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満月の下で 【レオナ視点】

 家を出てから、すでに三十分経っている。

 普通なら公園まで十分ぐらいで行けるのに、痛みのせいで身体が思うように動いてくれない。魔力を使えば、もうちょっとマシになるだろうけれど、さっきの戦闘に加え、これからのことを考えれば無駄に魔力を使う事は出来ない。

 だから、今は普通の状態で公園へ向かっているのだ。


「今日は満月か、キレイだなー」


 痛みを紛らわすために空を見上げると、雲の隙間から満月が見えて、少しだけテンションが上がった。

 私は結構、満月に縁があるのではないか、と思う。

 優太は気付いていないだろうが、初めて会った日も、親に紹介された日も、空には満月があったのだ。

 もちろん意図していない。


「魔眼を使ってるって知ったら怒るんだろうなー」


 雄太関連で思わず出てしまった呟きに、私は自然と笑みを溢してしまう。

 約束を破ってしまうことに怒るのか、それとも唯を一人で助けに行こうとする無謀さに怒るのかは分からない。けど、それだけ優太のことが大事だと分かってくれたらいいな、って思う。

 そのために、わざわざ一時間は会話を長引かせるように設定したのだから。


「いつっ!」


 不意に走った激痛に近くの花壇に手を付いてしまう。

 思った以上に背中の傷が深いらしい。

 それでも歩みを止めることは許されないのだ。

 公園の入り口まで、もう少しだから……。


「まお……そんなこ……とを」

「でも……です!」


 公園の入り口近くまで歩くと、グレンと唯の声が聞こえてきた。

 親しいとまではいかないけれど、話せる仲にはなっているらしい。

 唯は私と初めて出会った時も同じように壁を作らずに話してくれたっけ?、と思い出した。

 二人は私のことについて話しているみたいなので、思わず中へ入ることを躊躇ってしまい、入り口の石で出来た塀に持たれて座る。

 グレンが人避けの結界を張ってくれているおかげで、ここに座っていても誰にも変な風に見られることもない。傷を癒すにもちょうど良かった。

 目を閉じて、私は二人の会話に耳を澄ませる。


「あの……魔王が人間を助けるはずがないだろっ!」

「その気持ちは分かるけど、本当のことなんです」

「なんで、その気持ちを……俺たちの世界の人にも与えてやる事が出来なかったんだよっ!!」

「それは分からないよ」


 時間的に優太がその内容を知ったぐらいなのかもしれない。

 まさかのタイミングで二人がこの話をしているとは思ってなかったので、ちょっとびっくりしてしまう。

 今さら後悔しているわけではないけど、グレンにも教えた方がいいのかな、と思ってしまった。

 でも、言い訳にしか聞こえない可能性があるので、やっぱり話すのは止めよう。


「拓が言っていたことは嘘なのか?」

「半分は本当だと思う。レオナさんのせいで人生が壊れたのは……。自業自得ではあるんだけど」

「皮肉なもんだな。俺が殺すべき相手が良い事をして、拓が他人の人生を壊そうとしてたとは……」

「それが人間だよ。私だって、そんな良い子でもないから」


 唯は謙遜しているみたいだけど、そんなことはないと思う。

 単純に心の中に気持ちを押し込める事が多いというだけで、それをはっきり相手に言っても何の問題もない。

 むしろ、そうやって気持ちを押し込めるから、心配している人も少なからずいることを教えてあげたい。

 たぶん、唯は否定すると思うけど……。


「唯、話は終わりだ。魔王よ、いつまでそこで俺たちの話を盗み聞きしているつもりだ?」


 勇者の視線が私に突き刺さってくる。

 視線というよりは殺気に近いものなので、障害物の阻害効果は発揮されなかった。

 ただ、気付かれないように気配を消していたのに、まさかこんなにも早くバレると思っていなかったので、しぶしぶ立ち上がる。

 なるべく痛みを我慢している表情を見せないようにして、入り口の真ん中に立つ。


「え!? いたの?」

「来たなら隠れなくてもいいだろう」

「ごめんごめん、楽しそうに話してたから、邪魔するのもどうかなって思ってね」


 唯はやっぱり気付いていなかったようで、私の顔を見てびっくりしている。

 グレンの方は殺気を飛ばしながらも少しだけ呆れているようようだった。


「お前は唯を助けたいんだろ? だったら、早く顔を出すべきじゃなかったのか?」

「あはは! 逃げる時に言ったでしょ? 『唯の事、任せたよ』って。だから、特に心配はしてなかったよ」

「お前のその自信はどこから来るんだよ」

「女の勘」

「……」

「唯、大丈夫だった?」


 無理矢理、沈黙させた勇者を余所に唯に声をかける。

 逃げられないように身体を縄で縛られている限りは、どこにも怪我らしい外傷はないが念のためだ。


「大丈夫! むしろ、私の相手をしてくれてたぐらいだし」

「ほら、やっぱりー」

「もういい」

「ねー、グレン。なんで口調が優しくなってるの? 夕方のような勢いがないように見えるけど?」


 ニヤニヤしながら、勇者に尋ねると不満そうな視線が戻ってくる。

 答えは聞かなくも分かっていた。

 それでも、言わせたいのが私の性格だからしょうがない。


「魔王らしくないことをしてるせいだろうがっ! せめて、この世界の人間を滅ぼすぐらいの行動をしとけよ!」

「それは偏見過ぎない? 魔王だからって破壊衝動に飲まれたりしないし。どっちかって言うと好き勝手してるイメージの方が最もでしょ?」

「人助けをするな。それは正義のすることだ」

「あー、それはね。色々とあるんだよ。うん、しょうがない。あ、でも、私の好き勝手な行動の一つと考えれば、辻褄は合わない?」

「……」

「口で負けてるね、グレンさん」

「……」


 唯の余計な一言がグレンにトドメを差してしまったらしく、場が一気に静かな空気が訪れる。

 なぜか、戦闘を行うような空気にもならない。

 本当に会話だけで解決してしまいそうな状態になってしまっていた。


「あのさ、グレン」

「――なんだよ」

「唯を解放してくれない?」


 私の目的は唯の解放なので、この空気を利用して説得してみようと試みる。

 グレンも私が逃げないようにするために唯を人質にしたに過ぎない。そのため、説得は簡単だと思っていたのに、あの男にやはり邪魔される。


「駄目に決まってるだろ。まだ、九条が来てないからな」

「あ、いたんだ、風間」

「南野さんのご飯を買いに行ってたんだよ。グレン、お前は何をしてるんだ? あいつは敵だろう。殺すべき相手じゃなかったのか?」

「その通りだな。いくら、この世界で良いことをしようが関係なかったな」

「え、グレンさん?」

「グレン?」


 さっきまでのグレンとは違い、いきなり殺気に満ちた。

 唯もそのことに気付いたみたいで戸惑っている。


「ま、まさか……風間、あんた!」


 風間はニヤリと笑う。

 この状況の原因が分かっているかのように。

 もちろん、私も気付いた。

 風間の腕にはめられている『同調の腕輪』がどす黒く輝いていることから、推測出来ることはただ一つ。


「そうだったんだ。だからグレンはにく――いたっ!」

「なに勝手なことしてんだよ、このバカレオナ!」


 ここからが一番大事な言葉は、後ろから叩かれたことによって邪魔される。

 振り返ると、そこには息を切らした優太が立っていた。


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