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帰る方法

「ねぇねぇ、こっちからあっちに戻る方法知らない?」

「知るわけないだろ。むしろ、そっち方面の魔法は俺よりレオナのほうが詳しいだろ」

「私は事故でこっちに送られてきたんだよ? グレンみたいに自分からじゃないの。分かってる?」


 レオナは腰に手を当てて、グレンに不満をぶつけるように胸元に指をグリグリと押し付けた。

 レオナのそんな行動に対して動じず、それどころか呆れた様子でため息を吐いた。


「優太、レオナはいつもこんな調子なのか? まるで子供じゃないか」

「そんな感じかな。学校の授業もノートに落書きして遊んでるし。まぁ、頭は良いみたいだから、ちょっと勉強したら分かるみたいだけど。あ、ちなみに身体は大人だから」


 素直に自分の意見を述べると、不満そうにレオナが俺を睨みつけてきた。


「なに、それ? 絶対、バカにしてるでしょ?」

「バカにされる行動しかしてないじゃないか」

「うるさいよ、グレン! って、さっきから唯は真剣に考え込んでるの?」


 グレンの突っ込みに文句を言った後、レオナは唯へ顔を向ける。

 そういえば、さっきから唯が無言になっているのは気付いていた。一応、俺たちの会話への反応は示してはいたが、心はここにあらずといった様子。

 話を振られて、唯はおそるおそるレオナとグレンに考えていたことを話し始める。


「ねぇ、もしかしたら……戻れるかもしれないよ? たぶんだけど……」

「え、本当に!?」

「どうやってだ!?」


 二人が唯の話しに食いつくように近寄る。

 俺は唯のその言葉に、少しだけ心が締め付けられるようなものを感じてしまう。

 別れが近いせいだ。

 少なくとも唯の言葉から、あっちの世界へ帰る糸口を見つけるという直感が働いてしまった。もはや確信に近い。

 なぜだろうか?

 なんで、そんな確信を持てるのだろうか?

 唯はたぶんと言っているのに……。


「あのさ、二人が腕輪や武器しまう時にどこか別の空間を開いてるでしょ? それってどこに繋がってるの?」

「俺のは分からないな。パーティの魔法使いに教えてもらって、設定自体も魔法使いにしてもらったし」

「私は自分の宝物庫だよ。いろいろと溜め込んでるの!」

「じゃあ、レオナさんに聞くけど、その入り口って大きく出来ない? 人間が通れるくらいの大きさに」

「魔力に関係するね。この状態だと手で運べる大きさが限界。契約してたら、人間が通れるぐらいの大きさに出来るかな? あっちでは普通だったし……」

「じゃあ、その入り口を使えば、元の世界に戻れるんじゃない?」

「「あー!!」」


 二人は顔を見合わせて叫び、そして思いっきり落ち込んだ。


「あ、あはは……、全然気付かなかった」


 さっきまで普通にやっていたことに糸口があると思っていなかったからだろう。

 俺も気付かなかったけど……。


「あ、でも、そうなるとお別れになるんだ……。ご、ごめん、優ちゃん」


 唯は俺の方を見ながら、軽く頭を下げた。

 理由が分からない。

 確かに悲しい気持ちはあるけれど、その気持ちは隠している。だって、そんな悲しい顔をしてしまえば、レオナは帰れなくなるからだ。


「何、不思議そうな顔してるの? 我慢してるみたいだけど、優太泣いてるよ?」

「え?」

「気付いてなかったのか? 涙目になってるぞ?」

「うん、だから……ごめん」


 三人に言われて俺は初めて気が付いた。

 レオナが帰れると知って、どれだけショックを受けていたんだろうか。問題はなかったはずなのに……。


「帰ってほしくないなら、素直にそう言えばいいのに」

「そんなわけないだろ。お前みたいなワガママがいなくなったら、清々するよ」

「ちょっ、ひどっ!」

「だから、ちゃんと帰れ。ここにいるべきじゃないだろ? グレンに倒されるにしろ、世界を征服するにしろ、お前はお前の世界で生きるのが一番だ」


 バラすはずなかった本心がバレてしまった今、誤魔化すにはこう言うしか出来なかった。

 傷つけても仕方ない。

 いや、本当は笑顔で見送りたかったのに、こんな状態ではそれも敵わない。

 こうやって強がることが精一杯。

 情けないなんてものじゃなかった。


「そっか、そうだよね! じゃあ、優太の言う通り、帰らないといけないね」

「お、おい、レオナ!」

「しょうがないよ。いつかはこうなることが分かってたんだしさ。というわけでさ、もう一回契約してくれる?」

「そ、それは構わないが……」


 レオナは俺の気持ちを察してか、再び宝物庫から腕輪を取り出し、グレンに渡す。グレンも戸惑いながらも腕輪を受け取り、お互いが傷を付けて、再び契約した。


「優ちゃん……」

「いいんだよ、本当にこれで」

「……う、うん」

「あ、思い出した」


 レオナはそう言って、唯に近づくと頭に手をかざす。

 同時に唯は自然と目を閉じてしまい、立っているだけの状態になってしまう。

 風間の時と同じように記憶を消している、と気付いた俺は慌ててレオナの腕を掴む。

 なんで、記憶を消そうとしているのか分からなかったからだ。


「お、おい!」

「私がバラしちゃった告白の記憶を消してるだけ。さっきよりも時間がかかるのはしょうがないけど。もしかして、優太も忘れてた?」

「あ……そ、そういえばそうだったな」

「お互いが忘れてたんじゃ仕方ないね」

「じゃあ、俺はその間に拓を病院にでも運んでくるか。その間にちゃんと別れのあいさつをしとけよ」


 グレンは風間を背負うと公園から出て行く。

 気を使ってくれていることが丸分かりで、俺は少しだけ困った。

 別れのあいさつと言われても、何を喋ったらいいのか、全く分からなかったからだ。


「本当にグレンも不器用だよねー」

「そう言ってやるなよ」

「優太ほどじゃないけどね」

「うるせえ」

「バーカ」

「それはお前だ。唯の記憶消すのにどれくらいかかりそうだ?」

「まだまだかかるから、時間はあるよ」


 レオナは微笑みかけてきた。

 その表情でなんとなく嘘なのが分かる。

 グレンと同じようにレオナも時間を作ってくれているのだ、と。

 だから、俺は二人の好意に甘えることした。


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