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契約

 俺はレオナの頭を引っ叩いた後、膝に手を置いて息を整える。

 そんなに強く叩いたつもりはないけれど、レオナは半泣きになりつつ、頭を押さえながら驚いたような表情を浮かべている。

 頭を引っ叩く以外、何もしてないのだが……。


「まだ魔眼の効果は切れてないはずなのに、なんでいるの?」

「は? 知るかよ。その効果が切れたから俺は今、ここにいるんだろ?」

「それもそうだけど……、なんで私の魔力に対する免疫を持ってるの? 私が魔力を与えるような行為したっけ?」


 レオナは混乱しているみたいだった。

 っていうか、もう頭の上に?マークが見えるほど。


「一ヶ月前に俺の痛みを消すためになんかしただろ。それのせいじゃないか?」

「あー! あのキスした時ね!」


 レオナが大きな声を出して発言した結果、


「え……き、キスしたの!?」


 唯がショックを受けてしまった。


「あ」

「『あ』、じゃねーよ! 分かってて言ったろっ!」

「ち、違うよ! しょうがなかったんだよ! 優太があんなにボロボロになってたから! え、えと、あの……ごめんね! 優太の事、好きだって分かってたのに!」

「あ」

「いやぁぁあああ!!」


 唯は絶叫した。

 そして、表情が一瞬の内に暗くなる。

 遠すぎるので何を言っているかは分からないが、口をパクパクと開き、小声で呟き始めた。予想では「死にたい」と言っているのだろう。

 それぐらい、テンションがガタ落ちしているのだ。

 混乱したレオナのせいで、唯にまで被害が及ぶとは思わなかった。


「もう謝って済む問題じゃないから、この部分の記憶は後で消すように」

「……はい、分かりました」

「よし、さっきから空気になりつつある風間、悪いな。早速、本題に入ろうか」


 空気になっていた風間とグレンへと顔を向ける。

 二人は俺たちの方を見ながら口を閉ざしていた。

 まるで会話に興味がないらしく、準備が整うのを待っているような状態。

 明らかに様子がおかしい。


「あれ、どうなってんだ? 少なくとも俺たちの変な漫才に感情を爆発させてもおかしくないと思うんだけど?」

「あれは腕輪のせいで、一つの感情に縛られてる状態なの。憎しみだけが強調されてる状態かな。だから反応出来ないんだよ。それ以外の感情が封じられるから。二人が離れたら元になるみたいだけど、近づいたら、今のようにおかしくなるみたい」

「んで、どうしたらいいんだよ」

「契約解除するしかないでしょ」

「あ、やっぱり? そういうわけで俺たちも契約するぞ」

「やだ」

「うるさい」


 再び俺はレオナの頭を小突く。

 すると、塞がっていた傷口がまた開いたらしく、レオナの顔に血が流れていく。

 レオナはそれを不満そうに手で拭う。


「もう、また開いたじゃん。治療にあまり魔力使いたくないのに」

「だから契約するんだろ。俺たちはあいつらみたいにならないし、なるつもりもない。っていうか、お前に伝えたい言葉あったんだった」

「え、なに?」

「婚約者の代理な。簡単に死のうとするなよ。せっかく生きてるんだろ。望むのは勝手だけど自分から死に行こうとするな」

「ははっ、あの人なら言いそうだね」


 レオナはちょっとだけ懐かしそうに笑う。

 本当にそれっぽいことを言うイメージが浮かんだらしい。


「そういうわけで契約するぞ。んで、さっさと問題を解決させよう。唯のためにも!」

「決心は揺るがないかー。はいはい、分かったよ。……うん、唯のためにもね」


 未だにヘコんでいる唯に申し訳ないように目を伏せながら、幻術の時の同じように別空間に手を突っ込み、腕輪を取り出す。

 そして、垂れている血を拭い取り、腕輪に擦り付けて差し出してくる。

 俺はそれを右手で受け取り、


「手に傷つけてくれ」

「ん」

「っ、サンキュ」


 差し出した左手にレオナの手がすばやく通り過ぎ、その痕を残すように擦り傷が出来ていた。浅くもなく、深くもない絶妙な傷具合で。血も少しだけ溢れてきたので、それを腕輪に擦りつけて腕にはめる。


「これで良し……っ、あぁぁあああ!」


 その瞬間、全身に痛みが走る。

 痛みに耐え切れず、俺は片膝を付いてしまう。

 顔に何か垂れてきた感触があり、手で軽く触ってみると血だった。

 幻術で言われたように本当に同じ箇所に傷が付いてしまったようだ。しかし、頭の傷はあまり痛くない。どちらかというと、背中の傷の方が酷いらしく、疼きが止まらなかった。


「優ちゃん、大丈夫!? レオナさんも服装変わってるし……契約って何なの?」


 俺の声に反応したようで、唯はショックから立ち直ったらしい。


「気にするな。後でちゃんと教えるから」


 唯の言葉につられてレオナの方を見ると、言葉通り、変化していた。

 いや、本来の姿に戻ったのかもしれない。

 ボンテージの服だから。

 頭からは元の大きさの角、背中には漆黒の翼が生えていた。


「うわっ、ここまで魔力が戻るとは思ってなかった。ほぼ全開じゃん。優太、大丈夫?」

「大丈夫に見えるのか?」

「ううん、全然見えないね」

「全然大丈夫じゃないからな。とりあえず、お前は勇者を倒して来い。そして、契約を解除しろ」

「準備は出来たみたいだな、そろそろ決着をつけようか、魔王!」


 グレンは剣をレオナに向けて、言い放つ。


「根本的な精神は変わらないんだね。待ってくれてありがとうでいいのかな? 優太、グレンは任せて。なんとして抑えとくから、優太は風間から腕輪頑張って外してね」

「……それ、俺の仕事なのか? 全身痛むのに」


 身体をゆっくり立ち上がらせるが、ズキンズキンとどこもかしこも痛む。

 この状態でほぼ無傷に近い風間の身体能力に追いつくなど、絶対に無理な自信がある。もちろん、この傷がなかったとしてもたぶん無理だろう。


「もうしょうがないなー」


 レオナは俺の肩に手を置くと、一気に痛みが減り、全身が軽くなるような気がした。


「あ、あれ? もしかして――」

「痛み緩和と魔力で肉体強化してあげたんだから、頑張ってね……って、ちょっと! まだ、話してる……途中だって!」


 いきなり攻撃してきたグレンの攻撃をレオナは間一髪でかわし、空中に逃げる。


「うるさい。拓の我慢も限界に達したんだ。お前らの漫才にいつまでも付きあえるか!」

「はいはい、分かったよ!」


 こうして、第二ラウンドが開始された。

 グレンの言う通り、風間の身体からはドス黒いオーラが噴き出し、その我慢の限界を表現しているようだった。


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