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@Sai

 好き……甘いもの

 好き……ブルガリの香水

 好き……好き……好き? スキ?

「うー……」 

 嫌い……仕事

 嫌い……無神経な人

 嫌い……我慢

 嫌い……優柔不断な自分

 嫌い……素直じゃない自分

 嫌い……嫌い、嫌い、嫌い!

 自分が嫌い!

「ハアっ……ダメだぁ」

 私は大きく溜息をつくと席を立ちあがり、自分の長所・短所を綴った会社のA4サイズの書類をビリビリに破き、天井まで届くくらい紙吹雪の如く爽快に宙へと撒き散らした。

「……って、出来れば良いんだけどねぇ」

 私は誰にも見つからないように、悪戯書きをしたA4サイズの書類を近くにあったシュレッダーに押し込んだ。

「河瀬クン、お茶」

 それを見計らってか、上司がいつものように言い放ってきた。

「あ、はい」

 現実ってこんなもんよね。

 私は小さく心の中でシャウトすると、席を立ち給湯室へと向かった。

 禿げチャビン、出っ歯、スケベオヤジ、万年係長……フンっ、クソ喰らえ!

 私は心の中で歌うように上司に暴言を吐きながら、お茶を淹れた。

「どうぞ……」

 私がお茶を差しだすと、上司はサッと私の手に自分の手をくっつけてきた。

「河瀬クン、熱があるんじゃないの? もしかして?」

「え?」

「気をつけなさいよ、まだ若いんだから子供が出来ないようにね」

「……」

「あ、ゴメンね、忘れてちょ」

「……あ、はい」

 私は上司に対して『きゃー、もう、何言ってんですか?』なーんて風に明るく言えるタイプではない。

 私はそそくさと自分のデスクに戻るとパソコンに向かってデータを入力し出した。

 寒っ! 寒過ぎやネン、オッサン! って、何で関西弁やねんっ! ちゅーねん!

 河瀬才、22歳、いい大人、独身、下請け会社の冴えない事務員。




『サイさあ、年々セキュリティー上がってるよ。まずいよ。もっとさ、セキュリティー下げても大丈夫だと思うんだけど。ほら、マンションとかの物件探しと同じよ。家賃を考えて少しずつ自分の希望を削っていったら、アラ不思議! 意外にいい物件あるじゃん? みたいな……アハッ!』

 悪友の声が頭に響き渡る。

『そうそう、あと、私達女はね、年々クオリティーが下がるものなのよ。いい物件(男)は、あっという間に埋まってしまうしね、アハハハ』

 追い打ちをかけて、更に頭に響き渡る。

「うー、美也のヤツ、うるさいんじゃ」

 私はつい呟いてしまった。

 河瀬才、22歳、恥ずかしながら、処女。でも、何故か処女に見られない。

 しょ、処女……。それが悪いか! クソ喰らえ!

 てか、処女……なんだよなぁ。

 そこまで考えて、私は正気を取り戻した。

「いかん! 履歴書のこと考えなくちゃ」

 私は自分磨きのため、転職を考えている。

 けど、履歴書の長所と短所の欄だけいつも迷うのだ。

「こんだけ悩んでも、自分の良いところが見当たらないなんて……」

 私はまた、ハアっ、と溜息を洩らした。

 とりあえず、今のままじゃダメだ!

 それはよく分かるよ。分かってる。

 私はデータを打ち込みながら、心の中で迷いあぐねていた。

「河瀬ちゃーん」

 と、その時 先輩辣腕兼業主婦OLの成田さんが私を呼んだ。

「は、はいっ」

 咄嗟のことだったので、私は驚いて大きな声で返事をしてしまった。

「また、イッてるね?」

「……すみません」

 私は恥ずかしくなって赤面してしまった。

 この先輩は、辣腕兼業主婦OLになる前は辣腕占い師をしていたらしい。

 どんなことでも見透かすことが出来るらしかった。

「いい? 河瀬ちゃん、考えることは悪いことではない。けど、現実で感じる、これが大切なの。考えるな、感じろ! ってこと。でなきゃ、いつまで経っても」

「あわわわわぁ、成田さんっ、その先は言わな…」

「分かってる!」

 慌てふためく私の頭に手を載せて、ヨシヨシしながら成田さんは私の耳元まで近寄ると小声で言った。

「明日の有休、行くんでしょ? 面接」

「う、はい」

「応援してる、けど」

 急に成田さんの顔が険しくなった。

「け、けど、な、なんですか?」

 私は不安になった。なんせ、彼女は辣腕占い師だったワケだし。

「なんでも、にゃい! いっちょガンバっといで!」

「あは……は」

 河瀬才、22歳。今日もとってもお疲れサマ。

 気がつけば、今日も無事終業時間を迎えることが出来た。



 会社を出ると外はさっきまで雨が降っていたらしい。

 私は、ところどころ出来た水溜りを避けながらゆっくりと帰路に着いた。

 ふと、空を見上げると麒麟が二頭、虹を渡って行くのが見えた。

「幸先、良いかも……」

 私は明日の面接がなんだか上手くいくような気がしてきた。

 明日受けるのは大手の製薬会社の事務。

「どうか上手くいきますように」

 私が小さく呟いた時、後ろから歓声が上がった。

「なになに?」

 よく見ると、人だかりの真ん中で、一組の男女が抱き合っていた。

 何を言っているか聞こえなかったけど、男の人が女の人に何か言っている。

 その時、ワーッと再び歓声が上がった。

「処女の私にだって分かるよ。二人は今日、想いが通じたんだね」

 私は微笑ましい気持ちと、それとは裏腹の妬みの気持ちとが入り混じったけれど、二人に幸あれ! と拍手を送った。

 それから私は真っすぐに一人暮らしのマンションへと向かった。

 この街に来て間もなく2年になる。

「キミィ、可愛いねっ!」

 色んな人がいる。色んな男も。

 私は声をかけてくる男や、チラシを配るピエロやらをよけながら、進んだ。

「河瀬さん!」

 私は不意に名前を呼ばれた……気がしただけだった。

 振り向いたけれど、知っている顔は何処にもなかった。

「ううむ。イッちゃってるよね。頑張ろ!」

 私は気合を入れると、雑踏の中を再び進み始めた。



「104番の方、どうぞ!」

「はい」

私は番号を呼ばれて受付の窓口に向かった。

「お願いします」

 小さく言う私に、職業安定所の職員の男の人が言いました。

「河瀬さん、こんにちは」

 そして、溜息を洩らした。

「今日、確か面接でしたよね?」

「う、サトウさんでしたか」

「悪かったですね、僕で」

「あ! いえ……」

 私は小さくなってしまった。

「今日の面接はどうでした?」

「手ごたえ……ナシ、でした」

 私は小声で答えた。

「どこが?」

「……どこ、って、それは……」

 突っ込まれた私は返事に困ってしまいました。

 サトウさんは、黒ぶち眼鏡を軽く手で押し上げると、言い含めるように話しだしました。てか、“叱る?”って、感じ?

「どうでもいいことかもしれませんが、まず、僕はサソウです、佐宗! えっと、それで、面接の件ですが、まだ落ちたってわけじゃないですよね?」

「はぁ」

「河瀬さん、確かにここは、職安の中の転職希望の方の窓口です。思えば、いつもいつも僕で申し訳ありませんが、僕だって今のこの仕事にポリシーと責任を持って当たっているつもりです」

「……」

「貴女がここに通いだして、約半年経ってるわけですが、未だに転職できないのは一重に僕の力不足かもしれません。だとしたら、僕ですみません、と前置きして言いますね」

「長っ!」

「何か?」

「い、いえ」

「過去、貴女を面接に送りだすこと四十数社、僕は貴女と会社の橋渡しをしてきたわけです。で、受かってますよね? 何社も。なのに貴女は転職先を探すことを止めないでいる」

「う……」

「河瀬さーん、顔を上げましょうね」

「はい」

 私はうなだれながらも顔を上げて、佐藤……じゃなかった! 佐宗さんの黒ぶち眼鏡に視線を合わせた。

「ん、で! 僕、思ったんですけど、河瀬さん、自分に自信が持てないんじゃないですか?」

「!」

私は驚いた。

 そんな私をスルーして、佐宗さんは語り続ける。

「たまに居るんです、そう言う方。自分に自信がないから、面接を受けて受かればそれで満足する。そして、また日常の生活に置いて不安要素が出てくる度に、転職を希望して受かればそれで安心する、の繰り返しな人」

 私はまた下を向いて、身を固くした。

「違いますか?」

 佐宗さんが追い打ちをかけてくる。

「河瀬さん?」

「……」

 本当のことを言われた、とか、当たってる! とか、悔しくないって言ったら嘘だけど、自分を守るのは、悪いこと?

 私の中で、何かが弾け飛んだ。

「すみませんでした」

「え?」

 佐宗さんの黒ぶち眼鏡がちょっと傾いたのを、私は見逃さなかった。

「佐藤さんのおっしゃる通りです。私はちっぽけな空想野郎なんです。今まで本当にお邪魔しました。失礼!」

「あ! 河瀬さん、佐宗です!」

 佐藤さんが何か言ったけど、そんなこと今の私には聞こえなかった。

 悔しいかな。それより私は自分の体質をことごとく恨むしかなかった。

 私が涙すると、私の身体からは強烈な香りが漂うのです。私のような芳香人間は多からず少なからずなので、どう見ても30代の佐藤さんからしたら、人生経験が長い分、私が泣いていることを察知することでしょう。

 私はそのままドアに向かって走りだしました。強烈な香りを放ちながら。ちなみに香りはシトラス系。

 ドアを開けようとしたところで私は転んでしまった。他の窓口にいた人や、順番待ちの人々がドッと笑ったりしたけど、私にはそんなこと関係なかった。

 ヒト様に見透かされた! 本当のことを言われた! 私は単なるチキンなショボイ女子……いいえ、恥ずかしい妄想オタ女なのだ!

「うっ……」

 私は立ち上がり後ろを振り向くことなく、階段を駆け下りて、出口へと向かった。

 外に出ると頭から花を咲かせているおじいさんが、私に気付いて一言言った。

「やあ、お嬢さん、僕も今日悲しいことがあったよ。お互い、ゆっくり頑張ろう」

 そう言ってVサインをして去って行った。

 私は直感で分かった。

 多分、あのおじいさんは、長年連れ添った奥様を亡くされたんだ、と。

 私にも、いつか私の死を悲しんでくれる人がいるのだろうか?

「う、寂しい」

 私は頬を伝う涙をこぶしで拭うと、私の放つ香りに集まってっきた人々の垣根から走って抜けだした。

 ああ、マンションに帰りたくないなぁ。

 でも、行く当てもないし。

 私はいつしかとぼとぼと歩いていた。

 涙が枯れるとともに、香りもひっそりと身を潜めた。

 と、その時、携帯電話が鳴った。

「美也……」

 私は一瞬出るのをためらったけれど、結局電話に出た。

「サイ? あたし、美也! 来週仕事でそっちに行くんだけど、会えない?」

「美也……」

「ん? どした? ……才、泣いてる?」

「いや、泣いてないけど」

 恐るべし、幼馴染の直感。

 私は会うことを快諾した。

「ところで、才、いい人出来た? アハッ!」

「出来たら、報告するよ」

 お気楽に笑う美也を軽く恨む。

「才の場合、焦った方がいいね。なんせ」

「処女だから?」

 私が遮って言うと、

「分かってるじゃん」

 と、カラカラと美也は笑った。

「じゃあ、そういうことで。仕事に戻るわ」

 美也はそう言うと、電話を切った。

「もう、相変わらず、だな」

 私は腕時計見た。

 二時半。

 どうしよう、これから……。

 って、これからホントにどうする、才?

 私は自問自答した。

 もう職安には行けないなぁ。

 あの佐藤って人、私のことを見透かした。

 言ってることは当たってる。

 でも、あんなにガツンと言わなくてもいいのに。

 泣いてしまったことが悔しい。

 恥ずかしさと悔しさで気分はすっかり下降気味。

 その時、私は不意に、女の人の声で我に帰った。

「誰か、あの子を助けて!」

 母親らしい女の人は上を見上げて指さして助けを求めている。

 私は上を見た。

「わあ!」

 空中には笑顔の赤ん坊がふわふわと浮いていた。

 赤ん坊はご機嫌で、更にふわふわと上昇しているようだった。

 そこにいた人々は困り果てていた。

 赤ん坊は上昇する一方。

「河瀬さん!」

 その時、後ろで声がした。

 そちらを見ると職安の佐藤さんが息を荒げて立っていた。

「佐藤さん?」

「サ・ソ・ウ、です!」

 そう言うと、佐宗さんはいきなり黒ぶち眼鏡を無造作に取った。

 眼鏡の奥の瞳は、真っすぐに私の方を見ていた。

「今は、緊急事態です。あの赤ん坊を助けられるのは僕たちしかいない!」

「え?」

「ごめん!」

 佐宗さんは大きく謝ると、おもむろに私を抱きしめた。

「え? え?」

 私は驚いた。けど、されるがままになっていた。

 私の頭がぽーっとなって来た時、佐宗さんは軽やかに宙に舞い上がった。

「な、なに? なんなの?」

 私は空高く上がって行く佐宗さんを下から見上げた。

 佐宗さんは、きゃっきゃと笑っているご機嫌な赤ん坊をキャッチすると、するすると下へと舞い降りて来ました。

「ありがとうございます」

 佐宗さんから赤ん坊を受け取ると母親はお礼を言い、人だかりからは大きな拍手が沸き起こった。

「あ、いえ」

 佐宗さんは、恥ずかしそうに頭に手をやった。

「あっ!」

 それから、私に気づいた。

「あわわわ、か、河瀬さんっ」

 佐宗さんは真っ赤になっていた。

 私は意外にも冷静だった。だって、何がなんやらワケ分かんなかったので。

 そうして冷静な視点で佐宗さんを見てみると、職安で仕事中のスカした佐宗さんの顔はすっかり姿を潜めていて、歳だって三十代だと思っていたけれど、実はそんなに離れていないことに気がついた。

「あの」

 私が言葉を発するが早いか、佐宗さんは私の腕を引っ張って走りだした。




 何処をどう走っているか全く分かんなかったけれど、私の頭は冷静に働いていた。

 佐宗さんは、佐宗さんで、佐宗さんの、佐宗さんが……って、佐宗さんの何段活用? てか、佐宗さん、幾つなんだろう? なんか、この光景、前にも見たような。ウソウソ、こんな現実無かったよ、今まで。しっかり! ワタシ!

 なんてことをぐるぐると考えていると、いきなり佐宗さんは走るのを止めて立ち止まった。

「はあ、はあっ」

 しばらく、二人して膝に手をあて、呼吸を整えるのに必死だった。

 結構な距離を走ったらしい。

 目の前にあるのは、すでに街中ではなく、穏やかな昼下がりを迎えた午後の公園だった。

「河瀬さん、走るの速いね」

「あ、うん。昔、陸上部だった……から」

 私は、不意をつかれて、普通に答えた。

「やっぱりね。かなぁ、とは思ったんだ。職安から河瀬さんを追いかけたんだけど、なかなか追いつかなくてさ」

 佐宗さんは、爽やかに笑った。

「てか、佐宗さんも足速い」

 私は佐宗さんを見据えて言った。

 佐宗さんの顔が見る見る赤くなった。

 それでも私は冷静に続けた。

「しかも佐宗さん、飛べるし」

「!」

 佐宗さんは私の目から逃れるように、近くにあったベンチに腰を降ろした。

 私も後を追って、座った。

 しばらく二人とも黙っていた。

「生きるって、恥ずかしいことだよね」

 ぽつりと佐宗さんが口を開いた。

 私が黙っていると、佐宗さんはおもむろにこちらに向き直った。

「好きだ」

「え」

 さっき気付いた。とは、言えない。

「うん」

 私はそれだけ言うのが精いっぱいだった……振りをした。

 河瀬才、22歳、処女。

 こういうシュツエーションは意外に初めて。だから、冷静なのかも。

「ごめん」

 佐宗さんは謝って来た。

「今日は言い過ぎた」

 ふうっと一息入れてから、佐宗さんは続けた。




「河瀬さん、うちの職安に来て半年経つよね。この半年間、奇遇と言うか運命って言うか分かんないけど、窓口は沢山あるのに、何故か河瀬さんの担当にあたったんだよね。気がついてた?」

「う、ゴメ……てか、最近気がついてた」

 私は正直に言った。

「河瀬さんのことをこの半年間、ずっと見てた。だから、さっき心配になってつい言ってしまったんだ。本当にごめん。けど、人は皆、誰だって弱い部分を持ってるし、それを乗り越えながら生きてるんじゃないかな?」

 佐宗さんは、私の目を見つめた。

 私は視線を外した。

「僕は、飛べるよ。でも、欠点でもあるんだ。あの赤ちゃんと同じで、テンションが上がらないと身体も上がらない。つまり、分かりやすい単純なヤツってこと」

「それなら、私だって。私だって感情の赴くままに芳香しちゃうし」

 それを聞いた佐宗さんは笑った。

「だから救われたんだよ、僕は。キミは足が速い。僕はキミの残した残り香を伝手に追いかけることが出来たんだ」

「ふふ」

 二人して笑った。

「いきなり抱きついてしまったね。正直、キミが嫌がったらどうしよう? とか、考えなかった。只、今日キミを傷つけてしまってから、キミの脆さに気づいたんだ。無性にキミを抱きしめたくなった。……僕だって男だからね」

「佐宗さん」

 その時、向かい合った二人は、急に今座っているベンチが小さく狭いことに気づく。この距離感って……。

 佐宗さん?

 私は恥ずかしくて真っ赤になった。

 佐宗さんはいつも黒ぶち眼鏡で隠れている瞳を、今は真っすぐに私に向けている。

 私は……覚悟した。

 ……佐宗さんってば!

「河瀬さん、ごめん」

 気がつけば、空中で佐宗さんが平謝りしていた。

 しばらく、私の処女は保留になるのかな? って、不安を覚えた。

 そんな事を考えながら、しばらく私は笑い転げてしまった。

 


 翌日、私はいつものように出勤した。

「河瀬ちゃん」

「あ、成田さん、おはようございます」

「はよ。昨日の面接どうだった?」

「あー、ダメでした。昨夜、合格の電話を待ってたんですけど、掛って来ませんでした」

「そうなんだ? おかしいな」

 成田さんが首をかしげた。

「どうしてですか?」

「いや、うん、あたしの予感ではね、河瀬ちゃん、今度の転職上手く運ぶとデタのよね。しかも、一生続けてける感じでさ」

 私は固まった。

「あ、ごめん。私の能力下がっちゃったかな。気にしないでね、河瀬ちゃん」

 成田さんはデスクに着くと、オカシイ、オカシイ、と呟きながらパソコンに向かい合った。

 私は心の中で、成田さんに謝った。

 当たってます!

 私は、佐宗さんと言う存在が出来たことで、自己否定の気持ちが無くなった。安全確認はもうしなくてもいい。

「よし!」

 私はデスクに就くと、いつものようにデータを入力しだした。

 外は今日も雨だったけど、今は雨も上がり綺麗な虹が出ていた。

 昨日のように二頭の麒麟を見ることは出来なかったけれど、私の心は晴れ晴れとしていたのでした。


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