勇者な俺とゲロと女と魔法使いと。
基本コメディーですが、残酷というか、ちょっと生理的に気持ち悪いシーンがあります。話を思いついた経緯も経緯ですし、苦手な方はブラウザバックで回避してください。
俺は勇者(17)だ。
王都に住む普通の住民だったおれは17歳の誕生日に王様に『勇者』の称号を与えられ、魔王を倒しに行くように命じられた。
ちなみに給料は無しで、僅かばかりの支度金を渡され城から放り出された。
さっきも言ったとおり、俺は生まれて17年間剣を握ったこともなければ、王都を出たことすらないごくごく普通の少年のはずで、一体何で俺が勇者に選ばれたのかさっぱり分からない。
体格や腕力なら、八百屋の息子のジャーイが良いだろうし、賢さで選ぶなら同年代のデーキが選ばれていいはずだ。
もしかしてアレか!?俺んち母子家庭だから舐めてんのかね。
王都一番の金持ちの息子のスーネを選んだりしたら、王宮で必要な品物を売ってもらえなくなるとかそーいうやつなのか?
確かに俺の母親は親類縁者も居らず、どこの誰とも分からない相手の子供(俺の事だ)を生みましたよ。
でもね、母親は女手一つで俺をまっとうに育て上げてくれたし、ソコソコの教育も受けさせてくれた。
これから今までのバイトと違って一人前として社会に出て稼いだ金で母親孝行をしようと思ってた矢先にこれかよ!
チッ、世知辛い世の中だぜ・・・。
□□
夕刻、俺は今、王都のとある酒場の前にいた。
貧弱なボーヤである俺がいきなり魔王を倒しに行くとか無理なので、酒場で仲間を集めれば良いらしい。
っていうか、貧弱なボーヤ(17)が「魔王を倒しに行きたいので一緒に来てください!」なんて言っても相手にされるとは到底思えないんだが・・・。
俺はため息をつきながら酒場に入っていった。
酒場の中はそこそこ客がいて賑わっていた。
客の殆どは冒険者の様で、中には立派な鎧を着た強そうな戦士もちらほらといる。
これは期待できるかもと思い直し、まずは酒場のマスターに話を聞いてみようとカウンターに座った。
「いらっしゃいませ、ご注文は?」
ヒゲを生やしたマスターに俺は「ミルク」と答えた。
するとカウンターの端から声がした。
「おや〜? ここは酒場よぉ〜、さ・か・ば。ママのおっぱいが恋しいボーヤがくる所じゃないわよ〜?」
俺は女の下品な声が聞こえた方をみると、カウンターの端で黒いマントを着た若い女がこっちを見てニヤニヤとムカつく笑みを浮かべている。
俺はチッと舌打ちをして「バーボン」と言い直した。
決して安い挑発に乗ったわけではない。
やはり、ボーヤだと思われて仲間が集まらなかったら嫌だったからだ。
「やれば出来るじゃないのよ、ボーヤ」
「フン、そっちこそジュースで薄めたカクテルか、背伸びはやめとくんだな」
「なんですって〜! マスター、ウィスキーよ、ウィスキーお願い!」
女は怒りをあらわにして席を立ち俺の隣にドカンと座った。
女の顔を近くで見ると多少メイクで大人っぽく誤魔化してはいるが、俺と同じぐらい年齢の幼い顔立ちをしているのがわかる。
「・・・バーボンとウィスキーです」
マスターが困惑した顔で酒を持ってくる。
「フン、小娘の癖に無理して飲まなくても良いんだぜ?」
「あんたこそ、ボーヤのクセに本当に飲めるのかしらね!」
俺はコップを握りしめ隣の女をにらむ。
女も同じくコップを握りしめ凄い表情で俺を睨んでいる。
・・・こいつには負けん!
俺たちは互いの酒を一気に飲み干し叫んだ。
「「マスター! おかわり!」」
それからだいぶ夜も更けた頃・・・
「あんひゃ、なかなかやりゅわね・・・・ウップ」
「ふ、貴様こしょ、意外とれきるおんなりゃないか・・・うぃっぷ!」
俺とマントの女はお互いの健闘を称え合うとほぼ同時に路地で胃の中身をリバースしていた。
俺たちはあの後、酒飲み合戦になり、お互いの意地とプライドを賭けた激しい戦いが展開された。
バーボンとウィスキーに飽き足らず、ビール、ワイン、果てはウォッカなど色んな酒を飲みまくり今に至るというわけである。
女はひとしきりゲロるとそのまま地面に座り込み壁に持たれウトウトし出した。
「おひっ、ちょっ、おまへ、こんな所で寝るんぢゃねーよ・・・」
「・・・」
ダメだ、全く起きない。
さすがに女一人をこんな路地裏でほっとく訳にもいかず、ゆさぶったりしたが「うぃー」とか「あらしのほうがのめりゅわりょ・・・」とか意味不明の寝言を呟くだけでまったく目を開けない。
てか、こいつんちどこなんだ?!
「おひ、おまへんち、どこにゃんだよ!?」
「・・・うぃ〜・・・」
ダメだコイツ・・・。
俺は仕方なく女に肩を貸し、時には歩き、時にはおぶり、時には俺がゲロを吐きながら俺の家に向かった。
□□
「キャアアアアアー! 何、何なの!?ここどこなの!?」
次の日の昼すぎ、俺は女の悲鳴で目を覚ました。
女は俺のベットの上、俺がうつ伏せで床に倒れていたので、死体と勘違いしたらしい。そうだ、俺は昨夜女をベットに運んだ後、力尽きてそのまま床で寝ちまったんだっけ。
俺は起き上がって頭をボリボリとかきあぐらをかく。
「ここ、俺んち。お前が酔っ払って家の場所も言わねーし、仕方なくうちに連れてきた。」
「ちょっ、あんたんち!? あたしに変な事してないでしょうね!」
「お前みたいなゲロ臭い女に誰が何かするんだよ!」
女はハッとしてシーツや服についたゲロの跡を見て、悔しそうに顔を歪め、目に涙を浮かべて俺を睨んだ。
すっかり化粧がはげてむき出しになった女の年相応の少女らしい素顔に濡れた瞳・・・何だ!? けっこう可愛いところあるじゃないか・・・!
「ふ、風呂沸かしてやるから、ちょっと待っとけ!」
俺は女の幼い素顔にドギマギしながら逃げるように部屋を後にした。
俺んちは貧乏なんで風呂なんて無い。共同住宅用の小さいな風呂を沸かすと洗濯ものを取り込んで女に俺の服を着替えとして渡し、風呂に入らせた。
その間にゲロまみれになったシーツや俺の服を洗う。
そんなこんなをしていると女が俺の服を着て風呂から出て来た。
湯上りの濡れた髪、少し上気した顔・・・やっぱ可愛いなとか思っていると女はおもむろに
「あんたの服、だっさいわね・・・、もっといい服なかったの?」
と、ほざいた。前言撤回、ぜんっぜん可愛くねぇなコイツ!
「ゲロ女、お前もゲロまみれの服、洗っちまえよ」
「・・・っ!ゲロ女じゃないわ!私にはシーズーって名前があるのよ!」
「あー、ハイハイ。じゃあシーズーさんはここで服洗ってゲロを落としていって下さいねー? 洗ったらそこに干しとけば良いから」
俺は肩をすくめてシーズーに洗濯板を渡して、その場を立ち去ろうとした。
「・・・っあんたの名前はなんていうのよっ!」
お、馬鹿にされたのがわかったのか、怒っているな。
プルプルとしているシーズーに俺は「ノービスだ」と言って俺んちに戻った。
□□
俺は母親が昨夜作ったと思われるスープをかまどに火を起こして温める。
そしてそのかまどの火でパンを軽く炙り、皿に乗せテーブルにいるシーズーに渡して食うように促した。
スープを二つの器にいれテーブルにおき、俺も椅子に座って食事をする。
「・・・マッズイ料理ね・・・!」
「俺の母親が作ったスープだ。俺を馬鹿にしたいのなら好きにすればいいが、母親を馬鹿にすることは許さない」
俺が静かにそう言うと、
「・・・あたしが悪かったわ。あんたの母親を馬鹿にするつもりはなかった」と、素直に謝ってきた。
どうやらシーズーは口は悪いが心根まで悪いやつじゃないらしい。
食事をしながら、お互いの話をポツリポツリと始めた。
俺は、昨日突然王様に呼び出されて勇者に任命された事、酒場に行ったのは仲間を募る為だった事などを話した。
シーズーは冒険者になったばかりの魔法使いである事を話してきた。
「ノービス、あたし、あんたの仲間になってあげるわ!」
「シーズー・・・!」
「あっあんたがあんまりにも頼りなさそうだから、せ、せせ先輩冒険者としてアドバイスしてあげるって事よ! 勘違いしないでよねっ!」
「ああ、分かった。ありがとう、助かるよ!」
俺は何故か頬を赤らめてプンプンしているシーズーにお礼を言って握手をした。
□□
善は急げ、ということでその日のうちに王都の外の比較的弱いモンスターの出る場所に行くことになった。
シーズーは一旦宿屋に戻り準備を整えて来るとの事で王都の外門の前で待合せをすることにした。
シーズーが中々来ない。俺は家で皿を洗って洗濯物を片付けてから出て来たが彼女はまだ来ていなかった。冒険者ともあれば色々準備があるんだろうなと思って待っていると、遠くから彼女が歩いてくるのが見える。とんがり帽子と黒っぽい服に変わった形の杖を持っていていかにも魔法使いって感じだ。メイクも元の大人びた感じにバッチリされている。
「お待たせー・・・って何でアンタ普通の服に木の棒しか持ってないの!? 冒険者なめてんの!?」
いきなり怒られた。
「いや・・・王様に支度金もらったんだけど、昨日の酒代に全部消えたから買える装備が無い・・・」
「あー・・・」
お互いに色々と昨夜の事は深く反省してる訳で・・・何とも言えない気まずい空気が流れる。
「と、とにかく、その長い棒・・・棍っていうのかしら、それを持っているって事は多少武術の心得があるって事よねっ? そ、それなら少しはっ」
彼女の優しいフォローが心に沁みる・・・
「これはヒノキの棒、・・・家にあった物干し竿だよ・・・」
「・・・・・・」
うん、もっと気まずくなった。
□□
「ほ、炎の精霊よ、あたしの・・・我が前に姿を現し、そのそのその・・・その姿をあらわし・・・その力を示せ、ファイアー!」
ぼおぉぉおお
「ギョエエエエエエ!」
シーズーの魔法で犬ほどの大きさの有翼の名前も知らないモンスターが炎に包まれ、断末魔の叫びとともに地面に落ちて絶命する。
多少たどたどしい所はあるけれど彼女は魔法を使ってモンスターを倒して見せてくれた。
俺は魔法を初めて見た感動で「おおー!」と声を上げて拍手した。
「フン、あたしにかかればざっとこんなもんよ!」
「いやあー、シーズーってただのゲロ女じゃなかったんだな。凄いな!」
「ちょっと! もうゲロ女って言うんじゃないわよ!」
怒ったシーズーをよそにふとさっきのモンスターの焼死体を見ると、その後ろに半透明のヌトヌトした生き物が地を這っているのが見えた。
核を明滅させてズルズルとこちらに向かってくる。
これは知ってるぞ、スライムって奴だ。これなら俺にも倒せそうな気がする。
「よし!次は俺の番だぜ!」
俺はスライムの粘着質の体の中の核に狙いを定めて、ヒノキの棒を構えた。
「ちょっと、ノービス!そいつはあんたじゃやめといた方が・・・!」
「大丈夫、大丈夫!これならいけるって!」
「いや、そうじゃなくて・・・」
俺はシーズーの制止も聞かず棒を振りかぶってスライムに叩きつけた。
ぐちゃああああ
棒の先が核に当たって割れ、白や黄色やピンクの粒々が核の皮から潰れてどろりと出てくる。
スライムは絶命したようだがその内臓?それとも卵的な何か?の生理的嫌悪をもよおす半端ないモノがぐちゅぐちゅとして気持ち悪い。
俺はなるべくそれを見ないようにヒノキの棒を引くも棒の先にしたたる不透明の粘液に思わず
「ウゲェエエエエエエ」
吐いた。思いっきり吐いた。
「あ〜あ、言わんこっちゃない・・・スライムは叩き潰すと本っ当に気持ち悪いから、魔法で焼くのが一番なのよ・・・」
シーズーはため息をついて、俺の背中をさすりながらそう言った。
「ううっ、ごめん・・・ウップ」
俺は涙とゲロにまみれた顔を上げ彼女に謝ろうとしたが、再びスライムのぐちょぐちょ死体を見てしまい、また吐いた。
「ああ、もう、汚いわね。ゲロ男、ちょっと大人しくしてなさい。
アレ、始末してくるから。」
そう言って彼女は優しく俺に見覚えのある布を渡すと離れていった。
俺はその布で口の周辺を吹き、ふとその布をみた。
これ・・・さっきシーズーに貸した俺の服じゃねーか!!
「炎の精霊よ、我が前に姿を現し・・・」
彼女がスライムのぐちょぐちょを焼き払おうとして呪文を唱えているのが聞こえる。
「・・・その力を・・・おええええええ」
あ、吐いた。
俺はカバンの中から乾いた布と水筒を出してぐちょぐちょの視覚的暴力に耐えきれなかった彼女に水を飲ませる。
彼女が水を含み吐き出したところで、布を渡した。
彼女は布で顔を拭き、俺と布を交互に見る。
俺もまた彼女の顔をマジマジとみる。
顔を拭いたせいでまた化粧が落ちて、その年相応の少女らしい顔が現れている。
「あ〜ゴホン、俺はシーズーは化粧してない方が可愛いと思うよ?」
俺は恥ずかしいのでちょっと咳をしながらそう言うと
「こ、こ、こ・・・・」
彼女が顔を赤らめているのがわかる。
俺だって恥ずかしいんだけど・・・そんな風に思ってフイっと視線をそらすと
「こ、これ、私のパンツじゃないのー!!!」
彼女の声が草原に響き渡り、俺は彼女の魔法の杖でぼっこぼっこにされたのは言うまでもない。
乾いてたから持ってきてやったんだけどなぁ・・・、やっぱりシーズーは可愛くない女だ!
こうして俺こと勇者(17)の旅はまだまだ試練が続くのである。
おしまい
先日、深夜にゴキブリと格闘になり、その時に思いついた話です。
あれ、マジで嫌ですよね〜。
友人は殺虫剤に火をつけてファイヤーして倒すと言ってましたが、ビビリの作者にはそんな高度な魔法は使えませんでした。良い子の皆さんはマネしないでね!
よろしかったら感想下さい。