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帰宅後(1)

 夕方、俺は自分の部屋で何をする事もなく、寝転がっていた。

 今朝の事で自己嫌悪に陥り、何もする気が起きなかったから。

 引きこもる二ヶ月前よりメンタルが弱くなっていることは、自分自身でも分かるため、余計惨めだった。

 その時、玄関のドアが開いたかと思えば、乱暴に閉まる。

 レオナが帰ってきたことを知らせる合図。

 怒っていることは明白だ。


「優太、私を置いて勝手に帰らないでよ!」


 帰ってくるなり、俺の部屋に怒鳴り込んできた。

 ついでといった様子で俺のカバンも持って帰ってきてくれたらしく、それを床に放り投げる。


「悪い悪い、体調が悪くてさ。それとカバン、サンキュ」

「せめて、それだけでも私に伝えて帰ってよね。私も一緒に帰ったんだから」

「そんな自由な事が出来ないのが学校だって」

「そんなの知らない」


 かなりご機嫌斜めらしい。

 今までに見た事がないぐらいの怒り方だ。

 残念な事に怒った姿もあまり怖くないのはなぜだろう?


「今日も変な三人にずっと絡まれるし、最悪」

「三人?」

「うん、アホとバカとか砂糖とか」


 俺を苛めているABCの三人のことだとすぐ解る。

 っていうか、三人と聞いた時点でそいつら以外思いつかなかったけど……。いや、そんなことはどうでもいい。問題はレオナが変なことをされなかったか、ということだ。

 ベッドから立ち上がるとレオナの手を掴み、手の甲などを確認してみる。

 何も言わずにそんな行動した俺を不思議そうに見つめていたが、抵抗はしなかった。


「何もなかったか?」

「別に? あ、『彼氏がいるか?』って聞かれたけど……」

「それぐらいならいいや」


 俺は再びベッドに横になる。

 あの三人が俺の家族であるレオナに手を出す可能性を忘れていた。

 レオナがどういう自己紹介をしたかまで知る必要はない。ただ、家族ということだけで、関係のないレオナまでイジメが広がる事だってある。やっぱり無理してでも学校に居た方が良かったのかも、と今さら後悔してしまった。


「あの三人と何かあるんだ?」

「ほっとけ。レオナが関与する事じゃない」

「巻き込みたくない、とか?」


 ベッドに座りながら、レオナは俺の考えをバカにした笑いをする。

 ちょっとだけイラッとしたが、そんな挑発に乗るほど俺は子供じゃない。だから、あえて無視した。


「ふーん、無視するんだ?」

「……」

「とう!」


 レオナは何を思ったのか、上に乗っかってくた。

 その顔は悪巧みをしてやろうと思っている顔。

 すぐにその顔を隠すように俺の右肩に埋める。

 何を意図してこういう行動をしてきたのか、分からないが俺は動揺してしまう。胸を押し当てるだけならまだ我慢出来たと思う。

 しかし、それだけじゃなかった。

 足を絡め、俺の耳にワザとらしく息を吹きかけてくる。

 今までこういうことをされた経験は一切ない。それだけに、自分の身体のある一部が大きくなるということは免れなかった。


「ねぇ、どんな気持ち?」

「ちょ、やめろ」

「いーや♪」

「なんでだよ」

「落ち込んでいる優太がいけないの。だから、私が身体を張って慰めてあげようかなって思ってさ」

「そんなこと頼んでないだろ」


 レオナはさっきから耳元で甘い言葉を囁き続ける。

 しかも、俺の大きくなった部分を触りながら――。


「落ち込んでるくせに。こっちは大きくなるんだねー。少しはマシになった?」

「は?」

「優太らしくない落ち込み方してるからさ」

「うるさいな」


 俺は無理矢理起き上がろうとすると、レオナは俺の上から素直に降りる。そして俺に背中を向けるようにして俺の股の間に座ってきた。

 なにやら甘えたいらしい。

 理由は不明。

 今まで俺を励ましていたみたいなので、その見返りなのだろうか?

 そう考えると、俺は拒否出来なかった。

 間違いなく、レオナが帰ってくるまでとは違い、少しだけ元気になっていたからだ。


「下手な励まし方だな。でも、少しだけ元気が出た」

「ん、それならよろしい」

「なぁ、お前は本当に魔王なのか?」

「魔王だけど?」

「その魔王が人間にこんな風に優しくして良いのか?」


 俺の質問に自分の顎に手を置いて、考え始めるレオナ。

 何も考えずにしていた行動らしい。

 確かに殺される事と比べると格段にマシなのだが、俺の想像とは少しだけかけ離れている気がする。本来、魔王と呼ばれる者は残虐非道、人間の命も蚊並みにしか思っていない生き物だ。


 最近では、人間にも優しい魔王の小説も多いけれど、そういう主人公は何かしらの要因があって選ばれている。例えば、特殊能力を持っていたり、世界そのものが異世界だったり、考えるだけでたくさんあるだろう。

 でも俺はそれには当てはまらない。

 イジメを受けて、逃げるように引きこもった。

 それ以上にケンカした自分に嫌気が差したのかもしれないけれど……。


「考えても分からないから、『私がいた世界の人間じゃないから優しくしてる』ってことで納得してくれればいいよ」

「そんな単純なものなのか?」

「そうだよ。私が滅ぼしたかったのは元居た世界だからさ」


 忌々しげに『元居た世界』を強調した。

 まるで憎しみであるかのように握り拳を作り、歯軋りを鳴らす。


「何かあったのか?」

「知らなくていいことだよ、優太は。私個人の話だし、元の世界に帰ることになったら、優太とはお別れだしさ」

「感情を感じないように言い切るんだな」

「寂しいの?」

「それはないな。まだレオナのこと何も知らないから、興味はあっても寂しがるほどの感情はまだ生まれてない」

「でしょ?」


 レオナもそのことが分かっているらしい。

 一回目はまともに話すことが出来なかったからノーカウントとしても、まともに話せる状態で出会って二日目だ。一日でそこまでの感情を持つほど、俺は出来た人間じゃない。少なくとも俺個人の問題で巻き込まれないように願ってはいるけど……。それでレオナを巻き込んでしまった場合は、間違いなく魔王としての力を発揮するに違いない。

 それで周りが傷つくのが正直嫌だ。

 だからこそ、頑張って学校にも行かないといけないのに、そう考えるだけで吐き気やら不快な気分になってくるから困ってしまう。


「ま、いつまでもこの部屋にいてもしょうがないし、自分の部屋に戻れ」

「あるの?」

「え?」

「だから私の部屋、用意してあるの?」

「……忘れてた」

「うん、知ってた」


 口では流しているが、軽く文句を言いたそうな目で俺を見つめるレオナの顔が膝の中にあった。


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