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変化

 レオナは明らかに面倒くさそうな顔をした。

 まるで、「よりにもよって」というような感じだ。


「あれは、何の魔物になったんだ?」

「ヴァンパイア……吸血鬼だね。本当、風間の性格が出てるよ」

「厄介な相手なのか?」

「うん、まぁ……それなりに……」


 風間はゆっくりと俺たちの方へ向かい、歩いてきた。

 さっきまでのような殺意は感じられない。

 しかし、俺たちは警戒を解かず、歩み寄ってくる風間の動き一つ一つを見逃さないように見つめる。

 目の前までやってくると、風間はレオナの足元で片膝をついた。


「我が魔王よ、お初でよろしいかな」

「そうだね。でも、成り立ててで悪いんだけど、その身体を元の人間に返してくれない? まだ完全に飲み込んではないでしょ?」

「仰るとおり、完全にはまだ飲み込んではいない」


 そう言った後、殺気が爆発し、俺は物理的な衝撃で吹っ飛ばされる。

 レオナはその衝撃に突っ立ったまま、気にもかけていないようだった。


「ですが、魔王よ。元となった人間の意志はあなたを許さないということだ。それに、そんな腑抜けたことを言う魔王は私の主とは認めん!!」

「知ってたけどね!」


 風間の右手がレオナの胸元に向かって伸びるが、レオナは分かりきっていたようにそれを受け止める。


「優太、唯を早く!」

「わ、わかった」


 俺は急いで、唯の元へ向かう。

 背後からは二人の殺気を感じることが出来た。が、振り返ることはしなかった。風間相手でも役に立てなかったのに、魔物化してしまった風間の相手に対して役に立つことなど全くない。

 だから、唯を助けることが唯一、今の俺に出来ることだった。


「大丈夫か!」

「ゆ、優ちゃん! 風間くんがっ!」

「ごめん、助ける事出来なかった」

「優ちゃんは悪くないよ。でも……でも……」


 紐を話すと唯は俺に抱きついてきて泣き始める。

 俺は抱きしめて、背中を摩ってあげることしか出来なかった。

 言葉が見つからなかったからだ。

 昔のように「よしよし」と言っているだけで済むレベルじゃない。

 ここでも役に立たない事を思い知らされる。


「うん、もう平気。大丈夫だから、レオナさんのところに行ってあげて?」

「……無理だろ、役に立てない」


 背後で戦っているレオナを見る。

 二人とも自らの手を変化させて戦っていた。

 魔力のせいなのか、それとも自然発生しているのか、二人がぶつかり合うところは火花が飛び散っている。

 今は互角で戦っているように見えるが、圧倒的にレオナの方が不利なのは考えなくても分かった。

 レオナは疲労困憊した表情で戦っているからだ。

 対して、風間は笑っている。

 正直、今のレオナの戦闘力に力を合わせているようにすら感じてしまう。


「そ、そんなっ! あんなにボロボロじゃ負けちゃうよ!」

「分かってるさ! 分かってるけど、どうしようも出来ないだろっ!」


 分かり切っている事を口に出して言う唯に、俺は思わず怒鳴ってしまった。

 唯は身体を震わせて口を閉じる。


「す、すまん。俺も――」


 側面に痛みが走った俺は耳を押さえる。

 一度目を閉じ、次に目を開いた時には目の前から唯の姿は消えていた。

 唯を探そうとした時、俺の耳に鈍いガツンとした音が届く。

 その音がした所は今いる位置より少し奥にあるジャングルジム。

 その場所にはレオナを抱える形でぐったりとしている唯の姿があった。

 引きずったような跡が地面にあることから、吹き飛ばされたレオナを唯が庇ったことが分かる。


「大丈夫か!」


 俺は二人に近寄る。

 レオナは肩で息をしながら、


「ご、ごめん。ちょっと、油断した……」


 苦しそうにそう言った。

 様子を見るだけで、もう限界なのだろう。


「もう無理すんな」

「で、でも……私が頑張らないとっ!」

「良いから。死ぬ覚悟してろって言ったのはレオナ、お前だろ?」


 フラフラとして立ち上がるレオナの肩を掴み、無理矢理座らせようとする。

 最初は拒否しようとしたらしいが、その余裕さえないらしく、レオナの身体は力なく座り込んでしまった。

 その時、俺の中で何かが吹っ切れたようにある決心が生まれる。


「じゃ、邪魔――」

「唯は大丈夫なのか?」

「あ、頭を打ったっぽいけど……気絶してるだけだよ」

「そっか。じゃあ、残酷な姿見せなくて済むな」

「え? 何を考えてるの?」

「ん、秘密」


 俺は自分の腕に付いている腕輪を掴み、腕から抜く。

 レオナはその瞬間、容姿が契約する前の姿に戻った。同時に痛みに対する耐性が薄れたのか、身体を丸めて、痛がる仕草を行った。

 それは俺も同じだ。

 いや、それ以上だったのかもしれない。

 腕輪を外すということはレオナの魔力が元に戻るということ。

 つまり、俺の身体にかけられていた魔法もなくなってしまったのだろう。

 いきなりきた吐き気を堪えきれず、吐き出す。

 それは血だった。


「ゆ、優太!」

「心配すんな。ちゃんとお前は守るから」

「守るじゃないよ! ただの人間が吸血鬼に敵う訳ないじゃん! しかも、身体はボロボロなんだよ!?」

「人のことは言えないだろ」


 後ろを振り返ると予想通り、風間の姿があった。

 いや、予想より遅いぐらいだ。


「そういや、お前に対しての憎しみを持ってたな。魔王だけではなく、お前も殺さないとな。本当の意味で支配が出来ん。覚悟は……出来てるみたいだな」

「分かってたからさ」


 俺はレオナと唯を庇うように抱きしめた。

 二人だけでも絶対に守ろう、と。

 一秒でも長く生きさせよう。

 それが今の俺に出来る事なのだから。


「ちょ、優太! 退いて!」

「無理」

「いいから! また先に死なないでよ!」

「俺はレオナの婚約者の生まれ変わりでもなんでもないから」

「もう、私の目の前で……、誰も殺させたくないのっ! 婚約者にそっくりな優太が悪い!!」

「はいはい」


 泣きながら言うレオナの言葉を俺は流す事で精一杯だった。


「死ねっ!」


 その言葉と共に俺は目を閉じた。

 怖さがあると自然と目を閉じてしまうのはどうしようも出来ないことなのかもしれない。

 自分に訪れる死を待つ。

 しかし、それは訪れなかった。

 もしかしたら痛みを感じる限界を超えたせいで死んだのか、それとも一瞬で死を迎えたから痛みを感じなかったのか、それは分からない。

 ただ、現状を確かめるためにゆっくりと目を開ける。

 目を開けるとレオナも目を閉じていた。


「まだ、生きてる?」

「えっ? あっ!」


 俺の声に反応し、目を開けたレオナは驚きの声を漏らす。

 それにつられるように俺も後ろを振り返ると、俺と風間の間に入る形でグレンが立っていた。

 俺への一撃を受け止めて。


「ぐ、グレン!」

「情けないぞ、魔王。俺が痛めつけていたせいかもしれないがな」


 レオナの驚きの声に、先ほどまでとは違う好青年のような明るい声で苦しそうにそう漏らした。


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