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@Renka

「恋歌さん、僕と付き合って下さい!」

 朝一で告られた。

「ごめん、Aクン。年下には興味無いんだ」

「そんなぁ……」

 だって、急に言われても。

 しかも、こっちは究極に好きな人がいるもの。

「じゃ、ね」

 私はそう言い残して、会社の屋上からオフィスへと戻った。

「中野さん、今日、仕事終わったらご飯食べに行かない?」

 後ろの席から、体をひねって私の耳元で同期のBクンが囁いた。

「あー、無理」

「やっぱ、ダメかぁ」

 Bクンは毎日一回私を誘う。

 私はピシャッと断るんだけどね。

 どうして、私ってこうご縁がないんだろ? てか、あり過ぎか? いや、ナイ、だな。

 だって、私すごく男好きする女みたいなの。だから、モテル。しかも、かなり。

 でも、一度も自分の想いが叶ったことが無い。

「世の中、上手く出来てるなぁ」

 私はふうっと溜息を洩らした。

「中野君、ちょっと!」

 上司Cが私を呼んだ。

「はい」

 私がデスクの前に立つと、上司Cはいつものように口説き始めてくる。

「中野君が、私の息子の嫁になってくれると嬉しいんだが。今度息子と会ってくれないかな?」

「……」

 返答に困る私に、上司Cはやっと本題に入る。

「なにも、息子にどうしても、ってワケじゃないよ。僕で良かったら、色々と相談相手になるよ。どうかね?」

 出た! 必殺『息子』使いの口説き方。

 私は申し訳なさそうに伝える。

「結婚も、恋も、そういうの、私は興味ありませんので」

 私はサラッと言うと「失礼します」と自分の席へと着いた。

 今日も一日始まった。

 私はモテる。しかもかなり。

 けど、毎日寂しいんだなぁ、これが。

 自分の想いが伝わらない。

 というか、昔から好きな人に想いが通じたためしがない。

 中野恋歌、ハタチ。愛を求め日々彷徨う、孤独なモテ女。

「あー、もうっ」

 どうしてこうも、男どもが寄ってくる体質なのに、好きな人には適用されないの?

「なに溜息ついてんですか?」

 前のデスクの五十嵐さんが声をかけてきた。

「いや、何でもないです……」

 私は五十嵐さんを憎々しげに見た。

 酷いオトコ。

 私は毎日あなたにトキメいています。

 なんで、こんなに伝わんないんですか(怒)。

 私はまた一つ溜息をつき、私のお向かいの席で、PCに目を落として仕事に耽る五十嵐さんを見つめた。

 グレーのスーツに、黒ぶち眼鏡、髪の毛は七三分けに整えて仕事をする五十嵐さんは、いつ見てもカッコいい。

 私、恋歌はどちらかというと、派手でもなく地味でもない、平凡な女。

 でも、モテる。しつこく書くけど、モテるんです。

 女友達からは妬まれ、既婚者の奥さんには警戒され、女が嫌う女な女なのだ。

 私だって、綺麗な男の人を見ると「お!」と反応するし告られて嫌な気はしない。うん、そう。そうなんだけど、私自身が好きな人には振り向いてもらえた経験が無い。

 これって、相当辛いよ。

 ましてや今罹っている恋の病は、日々膨らむ一方で、どんどん加速して、どんどん想いが募っていく。

 だって、同じ会社の向かい合うデスクに彼がいるから。

 そんな事を考えながら五十嵐さんを見つめていると、不意に五十嵐さんが顔を上げた。目が合った。ドキン! 私の心が高鳴った。多分、私真っ赤になってる。

 急いで目を反らした。

 五十嵐さんは首をかしげて、またPCに目を落とした。

 あああ、切なぁ。切なすぎるよ。この席。席替えして欲しい。でも、離れたくない。

 そんなこんなで、毎日ときめいています。

 そんな私の想いを全く知らない五十嵐さんは、今年31歳になったばかりの独身男性。彼女は、いない、と踏んでいる。や、いるのかな? いないことを祈ってます!

 そう言えば昔、女友達に言われた。

『ねえねえ、恋歌、いいコト教えてあげようか?』

『なに?』

『うん、あのね、言いにくいんだけど、恋歌の好きになる人ってさ、そんなに女からの需要が無いタイプの人だから、焦んなくてもダイジョウブだと思う』

『え?』

『恋歌、気付いてないけど、恋歌って、さ、しょぼい男がタイプだよね、はは』

 今でも、その時のことが鮮明に蘇る。

そのコが教えてくれたので、私は気がつくことができた。

 確かにそうかも。

 私は所謂モテるタイプは苦手なのだ。

 だから言葉は聞き捨てならなかったけど、『しょぼい人』って表現が正しいのかも。

 五十嵐さんは、中肉中背の平々凡々なひと。

 でも、私にしたら、すごく魅力的なのだ。

 時折り頭に手を乗せるしぐさも、眼鏡を中指で上げるしぐさも、全てが愛おしい。

 私は自分のPCを見るふりをして、五十嵐さんを盗み見る。

 実は最近、ヤバいのだ。

 同じ会社って事だけに飽き足らず、彼の後を追うのがクセになっているのだ。

 今日も多分、彼の後を追うだろう。

 と、そんな事ばかり考えているうちに、今日もあっという間に終業の時間がやって来た。

 帰り支度をする人や、残業をする人、オフィスは慌ただしくなってきた。

 五十嵐さんは、まだPCに向かっている。

 私も負けじとPCに噛り付く。というか、そんな振りをして、五十嵐さんを見張っているのだ。

 少しずつオフィスが静かになって来た。

 50人ほどいた室内には、今では5~6人しかいなくなっていた。

 静かだ。黙々と残業をしている。

 その時、カタンと音がして、五十嵐さんが立ち上がった。

 あ、帰るのかな?

 私も急いでPCの電源を落とすと、席を立ちロッカールームへと向かいそそくさと私服に着替えた。

 急いでエレベーター前に向かう。

 いた。

 五十嵐さんは、エレベーターを待っていた。

「お疲れ様です」

 私は後ろから声をかけた。

「あ、お疲れ」

 五十嵐さんは振り向いて答えてくれた。

 その時、エレベーターが来た。

 乗り込んだのは私と五十嵐さんだけだった。

 沈黙が続く。

 私の心臓はどきんどきんと高鳴っていた。

 そして、1階に着いた。

 エレベーターを降りると、いきなり五十嵐さんが振り向いた。

「え?」

 私は五十嵐さんを見つめた。

「ヤバい、忘れもの!」  

 五十嵐さんは私を通り越すと再び閉まりかけたエレベーターに乗り込んだ。

「な、なに?」

 私は意外な展開で驚いたけれど、ま、いいや。ロビーの一角に隠れて、五十嵐さんが来るのを待つことにした。

 5分、10分、と時間が過ぎ、待ってもまっても五十嵐さんは来なかった。

「どうしたのかな?」

 私は気になったので、オフィスのある階へと戻り、誰にも見つからないようオフィスの中を盗み見た。

 数人残っていたはずのオフィスは無人だった。

 もちろん、五十嵐さんの姿もない。

 その時、オフィスの電源が落ちた。

 辺りは薄暗くなった。

 こんなに遅くにオフィスにいたことが無かったので、なんだか少し怖くなった。

 私は階段で下まで降りることにした。

 実は、私にもみんなが持っているような能力がある。

 それは、優れた嗅覚だった。

 私は階段を降りながら、五十嵐さんの匂いを探した。

 どうやら、只単に忘れものを取りに帰った時すれ違ったらしい。

 彼の匂いがロビーから漂ってきた。

 私は急いでロビーへ向かった。

「いた!」

 五十嵐さんはロビーで携帯電話で何やら話し込んでいる。

 しばらくすると電話を切って、五十嵐さんはビルから出て行った。

 もう何度となく、五十嵐さんのことを知りたくて、つけている。

 けれど不思議な事に、五十嵐さんを必ずといってもいほど、途中で見失うのだった。

 今日は金曜日。

 今日こそは彼の全てを知りたい。

 絶対、彼の家つきとめる。

 私は前を行く彼のことだけを見て進んで行った。

 街は金曜日ということもあって、人々でごった返していた。

 私は彼の匂いだけに集中して、彼の後姿を追った。

 ところがいつもこの辺りで、彼を見失うのだ。

 ここは有楽街で、色んな匂いが密集している。しかも、少し柄の悪い人もいる。

 その時、後ろでわーっと歓声が怒った。

 私は思わずそっちを見てしまった。

 何のことは無い、結婚式の二次会だろう。

 幸せそうな男女がキスをしていた。

「あっ!」

 私は我に帰った。

 前を見ると、時すでに遅しで、彼の姿はどこにもなかった。

「うそぉ」

 私はショックを受けた。

 またかよ。自分を激しく恨んだ。

 私はそうこうしているうちに、悲しくなってきて、涙が目に滲んできた。

 その時、後ろから肩を掴まれた!

「きゃっ」

 振り向くと、そこには遊び人風の男が立っていた。

 私は怖くなり、少しずつ後ずさりして、危険な香りのする男から離れようとした。

「何してんだ、一人で。遊びたいのか?」

 男はぶっきらぼうに言った。

「いや」

 私は怖くなって、叫び出しそうになる。

「あ、大丈夫、俺怖くないから!」

 男はそう言うけど、自分で言う人ほど信頼できないものは無い。

「離して、帰る!」

 私は抗った。

 だけど男は私の手を離すどころか更に強く掴んできた。

 私は男を睨んだ。

 そんな私を見ても男はひるまなかった。

「誰か探しているの?」

「……う」

 私は何も答えられなかった。

「ツレは?」

「い、いるわよ」

 私は嘘をついた。

 男は手を離してくれた。

 私はホッとし、改めて男を見た。

 それから意外なことに気がついた。この男やけに良い匂いがした。

 私の嗅覚は優れている。

 案外普通の人かも知れない。

 う、いけないいけない! 気をつけないと!

 だけど男は私の意に反して、意外な行動に出た。

「じゃ、気をつけろよ」

 そして男は踵を返すとサッサと歩き出した。

「はあっ?」

 私は何だか肩すかしを喰らった気分になった。

 私は何だか悔しくて、男の後をついて歩き出した。

 男は急に立ち止まると、後ろを振り向いて、私に言った。

「うそぉ」

 私はショックを受けた。

 またかよ。自分を激しく恨んだ。

 私はそうこうしているうちに、悲しくなってきて、涙が目に滲んできた。

 その時、後ろから肩を掴まれた!

「きゃっ」

 振り向くと、そこには遊び人風の男が立っていた。

 私は怖くなり、少しずつ後ずさりして、危険な香りのする男から離れようとした。

「何してんだ、一人で。遊びたいのか?」

 男はぶっきらぼうに言った。

「いや」

 私は怖くなって、叫び出しそうになる。

「あ、大丈夫、俺怖くないから!」

 男はそう言うけど、自分で言う人ほど信頼できないものは無い。

「離して、帰る!」

 私は抗った。

 だけど男は私の手を離すどころか更に強く掴んできた。

 私は男を睨んだ。

 そんな私を見ても男はひるまなかった。

「誰か探しているの?」

「……う」

 私は何も答えられなかった。

「ツレは?」

「い、いるわよ」

 私は嘘をついた。

 男は手を離してくれた。

 私はホッとし、改めて男を見た。

 それから意外なことに気がついた。この男やけに良い匂いがした。

 私の嗅覚は優れている。

 案外普通の人かも知れない。

 う、いけないいけない! 気をつけないと!

 だけど男は私の意に反して、意外な行動に出た。

「じゃ、気をつけろよ」

 そして男は踵を返すとサッサと歩き出した。

「はあっ?」

 私は何だか肩すかしを喰らった気分になった。

 私は何だか悔しくて、男の後をついて歩き出した。

 男は急に立ち止まると、後ろを振り向いて、私に言った。

「なに、つけてんの?」

「え?」

「ついてくるなよ」

 男は興味なさそうに言った。

「……う」

 私はぐうの音も出ない。

 怒りと恥ずかしさだけが手伝って、私の顔は真っ赤になった。

 そんな私に男は言った。

「本当は一人なんだろ?」

「……」

 私は小さく頷いた。

 男はフッと笑った。

 私はこの男に思い切って訊いてみた。

「人を探しているの」

 男は一瞬真面目な顔になった。

「どんな?」

 それだけ訊いて来た。

「こう、背がフツウくらいで、グレイのスーツを着た……」

 私は一生懸命説明するも、男には上手く伝わらなかった。

「ここは、繁華街だぞ。そんな普通のサラリーマンなんて大勢いるさ。そいつの名前は?」

「え……」

 私は一瞬躊躇した。

 けど、男は黙って私の返答を待っている。

「……五十嵐……五十嵐靖也」

 私は男の威圧的な態度に押されて、つい名前を言ってしまった。

「五十嵐……聞かないなぁ、この辺じゃ」

 男は考えながら真顔で言った。

「……そうですか。……じゃ、帰ります」

 私は一気に気分が落ちてしまった。男に小さくそう言うと、私は今来た道を歩こうと踏み出した。

「おい!」

 男が呼びとめた。

「はい?」

 私は小さく返事した。

「アンタ、最近この辺でよく見かけるな」

「う……はい、その……それは……」

 私は言葉に詰まってしまった。

「俺、この先の居酒屋でバイトしてるんだ。アンタのこと少し前から見てた」

 もしかして、告白?

モテ女たる私は、もしかして? と嫌な予感がした。

 が、どうやら違ったらしい。

「アンタみたいな女、この辺じゃ珍しいからさ」

 男はそう言うとポケットから煙草を取りだし、深く吸い込んだ。

 私は急に、この繁華街から出たくなった。

「すみません、帰ります」

 そう言うとまた踵を返した。

 その時、男は意外なことを言った。

「奢るよ。ウチで飲んで行きなよ」

「え?」

「いや、何か知らないけど、困ってる?」

 男の質問に私はホッとしたのか、涙が浮かびそうになった。

「……困ってる」

 私は小さく返事をした。幸い涙は浮かんだけれど、すぐに消えてくれた。

「よし! ついて来な」

 男はそう言うと、歩き出した。

 今日は金曜日。

 何だか、いつもとは違った街に来たみたいな錯覚を覚えるとともに、五十嵐さんのことが心配になって来た。

 男は時折り振り向いて、私がついて来てるか確認しながら前を進んだ。

 それにしても私、何してるんだろ?

 知らない男に就いて行くだなんて。

 自分の行動が明らかにおかしいことに気づきつつも、私はこの男の放つ不思議な匂いに誘われてしまったのだ。

 人混みの中をしばらく進むと、少し暗がった路地に出た。

 ダイジョウブ。私はなぜかそう確信した。

 この男の放つ匂いは決して悪い匂いではないと。

「ついたぞ」

 男はそう言うと、小さなドアの前で立って、私が来るのを待っていた。

「チクゼン……」

 私は小さく呟いた。

 小さな入口の横には『竹前』と書かれた看板が立てかけてあった。

「本当に、居酒屋さんの人だったんだ」

「そうさ、悪いか?」

 私は聞こえていないと思っていたのに、男には聞こえてたらしい。

「あ、ごめんなさい」

 どうやら、普通の人のようだ。

 私は安心して男に続いて、小さなドアから、中に入って行った。

 ドアの中は外の喧騒とは違って、上質な雰囲気を醸し出す、居心地の良い和風のモダンな造りになっていた。

 私がきょろきょろと店内を見回していると、カウンターの中から、50代くらいの店主と思われる男が声をかけてきた。

「遅いよ、糸井君」

 糸井君と呼ばれて、私を連れてきた男が返事をした。

「すみません」

 それだけ言うと、私をカウンター席に座らせて、急いで自分はカウンターの中に入った。

「このコ、誰?」

 店主が訊くと、糸井君らしき男がぶっきらぼうに答えた。

「落としもんです」

 それを聞いた店主はかかかっと笑って返す。

「どえらい落としもんを拾って来たな」

 と言い、私に向かって声をかけてきた。

「彼女、誰の落し物なの?」

「え?」

 私が驚いていると、糸井君が変わりに答えた。

「五十嵐さんのです」

 それも素っ気なく。

「そうかぁ」

 店主はそう言うと、私の前におもむ出汁巻き卵をスッと差し出した。

「お嬢さん、まだ若そうだね。幾つ?」

「え、っと、あのハタチです」

 私が言うと、手で出汁巻き卵を食べるように催促の合図をしてきた。

「あ、頂きます」

 私は一口出汁巻き卵を口に入れた。

「美味しい!」

 私の反応に喜んだ店主は、更に気をよくしてか、私のことを訊いて来た。

「名前は何て言うの?」

「中野です。中野恋歌」

「レンカちゃん!」

 店主はオーバーアクションを取ると、

「珍しい名前だね。どんな字?」

 と更に訊いてくる。

「恋の歌って書きます」

「スゴイねぇ。良い名前だ」

 そう言うと、今度は糸井君に声をかけた。

「恋歌ちゃんを落とした人見つかりそう?」

「……」

 糸井君は黙って、洗い物をしている。

 その様子に慣れているらしく、店主が言った。

「恋歌ちゃん、こいつはね、こんな堅物だけど、探し物を見つけるのが得意なんだ。そう、もう、能力の一種だね」

「そうなんですか?」

 そう言われて、私は初めて糸井君に興味を持った。

 私背中を向ける形で、黙々と洗い物をしている糸井君は、実はもしかしてそんなに私と歳が違わないんじゃないかと思えてきた。

 店主は察しが良いらしい。

「糸井君は、まだ、こう見えて19歳なんだよ」

「え?」

 私は小さく驚いた。

 だって、そんな……。すごく大人っぽい。

「ま、ゆっくりしてお行きよ」

 店主はそう言うと、新たに入って来たお客さんの方へと行ってしまった。

 私はこの、妙に和んだ居酒屋が気に入った。

 そこへ糸井君がスッとお酒を出してきた。

 日本酒だった。

「かなり、飲めるだろ?」

 糸井君が私を見つめて言った。

「なんで知ってるの?」

 そう、私は実はかなりお酒に強い。

「だって、お酒見て目が光ったから」

 と、糸井君は小さく笑った。

「や、嘘っ!」

 驚く私に「適当に言っただけ」と」素っ気なく言うと、忙しそうに働きだした。

 私はお酒飲んだ。

 その都度、いいタイミングで糸井君はお酒を注いでくれる。

「今日は、もう終おう」

 店主の声で時計を見ると夜中の2時半だった。

 気付けば、店内には私と糸井君と店主の三人だけだった。

「お疲れ様です」

 店主に挨拶すると、糸井君は今度は私の方を向いた。

「帰るぞ」

「え?」

 そう言われて、私はちょとドキッとした。

「大丈夫、恋歌ちゃん。糸井君はこう見えて、フェミニストだからね。送ってもらうといいよ」

店主が笑いながら言う。

「はい、そうします」

 私は素直にそう言うと、糸井君と一緒にお店を後にした。

 糸井君は黙って歩きだした。

 私も急いで後についた。

 そこで、私は店主の言葉を思い出した。

「ねえ、あなた……糸井君って、本当に探し物を見つけるのが上手なの?」

 前を歩く糸井君の足が止まった。

 そして、私の方にゆっくりと振り向くと、かすかに笑った? ような顔をして、頷いた。

「何でも見つけられる」

 静かにそう言うと、また歩き出した。

「家はどの辺?」

 糸井君は話を変えた。

「それは、秘密だけど、あっちの方」

 私は糸井君が振り向いた時、家の方を指差した。

「何だよ、それ」

 糸井君は苦笑した。

「俺はストーカーじゃないんだぞ」

 そう言うと、歩く速度を落として、私の横に並んだ。

「この街は、迷路のようになっている」

「え」

「この街の人々は皆、大きな迷路の中で暮らしているんだ」

「……」

 私は意味が分からず、返答に困った。

「その、五十嵐って言う人、さ、アンタの何?」

「私は“アンタ”じゃない。恋歌だよ」

 私はそう前置きをすると、小さく言った。

「す、好きな人……」

「へええ!」

 大きな声で、何かを察するように糸井君は頷いた。

「だから、ここ最近、そいつをつけてここに現れてたんだ」

 妙に納得する糸井君。

 私は少しバツが悪くなった。だって、何にせよ、人の後をつけるような行為はどうかと思えるから。

「見つけた!」

 その時、不意に糸井君が言った。

 その目はどこか遠くを見ているような感じがした。

「え?」

「だから、見つけたんだ」

静かに私に目線を合わせ、真顔で糸井君が言う。

「うそ……」

「嘘じゃない、行こう」

 そう言って、私の手を掴むとふわっと引っ張りだした。

「どこ? 何処に五十嵐さんはいるの?」

「黙ってついて来い」

 私は意味が分からなくて、引っ張られるまま、こんな時間でも起きているかのように明るくネオンで照らされた繁華街へと連れてこられた。

 糸井君は地下に続く、なんだか怪しげな階段の前で止まった。

 階段の横には『トマト倶楽部』と書かれた看板が立てかけてある。

「ここは? お店?」

「……」

 糸井君は黙ったまま、私の手を引くと階段を下りて行く。

 私は急に心もとなく感じて来た。

 薄暗い地下に続く階段は、地獄へと続いているかのようだった。

 無言の糸井君が少し怖く感じて来たその時、私達は赤いドアの前に降り立った。

「ここは」

 私の言葉を無視するかのように、糸井君は口を開いた。

「アンタ、恋歌だったな。ここに入る勇気ある?」

「勇気って……?」

「ちょっと荒療法だが」

 糸井君が言うが早いか、その時ドアが警戒に開いた。

「きゃー!」

 何やら大きな歓声が聞こえてきたと思ったら、女装をした男たちが私と糸井君を無視して、階段を上がって行った。

 私は驚きとともに、階段を上がる怪しげな女装の男たちに、目が釘付けになってしまった。

「な、何なの?」

「ここは、ゲイバーだよ。しかも、SM専門店」

 こともなげに言う糸井君の言葉が、私にはかけ離れてて、意味が分からなかった。

「入るぞ」

 そう言うと、手を引いて私をお店の中へと引っ張った。

 私達が入ると、今まで歓声が上がっていた店内は急に静まり返り、中にいた女装の男たちが一斉にこちらを見ていた。

 私は急に怖くなった。

 そんな私におかまいなく、糸井君はカウンターまで私を引っ張って行き、ママ風の男に声をかけた。

「あら、糸ちゃん」

 ママが艶っぽく言った。それから私を見ると、一言、

「なあにい、このコ。ちんちくり~ん!」

と言い放った。その瞬間、また時間が動き出すように、店内からきゃーっという歓声とともに一斉に賑やかさを取り戻した。

 私はちょっと、がっくりしながらも、今まで生きてきた中で初体験なオカマバー、もといオカマ専門SM倶楽部に興味が湧いた。

「で、今日は? 糸ちゃん」

「ああ、そうだった。ママ、五十嵐ってヤツ来てない?」

 ママは暫く黙っていたが、

「糸ちゃんなら、仕方ないわね。お客を売るようなマネはしたくないけど……来てるわ」

 といって、奥の部屋を指差した。

「行っていい?」

「仕方ないわね。もめごとはご法度よ」

「分かってる」

 糸井君はそう言うと、私の意見など全く聞かずに、いくつかある奥の部屋の方へと入って行く。

「糸井君! なんなの? 怖いよ」

 私は腕を引っ張られなが抵抗した。

「ほら、探し物ってあれだろ?」

 一番奥の部屋の前で止まった糸井君は、私にドアの隙間から中を見るように合図した。

 嫌な予感がした。だって、中からは叫び声と言うのか、快楽に浸っているかのような声がした。

 私はそっと覗いてみた。

「!」

 しばらく言葉が出なかった。

 私がショックを受けていると、後ろから糸井君の声がした。

「どうする? 声をかけてやるか?」

 私は糸井君の方に向き直ると、思いっきり糸井君の右頬を平手で叩いた。

 睨む私を無言で見下ろす糸井君は、一体なんなのだ。

「酷いよ。私は確かに五十嵐さんを探してたけど、こんなの、こんなの見たくなかった!」

 私はそう言うと、糸井君を押しのけて、カウンター席を通って階段を駆け上がった。

 外に出ると、月が出ていた。

 けれど、なんだろ、月が揺らいで見えた。

 私はもどかしく涙を手でぬぐった。

 その時、私の優れた嗅覚が、糸井君の匂いを掴んだ。

 私は走りだした。

 何もかも嫌のなったのだ。

 走る私に、どんどん糸井君の匂いが近づいてきた。

「きゃっ」

 私は後ろから腕を取られてしまった。

「やっ! 離して!」

「離さん」

 なんだか糸井君は悪意に満ちた笑顔をした。

「何で、逃げる?」

「当たり前じゃない。好きな人のあんな姿を見て、平気で居られるほど私は強くないんだから!」

「恋歌が頼んできたんじゃん、俺に」

「う……」 

 私は、言葉が無かった。

「もう遅い。ついて来い」

 私は仕方なくうなだれながら糸井君の後について歩き始めた。

 糸井君は小さな雑居ビルの前で立ち止まった。

「こっからは強制じゃないから、嫌なら帰れ」

 そう言って中に入って行った。

「……」

 私は暫く考えたけど、こんな時間だし諦めて中に入って行った。

 糸井君はエレベーターの前で私を待っている。

 私が来るのを確認すると、満足そうな顔でエレベーターに乗り込む。

 私も乗った。

 エレベーターの中で、私達は一言も話さなかった。

 どうやら屋上まで上がったらしい。

 糸井君は黙って、屋上にある小さな部屋へ入って行く。

 どうしよう? これって……。

 何かあったら、何かって?

 私は躊躇したけど、決心して続いて中に入った。

「そこに座れ」

 小さな部屋小奇麗で、センスのいい部屋だった。

 糸井君は私を座らせると、冷蔵庫からミネラルウォーターを持ってきて、私の向かいに座った。

「飲めよ」

「……ありがと」

 私は急激に喉の渇きを覚えた。

 一気に飲む私を満足そうに見ると、糸井君はタバコに火をつけて深く吸い込む。

 しばしの沈黙が続いた。

 何か話さなきゃ、とは思うけど、何を離せばいいのかが分からなかった。

 だって、今日会ったばかりだし、接点はと言えば、五十嵐さんであって、でも、その五十嵐さんのことで気まずくなっているワケで。

 私の頭は色々と考えていた。

 するとスッといきなり糸井君が立ち上がった。

「わっ!」

 私は身の危険を覚えて、小さく飛びのいた。

 その様子を見て、糸井君は意地悪そうに笑った。

「なにもしないよ」

 そう言って毛布を取って来て私に渡すと、自分は部屋の隅で寝ころんだ。

「あ、ありがと」

 小さく言う私の声を無視した。と思ったら、寝息を立てていた。

 私は安堵した。

 毛布をかけ横になった。

 疲れていたのかな。私はすぐに深い眠りに落ちて行った。 





 翌朝、私は糸井君に起こされた。

「起きろ」

「……んー」

 そうだった。私は昨日糸井君の部屋に泊まったのだ。

 ちょっと待って。『糸井君』だなんて気軽に呼んでるけど、私達は昨日会ったばかりだったのだ。

 私は自分の軽率さに驚いた。

 起き上がった私は、丁寧に毛布を畳む糸井君に後ろから声をかけた。

「あの、昨日はごめんなさい……」

 糸井君は黙っている。

「殴ったこと、ごめんなさい」

 私はバツが悪くなってきた。

 下を向き、言葉を探していると、糸井君が振り向いた。

「なにも謝らなくてもいい」

 そう言って、小さく笑った。

 私は何だか安心した。

 私がほっとしたのが伝わったのか、糸井君が口を開いた。

「俺は探し物が得意だ」

「うん?」

 私は頷く。

「初めて自分の力に気づいたのは、小学校の時。友達の失くした物がどこにあるかすぐに分かった。衝撃的だった。探し物を頭に浮かべると、突然雷光が走った時のように閃くんだ。それで、場所を特定できる」

「うん」

 私は糸井君の話に聞き入った。

「それから、人助けが如く探し物を見つけては、みんなから喜んでもらえたんだ。ある時、俺は思ったんだ。幼い時に別れた母親の居場所を知りたいと」

「うん」

「やってみた。そしたらすぐに分かってしまった。俺は父親に黙って母の元へと走った。そこは病院だった。母親はその病院で看護師をしていた」

 そこで、一旦タバコを吸った。

 タバコの煙をくゆらせながら、糸井君は遠くを見ながら話す。

「駆け寄った俺に気付いた母親は……俺に関心を示すどころか、他人のように振舞ったんだ」

「……」

 私は困った。こんな切ない話、どうしていいか分からなかった。

 私の様子見て、糸井君は続けた。

「悪い。大事な話は、ここからだから」

 そう前置きして、糸井君は言葉を選ぶように慎重に語りだす。

「それ以来、俺は他人の探し物は見つけてあげても、自分の探し物や探し人は考えないようにした。やっぱり、母親のことがトラウマになっていたんだ」

「うん」

「でも、ある日、そう、高校生だった時に気がついたんだ。あ、ごめん、ここから話すことは、嘘でも見栄でもないから、黙って聞いてくれ」

「分かった」

 私の言葉を聞くと再び、丁寧に話しだす。

「俺は、その頃から女子に酷くモテ始めたんだ。意外だろ? でも、付き合ってみても、なんだか心が楽しくないんだ。色んなコと話したりしてみたんだけど、やっぱり俺は心を開けなかったんだ。それで、ある時、俺は考えた。ひょっとして俺には運命の人なんて用意されてないんじゃないか、てね」

 そこまで聞いて、私は何だか他人事じゃないような気がした。

 だって、私もモテ女だけど、自分の気持ちが伝わらないし、付き合ったこともあるけど、やっぱり心ときめくようなことが無かったからだ。

「それで?」

 私が先を促すと、しばし黙り込んでから、静かに糸井君が口を開いた。

「で、俺、母親のことがあってから、自分の探し物はしなくなったんだけど、探してみることにしたんだ」

「なにを?」

「運命の人」

 私は興味深くなって来た。

 私の様子を満足げに見てから、また糸井君は語りだす。

「一人の部屋で神経を集中してみた。すると電光石火の如く、頭に探した運命の人が浮かんだ」

「それで?」

 私はつい声を出した。

「その人は見たこともない人だった。けど、名前も分かったんで俺は探した。そう、この迷路のような街に住むその人を」

「うん」

「で、見つけた」

私はごくりと唾を飲み込んだ。なんか、すごい話になって来た。でも、昨夜失恋したばかりの私にはリハビリ的な内容の話だったので、熱心に聞き入った。

「彼女を見つけることができた」

「その人と話はしたの?」

「いいや、その時は遠くから見ただけだった」

「それで?」

「あ、うん。まあ、それが恋歌だったんだけど」

「そうなん……って、え?」

 一瞬私は、訳が分からなかった。

「えーっ?」

 驚く私をジッと見つめながら、糸井君は口を開いた。

「その時は高校生だったし、女子高の恋歌に声をかけることなど出来なかった。出来なかったけど、いつか巡り合えるのかな、とは思った。というか、確信があった」

「……」

 私は今信じられないことに動揺を隠せなかった。

 でも、そう言えば、私がモテるのに、ことごとく好きな人と想いが通じなかったのは、もしかして今日のこの出会いのため? そんな考えが浮かぶ。

 いやいや、待てワタシ。私はまず自分を落ち着かせようともがいていた。

「恋歌?」

 急に名前で呼ばれることがなまなましく感じられる。

 私は糸井君を見た。

 糸井君もこっちを見ている。

 ヤ、ヤバ……。

「あの、え、っと、帰ります!」

 私は緊張のあまり敬語になった。

 これでは動揺が伝わってしまうではないか。

「分かった、送るよ」

 意外にもあっさりと糸井君が言う。

 私はちょっと肩すかしを喰らった気分になる。

「あ、そうだ。電話番号教えて」

 糸井君が言う。それも自然に。

「俺たち、運命の者同士だからな。それくらい知っておかなきゃ」

 私は急に胸が高鳴るのを感じた。

 そんな私におかまいなく、糸井君は当たり前のように携帯の番号を送ってくれた。

「教えてくれる気になったら、かけてきて」

「あ、うん」

 私はつい頷いてしまった。

 それから糸井君は私を最寄りの駅に送ってくれた。 

その駅は、私の住むマンションの一つ手前の駅だった。

 しかし、運命の相手って案外近場にいるんだな、なんてことを考えるバカな自分に動揺が走る。

 駅の構内に列車が入って来た時、不意に糸井君が私の髪に触れた。

 ただ、それだけのことなのに、ドキッとしてしまった。

「じゃあ、来たから」

 私は動揺を隠すように電車に飛び乗った。

 糸井君は何も言わない。

 列車が動き出し、少しずつ糸井君が小さくなっていく。

 糸井君はずっと私を見送った。

 私もそれを見ていた。



 マンションにつくと、今日が土曜日だということに気づいた。

 けど、だから、なに?

 そう言えば、私、昨夜失恋したんだ。

 五十嵐さんの見てはいけない姿を見てしまった。

「ふう」

 小さくため息をつくと、携帯を開いてみる。

 糸井君の電話番号がある。

 私は急にサッパリしたくて、シャワールームに向かった。

 少し熱めのお湯で、全身の汗を洗い流す。

「やだ」

 私はシャワーを浴びている間中、ずっと糸井君のことを考える自分に気がついた。

 思えば、私、今まで好きな人にふられてばかりだった。

 けど、この気持ちは何?

 まるで恋をしたみたいな。

 ただ、今までと違うのは、この恋は運命のものであって、初めて成就しようとしていること。

 私はシャワールームを出ると、急いで頭を乾かし、デニムにTシャツというシンプルな服装に着替えた。

 携帯を手に取った私は、ためらうことなく電話をかけた。

「もしもし」

 出た! でも、何を話そう。

「もしもし……恋歌?」

 糸井君は静かに言う。

「う、ん」

 それで私は黙ってしまった。

 しばしの沈黙が二人の距離を遠ざける気がした瞬間、私は我慢できずに口を開いていた。 

「あの……!」

力む私の口調に糸井君は優しく言った。

「うん、分かるよ」

「え?」

 なんだか私は悲しいくらい嬉しくなった。

 その時、私は糸井君の匂いを感じた。

 私の嗅覚は優れている。何キロ離れてたってハッキリと嗅ぎ分けられる。

 私はたまらなくなって、電話を切った。

 急いで玄関まで行くとスニーカーを選んで履くと、勢いよく部屋を飛び出した。

 エレベーターは使わない。

 私は走った。

 早く、早く会いたい。

 会ってこの気持ちを伝えたい!

 しかも、私、彼に愛されてる。

 その確信が私の衝動を突き動かす。

 マンションのエントランスでの曲がり角で、女のことぶつかった。

 女のこは「あ、すみま……」と謝ってきたのに、私ったらそれどころではなくて……。

 しかも私、泣いている!

 こんなに嬉しいのに、何で?

 私は走った。

 足には自信がある。

 もと陸上部だったんだもの。

 彼の家へと向かう道は知らなかったけれど、私は彼の匂いを頼りに走った。

 街は土曜日ということで、色んな人々で溢れかえっていた。

 賑やかな街並みにも目をくれず、私は彼の元へと急ぐ。

 そして今、確信した。

 彼の匂いが近くに来てる!

 彼もまた、私を探して走っているのだろう。

 彼が右に曲がれば、私は左に曲がり、二人は着実に近づいていた。

この街は迷路のように入り組んでいるけれど、迷路だろうが、パズルだろうが、そんなこと関係ない!

「!」

 私の前に突然、糸井君が現れた。

 彼も走って来たのだろう。

 息を弾ませている。

 私達は暫く茫然と立ち尽くし、お互いを見つめあっていた。

 その光景に只ならぬ気配を感じ取ったのか、いつしか私達の周りには人垣ができていた。

 けど、そんなことどうでもいい。

 その時、糸井君の口が動いた。けれど、私には彼がなんと言ったのか聞こえなかった。

「え?」

 私は小さく聞き返した。

 まどろっこしくなった私は叫んだ。

「聞こえないよー」

 私は涙を流しながら、ゆっくりと距離を縮めて行った。

 糸井君もゆっくり進む。

「好きだ」

 聞こえた!

 私は確かに愛されている!

「もう一回言って」

 私の要求が聞こえる距離になった。

「好きだ」

 大きな声で糸井君が言う。

 その言葉が魔法の呪文のように、私の頭の中で響いて、身体をしびれさせる。

 周囲の人々は、固唾を飲んで見守っていた。

「好きだ」

 そう言って、お互いに触れられるくらいの距離になった時、糸井君は私の目を見つめて、肩に手を触れて繰り返す。

「愛してる、恋歌」

「糸井君……」

 私達は運命の者同士。

 私は静かに糸井君の胸の中へと収まった。

 糸井君の手が私の腰にしっかりと回され、二人はしっかりと抱き合った。

 そして、周囲の人々が静まり返るほど見ている中で、私達はキスをした。

 その時、「おおーっ!」と歓声が上がった。

 けど、私達には関係ない。

 二人は今までの回り道をうめるように、お互いを確かめるように唇を求めあう。

 その時、背の高い糸井君のために上を向いていた私の瞼が眩しさにくらんだ。

 キスをしながら、薄く目を開けると、空に二頭の麒麟が虹を渡って行くのが見えた。

 私はそれを見て、この恋は絶対に大丈夫だと確信した。

 私はまた目をつむり、糸井君のキスに応える。




 その私達の光景を一人の女のこが見ていただなんてことは知らないけれど、この街は迷路の中の街。

 恋もまた迷路の一つ。

 今日もまた、何処かで愛が生まれている。

  きっと、みんなに訪れる永遠の愛。

 それは、他人事じゃなく、あなたにも必ず降り注ぐ、素敵なマジック。

 だから、ね、勇気と自信を持って、恋しましょう。

 

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