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別れ

 しかし、やっぱり何を話せば良いのか、分からない。

 出会ってから約三ヶ月のほどの記憶はほぼ新しい記憶に近い。思い出そうと思えば、簡単に思い出せるからだ。というよりは、レオナの行動のほとんどが迷惑という言葉で片付けられるから、逆に印象深すぎる。


「ねぇ、何か話してよ。間が持たないじゃん」


 どうやら我慢出来なくなったレオナが俺を急かし始める。

 この間の時間がもったないないと感じたようだ。


「そういう、お前から何かきっかけを持ってきてもいいだろ?」

「あー、うーん……、そうそう、初めて来た日はごめんね? 背中痛かったでしょ?」

「痛みより驚きの方が強かったけどな。いきなり、自分の部屋からボンテージ着た女の子が現れてみろ。気がおかしくなってもしょうがないと思う出来事だぞ」

「こんな美少女が現れたら、そうなってもしょうがないね!」

「そういう奴に限って、美少女じゃなかったりするから安心しろ。身体だけは認めてやる」

「――さっきからそんなこと言ってるけどさ、なんか私のことを身体目当てで見てるような言い方だよね」

「なっ!?」


 顔が赤くなるのが分かった。

 そんなつもりで見た事は一度もない。

 だから、変に動揺してしまう。


「そ、そんなわけないだろっ!!」

「冗談だよ、冗談!」

「冗談にしても酷いぞ!」

「酷い事が大好きな魔王様ですから」

「都合の良いときだけ魔王とか言うなよ!」

「いいじゃん。本当のことなんだし!」

「それはそうだけどさ」

「でしょ?」

「だな」


 会話がまた止まってしまう。

 話が尽きたわけじゃない。話したいことがたくさんありすぎて、逆に何を話せば良いのか、分からなくなってしまった。思い出話をするには時間が短すぎるのだ。

 レオナはそんな俺の様子を見て、再び話題を出してくれた。

 情けない限りだ。


「でもさ、風間見てて思ったけど、私が出会ったのが優太で良かったよ。いや、本当に」

「そうか? 大したことはしてないと思うけど」

「大したことしない方が無難じゃない? っていうか、風間みたいに色々命令されたら大変な事になってたと思うよ?」

「世界征服とかしかねない――」

「そっちじゃなくて、私が風間を殺してたという意味で」

「そっちかよ!」

「うん。だって、そっちの方が濃厚でしょ? 私が簡単に言いなりになると思う?」

「ないな。絶対にない。する方はしたとしても」


 即断即決だった。

 俺との生活でも振り回されることの方が多かったのに、簡単に言いなりになるはずがない。きっと、変な知識を埋め込まれたとしても、正しい情報を手に入れた瞬間から信用がなくなり、殺されるパターンが容易に考えられる。

 改めて、邪な気持ちを持たなくてよかった、と思った。


「でしょ? 優太には色々と教えてもらったから、本当に感謝してるよ。ありがとうね」

「俺もありがとうな。俺も楽しかったってのは嘘じゃない。最後の最後でこんなあっさりとしたお別れをするとは思ってなかったけどさ」

「それは私もだよ」


 レオナはそう言って、唯から手を下ろした。

 どうやら、記憶の消去が終わったらしい。

 唯はその影響のせいでその場で倒れかけたが、レオナが支えることでそれは免れる。


「一応、お別れの記憶を入れておいたよ。たぶん、今日はもう目は覚まさないだろうし……」

「そっか、ありがとう」

「簡単な仕事だよ、これぐらいは。あ、今日は唯を泊めてあげれば? でも、襲っちゃ駄目だよ?」

「しねぇよ! そういうのはちゃんと付き合ってからする」

「気持ちは知ってるしねー?」

「からかってんのかよ?」

「うん」

「否定しろよ」

「やーだよ!」


 レオナは何も変わらなかった。

 寂しい気持ちをさっきまでの俺と同じように隠しているのか、それとも深く考えていないのか。

 それは分からなかったが、俺の中での寂しいという気持ちは消えていた。


「話は終わったか?」


 グレンもちょうど帰ってきた。

 まるで、タイミング見計らったような感じだったので、どこかで俺たちの会話が終わるのも待っていてくれたのかも知れない。


「風間は?」

「看護師に託した。ま、俺がいつまでも居てもしょうがないからな」

「そっか」

「じゃあ、優太には唯を託そう」


 そう言って、レオナが唯の身体を俺に向かって突き飛ばしてくる。

 俺が受け止めるという確証があっての行動だが、少しだけ焦ってしまった。もちろん、ちゃんと受け止めたが……。


「危ないんだよ!」

「ごめんごめん。じゃ、本当にお別れだね」

「そうだな」


 レオナが手を何もない場所に向けると、腕輪を取り出した時よりも大きな入り口が出来上がる。

 今、居る位置からは上手く見えないが、色んな物が置いてあるということだけは分かった。こちらが夜に反して、あちらは明かりが点いているせいでキラキラと光っている物が見えたに過ぎないけれど。


「俺だけがこうやって見送るのはずるいのかもしれないな」

「ま、いいんじゃない? 異世界の人と初めて出会った特権として」

「そう考えるとありかも」

「あ、学校のこと、どうしよ」

「俺が上手く言っとく」

「そっか、ありがとう。最後の最後までごめんね?」

「いいさ、置き土産にしとく。レオナらしい迷惑な置き土産だろ?」

「そんなに迷惑なことしてたかなー」


 俺の意地悪な発言にレオナは少しだけ頬を膨らませつつ、悩み始める。

 自覚がないって素晴らしいな。

 そんな他人に普通に迷惑をかけられる性格を見習いたいと思ってしまうほどに。

 ……やっぱり思うだけにしとこう。


「ほら、いいから帰れよ。名残惜しくなるし」

「あー、そうだね。グレン、先に行ってよ」

「分かった。じゃあな、優太。元気でやれよ」

「じゃあな」


 グレンはその入り口へと入り、完全に姿が見えなくなる。

 次はレオナが入ったかと思えば、顔だけ出してきた。


「ん? どした?」

「さよならは言わないよ。寂しくなるからさ!」

「お、おう」

「またね」

「はいはい、またな」


 レオナは手を最後まで手を振っていた。

 入り口が閉じる最後まで。

 公園には再び静けさが戻る。

 この静けさが今の俺の気持ちを現しているようだった。


「さ、帰るか」


 俺は自分に元気を出すように言って唯を背負い、家に向かって歩き始めた。

 レオナとの思い出を心に刻み込むようにゆっくりとした足取りで……。


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