちゃんちに上がりこんで茶菓子おごってもらったとき以来だなあ、こんなにくつろぐの」


 あの商店街へはもう行けないということに一抹の寂しさを覚えるが、死んでしまった以上、仕方がない。じっちゃんばっちゃんたち、あたしはこっちの世界で元気にやっています。


(寝心地も最高だし)


 満足に舗装されていない道なので、ところどころに飛び出た石を車輪が踏むたびに、がたごとと馬車は揺れる。しかし、あたしの寝転がっている寝台にはふっかふかの羽毛布団が敷いてあるので、まったく気にならない。むしろ、ほどよい揺れが眠気を誘発して心地良いぐらいだ。

 ちょっとグロかったが、我慢して肉屋で鳥の羽根を分けてもらって正解だったと言えよう。羽毛布団は、裁縫スキルを使った自作品なのだ。


 馬こそ魔石を売った金で購入したものの、自作といえば、馬車もそうである。

 見本としての馬車なら、そこらじゅうにあった。真似するのは簡単である。

 

 あたし一人が寝られればいいから、馬車は小振りである。屋根つきの寝台の足元に、四脚の車輪を付けただけだ。あとは、馬が急にブレーキをかけても荷台が馬に追突しないように、お互いの距離を棒で固定する器具を取り付け、完成。


 外から見ただけだと、天蓋付きのベッドを馬が牽引してるように見えるかもしれない。あたしが乗っていても、全体的に軽めに作った寝台は馬としても曳くのが楽なようで、時速20キロほどの並足で進んでいる。牧場のそれのように、のそのそとしか進んでいない馬車とは大違いだ。


「ん、せっかくいい気分で寝ようとしてたのに、お客さんか」


 魔力感知スキルに、後方から迫ってくる生物の一団が引っかかっていた。ぐんぐん距離を詰めてきているので、速さからして恐らくは狼か何かだろう。 

 

 あたしは寝台の枠から、屋根に飛び乗った。後方から、魔物と思しき狼の群れが追ってきている。


 薄いピンク色のミニスカートの両端を、あたしは指で持ち上げた。

 ニーソックスの太ももの部分に取り付けたホルスターが露になる。


 あたしは二丁のマグナムを引き抜くと、無造作に引き金を絞った。

 一発ごとにすさまじい反動が来るが、強引に腕力で押さえ込んで連射する。


 ものの一秒ほど、ほんのわずかの間に、左右合計で七発の弾丸が発射された。自分のことながら、あまりの手元の速さに笑ってしまった。上級者がやる太鼓の達人のようだった。


 はるか遠く、後方に迫っていた狼たちは次々と倒れこみ、追ってくる影は見えなくなった。


「もう終わったからそのまま走ってな」


 突然発せられた射撃音に馬が驚いて猛ダッシュを始めたので、銃身の先から発せられる硝煙を息で吹きつつ声をかけてやる。それなりの訓練はされている上にもともと賢い馬だったようで、すぐに平常心を取り戻して走る勢いを弛めた。


 あたしも、屋根から降りて寝台の羽毛布団に潜り込む。うん、今度こそのんびり寝よう。魔力感知スキルを展開させたまま寝れば、範囲内に他の生物が現れれば反応して起きれるだろう。


 次の街までは、この馬車でも半日近くかかるのだ。飽きるほど時間はある。

 やがてあたたかくて柔らかな毛布にくるまれ、あたしは幸せな眠りに落ちた。

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