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第二ラウンド(1)

 上空で戦い始めた二人を軽く見た後、風間へと顔を向け、話しかけることにした。

 レオナはきっと殴り合いの可能性を考えて、肉体強化もしてくれたことは簡単に想像出来た。

 ただ、それ以上に風間と話したくなったのである。


「委員長、俺がそんなに憎いのか?」

「憎いな、殺してやりたいほどに。心配するな、邪魔者がいなくなったらお前も殺してやるから」

「その前に死ぬけどな。っていうか、なんでお前はそんなに俺が憎いんだよ」

「俺から全部を奪おうとするからだろ」

「奪う? イジメが発覚した後のことなら――」

「違う!」


 風間ははっきりと否定した。

 イジメ以外のことで何かした覚えのない俺には分からなかった。

 唯も分からないようで、風間の背中を見つめている。

 その時、風間の左足のズボンが破け、血が流れた。

 俺は右肩に痛みが走る。


「ごめん、食らっちゃった!」


 上空からレオナの声が聞こえてきたが、手で制して「気にするな」と伝える。


「ありがとー!」


 そして、再びレオナは戦闘に戻ったらしく、上空で接触音が聞こえ始めた。


「んで、何を奪ったんだよ」

「みんなの視線だ」

「は?」

「なんで、勉強も出来ない、運動神経も良くない、ルックスだっていまいちな九条がみんなからの注目を浴びるんだよ!」

「ごめん、意味が分からない」


 悩むまでもなく、俺は即答した。

 俺がいつ、みんなからの視線を奪ったんだろうか?

 少なくとも俺はそんなつもりをした覚えはない。

 何も考えず、普通に暮らしていただけだ。

 

「あ、そういうことか」


 唯の方が俺より風間の言いたい事を分かったらしい。


「優ちゃんってイジりやすいから、自然とそれをみんなが見てたって言いたいんじゃない?」

「それ、俺関係なくね? 人柄だし」

「うるさい! 俺が必死になってる間にそんな風にのん気にしやがってよ! 親に期待される辛さが分かるのか!」

「分かるはずがないだろ」

「いつもいつも人の目や成績ばっかり気にして……俺のことなんて見向きしない。なんでだ、なんで俺のことは見てくれないんだよ!?」

「そこから俺は関係ないよな。八つ当たりも勘弁しろよ」


 その瞬間だった。

 いきなり風間が俺に向かって、殴りかかってきたのだ。

 しかし、余裕で俺はその拳を受け止める。

 避けることも出来たが、痛みが緩和されているとはいえ、出血していることは紛れもない事実。そのため、無理をしたくなかったのだ。


「うるさい! お前さえいなければ……心の平穏は保たれたっていうのに! 俺から南野さんも奪いやがって!」

「だから、その件も俺は関係ないだろっ!」

「うるさいうるさいうるさい! 全部、お前が悪いんだ、全部!」

「くそっ、話し合いで解決しようとした俺がバカだったよ!」


 俺は空いている手で腕輪を掴もうと試みる。

 当たり前のように風間が俺の手を掴み、阻止しようとするが、レオナの肉体強化のおかげで無理矢理腕輪まで手を伸ばす事が出来た。

 しかし、いきなり強烈な衝撃が伝わり、俺は吹き飛ばされる。


「きゃっ!」


 レオナにもその衝撃が伝わったのか、いきなり地面に落下してきた。


「いったぁー」

「どういうことだよ、腕輪外せなかったぞ?」

「本当に?」

「本当だから、俺たちは吹っ飛ばされたんだろうが……」

「あー、ごめん。意味が分からない。つか、私の知識の範疇を超えてる」


 レオナはしばらく考え込んだ後、はっきりと言い切った。

 お仕置きの意味を込めて、レオナの頭を叩く。

 もちろん俺の頭にも同じ痛みが来る事は分かっていたが、そうすることでしか今の俺の気持ちを伝えることしか出来なかったのだ。


「頭叩かないでよ!」

「痛みは俺にも来てるんだから、いいだろ! って、本当に二人をどうやって助けるんだよ!?」

「…………もう殺しちゃう?」


 遠慮なく、レオナの頭を全力で叩く。

 俺にもその痛みは走ったがもう気にしないことにした。


「なんで、そうなるんだよ!? 二極化しかないのか!」

「だって、どうすればいいのか、分かんないんだもん!」

「拗ねたように言っても駄目なもんは駄目に決まってるだろ!」

「じゃあ、どうするの!? って、話してる最中に来ないでよ!」


 俺たちの会話を邪魔するように風間と勇者が突撃してきた。

 俺はさっきと同じように風間の拳を受け止め、レオナは自分の腕を硬質化して剣を受け止める。

 そのまま俺たちは膠着状態になった。


「仮にも魔王なんだろ? だったら、マジでなんとかしろ」

「魔王とか関係よね? 魔王だったら強いとかゲームの世界だから! チートとかないから!」

「はぁ!? どうせ、最強魔法とかあるだろうがっ!」

「あるけど、それ死ぬよ?」

「言った俺がバカだったよ!」

「って、ちょっと待った。一旦、距離をっ!」


 レオナが風間の腕輪を見て、何か気付いたらしく、勇者の腹部に手の平を当てる。直後、勇者は吹っ飛んでいく。

 つられて、風間も吹っ飛ぶ。


「助かったけど、俺たちが距離を取るんじゃないのかよ!」

「また追いかけてくるじゃん」

「あとで風間の治療もしろよ」

「分かったよ、しょうがないなー」

「んで、いったい何に気が付いたんだ?」

「あれ、『同調の腕輪』じゃないんだけど」


 レオナの言葉に俺は自分が付けている腕輪と記憶にある風間の腕輪の違いを確認してみる。

 マジマジと見ていたわけではないので、頭の中で完全な再現が出来ているわけではない。それを考慮して比較してみても全く違いが分からない。

 きっと、そのことを踏まえて、レオナが説明してくれた。


「あれはね、『変魔の腕輪』って言うの。簡単にいうと、人間を私たちの仲間にするために造られた腕輪。同調の腕輪と似たように造ってあるから、間違う人が多いの。っていうか、間違って付ける人を狙って造ってあるんだけど」

「……つまり、その原因を作ったのは誰なんだ?」


 沈黙。

 いや、レオナが言いにくそうに顔を逸らす。

 最初から言わなくても分かっている。

 でも、言わせないと気がすまない俺は追究することにした。


「おい、早く言え」

「分かってるくせに……」

「分かってるけど、早く言え」

「やだ」

「言いなさい」

「……私です」

「声が小さい!」

「私が命じて、造らせました!」

「このバカがっ!」


 思いっきり背中を叩く。

 レオナは痛みで本当に軽く飛び上がり、その場に蹲った。

 俺も同じように蹲る。

 怒りで、同調している事を忘れていたことが原因だ。


「レオナ、お前は……」

「ご、ごめんって。ちゃんと解決方法はあるから安心してよ」


 蹲り、痛みで涙声になってはいたが、レオナは間違いなくそう言った。


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