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契約について

「死ぬ云々の問題は今は置いとこう。それはレオナの問題だから、冷たいかもしれないけど俺は何も言えない。けど、どうやって唯を助け出すつもりなんだ? 状況はさっき以上に不利だぞ?」


 俺自身情けなくなるようなことを言ってしまう。しかも、さらにレオナを追い詰めるようなことしか言えていない。

 唯を助けるだけの力が俺にはないから、こうやってレオナを攻めるような質問しか出来なかったのだ。

 案の定、レオナも困ったように唸り始める。


「あっ、さっきの戦闘で言ってた『契約』ってやつをすれば、勝てる見込みがあるんじゃないか?」


 俺はレオナとグレンが言っていた会話を思い出し、尋ねてみた。

 会話の流れから考えれば、レオナがさっき負けていた理由は契約による力の差のせいの可能性が高いと気付いたからである。契約でどのくらい力が取り戻せるのかは分からないけれど、今の絶望的な状態より、少なくとも唯を救い出せる確率が上がることは間違いないはずだから。

 しかし、レオナは首を横に振って、拒否の意思を示す。


「それは駄目。優太に負担がかなりかかるから」

「負担って?」

「下手したら生命に関わる」

「おいおい。そんな契約を風間はしてるのか?」

「みたいだよ? 絶対ってわけじゃないけど、あの二人は私を殺すことに命を懸けてるからね。自分のことなんてどうでもいいんじゃないかな? 少なくとも、さっきの戦いではグレンの能力を全開まで引き出すようなことはしてなかったみたいだけど……」

「そんだけ恨みがあるってことか」


 俺には風間のように生命をかける勇気は正直ない。

 俺たちのせいで風間が歪んでしまったのは間違いないだろう。

 だからと言って、生命を懸けてまですることではないはずだ。

 そこも含めて、俺は覚悟を決めないといけないということを改めて実感させられた。


「契約も難しいのか?」

「契約自体は簡単だよ?」

「どんな方法だ?」

「これを使えばいいの」


 レオナはそう言って何もない場所に手を伸ばすと、手首から先がなくなる。正確には、よく漫画などにある違う空間とやらに手を突っ込んだのだろう。

 そのまま、引き抜くとレオナの手には禍々しいオーラを放つ腕輪が握られていた。


「『同調の腕輪』って言うんだけど、契約者と心を強制的に同調させて、身体や魔力の増幅をさせるアイテム。契約方法は、お互いの血を垂らして契約主になる方がこれをはめればいいだけ」

「すっごい簡単なんだな」

「契約だけはね。メリットがあるようにデメリットもある。現時点で治ってない傷、これから付けられる傷が契約主にも伝わるの。もちろん、私が死んだら優太も死ぬ。ううん、下手をすれば私が大丈夫な傷でも、優太が許容できる範囲の傷を負ったら、優太だけが死ぬ可能性だってある」


 俺は「死ぬ可能性がある」と聞いただけで怯えてしまった。

 レオナの『死ぬ』に対する言い方がものすごくあっさりしていたからである。死ぬことに対して何の恐怖を持っていない証拠なのだろう。

 少なくともレオナや風間、グレンのような覚悟を簡単に出来るはずがない。

 レオナは俺の表情を読み取ってか、その腕輪を再び別空間に戻す。


「その反応が正解だから自分を責めないでね? さっきも言ったように優太は私にとって大事な人なんだよ。婚約者みたいに死なせたくないし、優太がした約束を守る手伝いもしてあげたいの。あ、今回は私が唯を巻き込んだせいだから、なおさら自分の力でなんとかしないとね」

「限界だってあるだろうがよ」

「あるかもね。でも、そこで諦めたら終わりでしょ?」

「そうだけどさ」

「もし、私の力になりたいと思うなら腕輪を付けるかどうか悩んでみる?」


 レオナは俺に意地悪な笑みを浮かべている。

 決断しようが決断しなかろうが、どっちでもいいらしい。

 いや、最初から当てにしていないのだろう。


「時間かけても大丈夫なのか?」

「大丈夫でしょ。風間は唯のことを狙ってるだけだし、グレンだって関係ない人間を殺すはずがないしね」

「その信用はどこからくるんだよ」

「女の勘かな?」


 当てにならない答えだった。

 それでもレオナの表情に疑っている様子はない。

 敵同士なのにここまで信用出来るというのも不思議な関係だと思う。


「ん、それなら、ちょっとだけ時間貰う」

「うん」


 目を閉じて、必死にそのことについて考える。

 いや、最初から答えは決まっていた。

 唯を助けるために腕輪をはめる。

 問題は覚悟なのだ。

 結論は決まっている以上、悩む必要はないはずなのにやっぱりウダウダと悩んでしまう。

 怖いから。

 死にたくないから。


「なぁ、レオナ」

「なに?」

「もし、俺と契約したっていう仮定の話で聞くけどさ」

「うん」

「レオナのことだから、なるべく俺のために怪我をしないように行動するよな」

「もちろんだよ?」


「それで勝てるのか?」

「分かんない」

「だよな」

「でもさ、助け出すよ。約束する」

「分かった、契約しよう。でも、唯を助け出す約束とは別に違う約束もして欲しい」

「え?」

「レオナも死ぬなよ。俺がレオナの世界の婚約者ならきっとそう願うから」


 レオナはその言葉に目を丸くして俯く。

 予想外の言葉を言われて驚いている、と俺を思っていたがすぐにレオナは顔を上げて、


「ごめんね、その約束は守れない」


 悪気がない声でそう言った。

 俺が逆に動揺してしまう。


「な、なん――」

「もう一つの約束もごめんね。魔眼の力使ってるんだ。だから、それもごめん」

「え?」


 俺は一瞬、意味が分からなかった。

 その約束は一ヶ月も前のことだったから。

 しかし、察しがつく。

 俺を置いて、すでにグレンの所に向かっているということに。

 そこまで分かった瞬間に目の前のレオナが砕け散る。

 もぬけの殻だった。

 魔眼で作られたレオナが座っていた場所を触ってみると、レオナが座っていた温度はなく、想像通りずいぶん前に家を出て行ったのだろう。


「くそっ! なに、勝手な事してんだよ!」


 俺はレオナが座っていた場所に一発拳を振り下ろした後、部屋を飛び出す。

 場所はさっきの公園だろう。

 いや、公園じゃなかったとしても絶対に見つけ出す。

 そして、絶対にレオナも死なせない。

 俺がさっき言った言葉を直接言ってやる!

 怒りに身体を震わせながら、俺は夜の町を駆け、公園へと向かった。



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