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幼馴染

 訪問客は俺の幼馴染。

 名前は南野みなみのゆい。ブラウンの髪をしており、左側でサイドポニーテールを作っている。ちなみに左側の前髪にもヘアピンを着用。なぜ左側だけをこんな結ってあるのかは分からない。

 趣味はお菓子作りで毎週日曜日はお菓子を作って持って来てくれる。その理由も不明。おやつになるので、俺も拒否する事はない。たまに見たこともないお菓子を作ってくれるが、名前を聞いても覚える気がないのでよく分からない。

 その唯は自分が見たことのない人物を見て、完全に固まっている。


「優太、この人誰?」

「幼馴染の南野唯だ」


 玄関の前まで行き、唯の前で手を振る。

 何回か振っているとハッとしたようにレオナを指差す。


「ゆ、ゆゆゆ、優ちゃん、この人誰?」

「この人とは失礼じゃない?」

「レオナも言ってたけど?」

「そうだったっけ?」

「うん。って、この人は俺の父さんの再婚相手の娘のレオナだ。いきなりだけど、今日から一緒に暮らすことになったんだ」

「へ、へー。優ちゃんの……か、彼女かと思った……」


 唯は上擦った声でそう言った。

 かなり動揺している事が伺える。

 唯の立場なら俺も同じく動揺したことだろう。今まで一人っ子だと思っていた人の家に自分が知らない人がいたら、絶対に同じ反応をしている。しかも、異性だとしたらなおさらだ。


「え、えっと! し、失礼しましたー!」

「ちょっと待て!」


 その場から逃げ出そうとした唯の袖を掴んで、引き止める。


「な、なに!?」

「レオナを俺の代わりに学校に連れて行ってくれ」

「え?」


 唯が顔を俺の方に向けると、ちょっと目に涙を浮かべていた。

 予想もしてなかった状態に俺も戸惑いつつ、話を続ける。


「レオナが転校生として学校に入るんだけど、俺が行くの嫌だから頼むわ」

「ちょ、ちょっと、それは自分が連れて行かないと駄目だよ!」

「そこを頼む」

「ねぇ、なんで優太は学校に行きたくないの?」

 

 二人の会話にレオナが口を挟んでくる。

 興味津々のようで、目を光らせていた。まるで子供が新しいおもちゃを買ってもらうためにデパートに行くかのように。

 唯も同じように俺の顔を伺いつつ、口を閉じる。

 アイコンタクトで俺に「言ってもいいの?」と尋ねてきた。


 もちろん俺は首を横に振る。

 いくらなんでも幼馴染にそんなことを言わせるつもりはない。唯は唯でそのことについて傷ついているからである。本人は気付かれないフリをしているのかもしれないが、付き合いの長い俺には隠しきれていないのだ。

 そうなると自分の口から言うか、レオナの言うとおりに学校に行くかの二択しか俺には考えられない。

 選択肢として選ぶには後者しかなく、俺は「はぁ」とため息を漏らして、


「分かった。着替えてくるから待ってろ」


 と言うことしか出来なかった。


「え? 行っても大丈夫なの?」

「行って欲しくないの?」

「違うよ! そうじゃないけど……」

「たぶん大丈夫だろ。レオナは大人しく唯と仲良く話してろ。俺は着替えてくる」


 二人にそう言って、俺は自分の部屋へと向かう。

 何ヶ月ぶりに着るのか分からない制服を着て、歯磨きなどを済ませて二人の元へと戻る。

 時間にして二十分も経っていない。

 二人はその間に仲良くなっていた。


「お、早かったね」

「早く行こうよ」

「お前らはなんでそんな楽しそうに話してるんだ?」

「今度、唯に美味しいパフェを食べに連れて行ってもらう約束をした!」


「うんうん、やっぱり女の子にはスイーツの話が一番ってことだよね!」

「知るかい」

「優ちゃんは知らなくていいの!」

「そうそう、男には分からなくていい話だね!」


 さっきよりも目を輝かせながら、レオナは楽しそうに笑う。いや、きっと頭の中で妄想しているのだろう。今にでも涎が出そうなぐらい生唾をさっきから飲んでいる。自分が魔王だってことを忘れているのではないか、と思ってしまうほどに。

 それくらいレオナが人間として馴染んでいた。

 三人は通学路を並んで歩いていく。

 もちろん真ん中はレオナである。


「でも転校生がレオナさんだって知らなかったなー」

「もう噂になってるのか?」

「編入のタイミングが珍しいからね」

「それもそっか」


 唯の言葉に納得すると、レオナはその言葉の意味が分かっていないのか、首を傾げているので唯が補足した。


「高校になってまで編入する人が珍しいってことだよ」

「そうなの?」

「俺だったら、間違いなく高校にはもう行かないな」

「優ちゃんの考えは別として、高校生だったら一人暮らししても大丈夫な年齢だから、地元の友達と別れないためにも転校はしないかも」

「そうなんだー」

「友達と別れる時、レオナさんも寂しかったでしょ?」

「そ、そうだよ。うん、寂しかったかな……」


 軽く顔を下に向けながら話すレオナ。

 いったいどの場面を思い出しながら、そう言っているのか分からなかった。けど、その言葉は本当の意味で悲しみを表現している事だけは間違いない。

 唯もそれを感じ取ったらしく、必死にフォローの言葉を捜しているようだった。


「じゃあ、唯がレオナの一番の友達だな。俺は友達じゃなく兄妹になるし……」

「そうだね! 何か困った事があったら唯に相談しに来てね!」

「そう言ってくれると心強い! ありがとう!」


 そんな風に楽しそうに話している二人はもう問題ないと思った。

 二人とは逆に俺は体調が悪くなりそうだった。それは学校が近づくにつれて、どんどん顕著になっていく。

 一種のトラウマのせいである。

 そこまで強いトラウマがあるわけではない。ただ、心が「逃げろ」と訴えかけているだけであり、ある一線を越えると何の問題ないはずなのだが、気分が落ち着かなくて、ため息を連発してしまう。


 完全に身体が拒否反応を表し始めている証拠だ。

 レオナは気付いてないみたいだが、さっきから唯が心配そうに俺の方を見ていることは知っている。

 けど、反応をすればレオナも気付いてしまうので、俺は無視することしか出来なかった。


「友達がたくさん出来るといいなー」


 まだ学校の中にある闇を知らないレオナの言葉が俺は本当に羨ましく思えたのはきっと俺だけだろう。


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