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グレンの作戦

 グレンは受け止めていた風間の手を弾き、剣を折り返す形で腹部に向かって横一閃に振るう。

 しかし、吸血鬼はそれを後ろに跳躍する事によって余裕でかわした。


「まさか、勇者が魔王を救うとは思ってもみなかったぞ? どういう心境の変化かな?」

「お前に語る言葉はねぇ。俺がしたいことをする。それで、文句はないだろ」

「ほう。その前にお前に一つお礼を言っておかないといかぬな。この度は俺のために魔力をくれてありがとう。おかげで俺が生まれることが出来た」

「やりたくてやったんじゃねぇよ。ただ、その後始末は魔王よりも俺が一番にしないといけないことだけは間違いない事実だ。だから、俺が拓を助ける!」


 剣を構えながら、吸血鬼にはっきりと言い切った。

 利用されたことに苛立ちを隠せないようだ。


「でも、あの腕輪を勘違いしたのはグレンだから、グレンが半分以上悪いよね」

「おい、しーっ! 結構、勇者っぽい事言ってるんだから!」

「あ、ごめん」

「造らせるように命令した原因がそれを言うか!」

「だって、しょうがないじゃん。そうでもしないと味方は増やせなかったんだし……。そもそも、私一人が敵って勇者たちからしてつまらない旅じゃない?」

「――それもそうだな」


 レオナの難癖から始まった言い合いの勝者はレオナに決まる。

 って、そんなことをしてて良いのだろうか?

 一応、グレンは俺たちの方を振り向くことなく会話していたのだが、よくそれで警戒をし続けることが出来るものだ、と感心してしまった。


「ってか、グレンはあいつに勝てるのか?」


 思ってた疑問を口にしてみる。

 グレンもレオナほどではないが、ボロボロであることは変わらない。出血量から考えるなら、まだレオナよりは動けるだろうってぐらいだ。

 こんな状態で勝算があるとは全然思えなかった。


「呼び捨てか。いや、構わないが……」

「ごめん」

「いや、いい。勝算はないな。少なくとも誰かさんのせいで頭が痛いからな。ぶっちゃけ集中力が持たない」

「あー、あの蹴りのせいね」

「俺を助けようとした時の蹴りか」


「もうちょっと手加減しろよ」

「手加減したら私が殺られるじゃん。正直、あんな形での決着はお互い不本意でしょ?」

「それには激しく同意だ」

「んで、目の前の吸血鬼はどうするつもり?」

「勝算がゼロじゃないのは確かさ。少なくとも」

「へー、勇者様の実力を見せてもらいましょうか」


 レオナはわざと煽る形でグレンに促す。

 そんな言い方をされてもグレンは気にした様子も見せない。

 今のレオナの様子を見ていれば、そうすることしか出来ないことが分かっているからだろう。

 どうやら、精神年齢から言えばグレンの方が上らしい。

 グレンはポケットから指輪を取り出すとそれを握り潰す。


「解放!」


 その瞬間、風間を中心にした五亡星が出来上がる。


「け、結界? いや、今のグレンにそこまでの魔力ないでしょ?」

「これはパーティの仲間の魔法使いが、この世界に来る前に渡してくれたんだよ。魔王が逃げないようするためにな」

「あー、そういうこと」

「でも、あまり時間は持ちそうにないから、次の行動に移るぞ」


 風間は一瞬、驚きつつもその結界を壊しそうと攻撃を行っている。

 グレンのやりたいことがわかっているようだった。

 それをさせまいと必死になっているらしい。


「魔王よ、もう一つ『同調の腕輪』を出せ」

「あ、なるほどね。やりたいこと分かった」

「ああ、それしかこの世界では上手く戦うことが出来ないだろ」

「でも、私が負ってるダメージ、グレンもそのまま食らうよ?」

「次の行動も考えてあるから、心配するな」


 グレンは俺が外した腕輪にレオナの血を擦り付けると、今度は自分自身に剣で傷を作った。そして、溢れ出た血を腕輪に付けて自分の腕にはめる。瞬間、グレンの身体中から血が噴き出す。

 レオナはその間に再び別空間から腕輪を取り出し、グレンと同じように腕輪にお互いの血を付けて、自分の腕にはめる。

 そして、それぞれに容姿が変化。

 レオナは俺と契約した姿に。

 グレンは先ほどまではなかった鎧が出来上がっていた。どうやら、レオナと契約したことにより予想外の変化が起きたらしい。


「傷の多さにも驚きだが、レオナの魔力の余剰効果で鎧まで出来るとはな」

「私ほどになったら、それぐらい余裕なの。んで、これでどうするの? いくら、私の魔力が元に戻ったからって、全体効果の治癒魔法は習得してないよ?」

「案ずるな。その方法もあるに決まってるだろ。ま、お前とこうやって契約するとは思っても見なかったけどな」

「それはお互い様でしょ」


 二人とも苦笑いをしていた。

 グレンはそんな中、またさっきと同じようにポケットからペンダントを取り出す。


「全員がこれに触れてくれ。もちろん、唯にもだ。すぐに目を覚ます」

「ん、分かった」

「これってさ、足りなくなった血も元の状態に戻るの? 結構、俺フラフラなんだけど……」


 心配になり、ペンダントに指をかけながら、グレンに尋ねてみる。

 ぶっちゃけ、すでに立ち上がることは出来ないレベルだ。それはレオナも同じであり、レオナと契約したグレンも同じ状態のはず。

 つい、気になってしまったのだ。


「……」

「で、どうなんだ?」

「どうなんだ、魔王」

「知るわけないじゃん。私は使えないんだし……」


 グレンは目を閉じて黙り込む。

 この様子だと効果の程は分かっていないらしい。

 さっきと同じでパーティの能力なので仕方ないのかもしれないが、そういう効果ぐらいは把握していてもらいたい、と思った。

 その時、ガラスが砕け散るような音が聞こえた。


「ちっ、時間切れか! 早く唯の手を!」

「うん!」

「――させるか!!」


 回復させられると勝ち目がないと分かっている風間は、俺たちに突っ込んでくる。

 しかし、レオナが唯の手を掴み、無理矢理触れさせ、


「解放!」


 グレンが間髪入れず、叫んだ。

 瞬間、暖かい何かに包まれる。

 それ以外の表現が俺には出来なかった、と言った方がいいのかもしれない。とにかく、表現しにくいものが身体を包んだのだ。

 そして、肉体的な変調が一気になくなる。

 心配していた身体のふらつきさえも……。

 突っ込んできていた風間はカウンターでレオナが顔面にパンチを、グレンが腹部に掌底を食らわせた事により、吹っ飛んでいった。


「優太の謎も解けてよかったね」

「そんなことより、俺の狙いの邪魔をするな」

「何かしようとしたの? そういうことはちゃんと先に言っといてよね」

「それもそうだな」


 二人は俺たちを庇うように仁王立ちになる。

 この姿を見るだけで、俺の心の中には何か熱いものが生まれ、テンションが上がりつつあった。


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