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グレンの決断

「疲れるのはまだ早いぞ」


 そう言って、グレンがレオナの腕を引っ張り、風間の元へと連れて行く。

 レオナも逆らう事はせず、素直にグレンに付いていった。そして、風間の元へと辿りつくと、手をかざして風間の周囲に小さなオレンジ色の結界を張り、治療を始める。


「話的には私を倒しに来たって感じだったのに、なんでこんなややこしいことになったんだか……」

「しょうがないだろ。っていうか、唯たちに張ってる結界を解除してもいいんじゃないか? もう危なくないし」

「あ、そうだね」


 レオナは指をパチンと鳴らし、俺たちの結界を解いた。

 消えたのが分かった俺たちも風間の元へと向かう。クラスメートとして心配だったからである。正直、怒りたいという気持ちもあったが……。


「風間は大丈夫なのか?」

「肉体的にはね。精神的にはちょっとキツいかも……。でも、ちょっとの間、寝込むぐらいで治るんじゃないかな?」

「そっか」


 唯もホッとした表情を浮かべて、


「なんか安心した。ありがとう、レオナさん」


 とレオナに感謝した。


「お礼はちょっと違うかもしれないけどね。原因は私にあるみたいだし」


 ちょっとだけ落ち込んだ様子のレオナ。

 イジメの件を解決しなければ風間はこんな風になる事はなかったのかもしれない、と考えているのだろう。

 俺がフォローの言葉をかける前にグレンが口を開いた。


「拓も悪かったんだ。魔王だけの責任じゃない。そのことは唯から話を聞いて分かってる。少しばかり、魔王のことも見直さないといけないのかもな」


 三人ともグレンからそんな言葉出ると思ってもいなかったので、ちょっとだけ驚いた。いや、レオナだけはかなりびっくりしていた。

 そして、クスクスと笑う。


「グレンらしくなーい」

「そう言うなら、魔王らしくない行動をしたお前が悪いんだろ。いくら、やりたいことをやったとしてもな」

「そうかもね。んでさ、私との決着はどうする?」


 レオナはグレンを真剣な目で見つめながら問いかける。

 その目を見る限り、間違いなく死ぬ覚悟はしているのだろう。

 公園に来た時とは違い、今回はまともな状態で決着を付けるという状況に、俺は「生きろ」なんて簡単に言えなかった。

 唯もその言葉に不安を隠せず、俯いてしまう。


「――この世界にいる限りは無理だな」


 グレンが俺たちの気持ちを察してか、諦めたかのようにレオナがはめている腕輪を取る。同時にグレンに装備させられていた鎧が消え去り、持っていた剣を別空間に片付けることで、戦闘の意思がないことを分かるように教えてくれた。


「レオナはもう少し周りにいる人間の気持ちを素直に受け止めろ」

「お、名前で初めて呼んでくれた。っていうかさ、私を殺すためにここまで来たグレンにそんなこと言われたくないんだけど」

「それだけ、あっちでは悪い事をしたんだろうが!」

「まぁ、そうだけどさ。ちぇっ、せっかく殺される覚悟まで――」


 容赦なく俺がレオナの頭を引っ叩く。


「そんなこと言うな」

「痛いよ、もう」

「俺もな。まだ繋がっている事を忘れないでくれ」

「あ、ごめん」


 俺は素直にグレンに謝罪し、


「風間の回復はいつまでかかるんだ?」


 とレオナに尋ねた。

 レオナは風間の様子を確認しつつ、ちょっとだけ空を見上げる。頭の中で時間を計算しているようだ。


「んー、もう少しかな? 外見上はそれほどでもないけど、中がボロボロなんだよね。つか、食生活が荒れていたせいで内臓とかもボロボロ。その部分はなんとなく治してあげてるけど」

「治癒魔法ってそんなことも出来るのかよ」

「出来るやつと出来ないやつあるけどね」


 ちょっとだけ俺はその魔法を覚えてみたいと思った。

 そうなれば病院代も浮くからだ。いや、それどころか金儲けも出来るかもしれない。そうなれば就職難である今の時代では将来安泰なのは間違いないからだ。

 そんな俺の考えを見越したかのように、レオナは意地悪く突っ込みを入れてきた。


「うわっ、ものすごく悪い顔してる」

「え、いや、違う違う! 便利だなって思っただけだよ!」

「本当かなー?」


 レオナは完全に俺を疑いの目で見つめている。

 信用されていないらしい。

 そんな俺たちの会話に割り込むように、


「なぁ、拓から俺の記憶を消してくれないか?」


 グレンが真剣な表情でレオナにお願いしてきた。

 その残酷なお願いに俺はかなり動揺してしまう。

 風間を見ながらグレンは何やら思いつめた表情をしていたので、何か考えていることには気付いていたのだが、まさかこんなことを考えていると思っていなかったからだ。


「嫌な記憶かもしれないけど、風間と出会ったってことはだけは大事な思い出だろ!? 別に消す必要まではないんじゃないのか!?」

「いや、俺と出会ったせいで性格が歪んだ可能性もあるからな。気持ちは嬉しいんだが、俺がいても唯を傷つけたことに対しての罪悪感が生まれるんじゃないかって思うと……ちょっとな」

「それでもさ!」

「優太!」


 説得を止める様にレオナが俺の名前を呼んだことで、俺は口を閉じないといけなくなった。


「止めてあげなよ。グレンだって本当は消したくないかもしれないんだよ? でも、自分の気持ちよりも風間のこれからのことを考えて、そう言ってるんだと思うの。だから、そのことだけは認めてあげよ?」

「なんかそれ、寂しくないか?」

「グレンが良いっていうんだから、それでいいんだよ。でしょ?」

「ああ、それでいい」


 その意思は揺るがないらしいが、それでも顔は辛そうな顔をしていた。

 本当はもっと説得したかったけど、レオナのせいでそれ以上言う事は出来ず、俺は素直に謝ることにした。


「そうだな。ごめん」

「いや、気にするな。俺のことを想ってくれてありがとう」

「はい、治療は終了! あとは記憶を消すだけだね!」


 レオナは結界を解除し、次は風間の頭に手をかざす。

 しかし、それもすぐに終わる。

 手を置いて、約一分の出来事。


「はい、終了!」

「早すぎだろ!」

「だって、さっきの出来事からグレンに出会った時までの記憶を一斉消去でしょ? 一部分だけなら検索するのに時間が掛かるけど、まとめてだから始まりと終わりを選択したらいいだけだし」

「まるで編集みたいなもんだな。それはいいんだけど、この一ヶ月の記憶の代用はどんな記憶を入れたんだ? 変なの入れてないよな?」


 その言葉にレオナは顔を青ざめる。

 レオナの表情だけですぐに分かったが、わざわざ口にしてくれた。

 

「あ、それ、忘れてた。どうしよ……」

「消去だけで終わらせるなよ!」

「ご、ごめん! 何か考えなくちゃ! どんなのがいいかな?」


 レオナと俺はそれぞれ考え込み始める。

 が、グレンがすぐにそのことについて、提案を出した。


「記憶喪失でいいんじゃないか? 無理矢理、他の記憶に切り替える必要もないだろ。変な代用を入れて混乱されても困るし」

「ああ、それもありか」

「それなら、私も楽だね。じゃあ、これにて一件落着っと」


 レオナもグレンと同じように腕輪を外し、元の私服に戻った。


「ほら、俺たちが契約する事はもうないだろうしな」


 そう言って、グレンは持っていた腕輪をレオナへと返し、レオナは二つの腕輪を別空間にしまう。

 そして、話題は『元の世界にどうやって戻るか』という話になった。

 

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