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因縁(1)

「じゃあ、そういうわけで私は戦わないといけないからさ。もしかしたら、さよならだね」


 レオナはそう言って、勇者に向かって歩みを進めていく。

 勇者の手にはいつの間にか剣が握られており、すでに戦闘態勢に入っている。


「ねぇ、グレン。仲間はいないの?」

「ああ、お前が逃げたこの世界に俺を移動させるために、あいつらは命を懸けてくれたからな。あの後、どうなったかは分からない」

「そっか。なら、私に分があるのかもしれないけどいいの?」

「かもしれないな。この世界に来て、力を制限させられたのはお前も一緒だろう?」

「そうだね、それには参ったけどさ。魔力だけは残ってくれたからね」

「それが聞けただけで十分、だ!」


 二人の会話を聞きながら、俺と唯は見守る事しか出来なかった。

 本当は止めたい気持ちがあった。

 しかし、この戦いは運命付けられたもの。

 それを邪魔する手立てはない。

 こうしている間にもレオナは勇者の攻撃によって、傷付いていっている。


「ねぇ、優ちゃん。本当にお別れになるんだよ? いいの?」


 唯もレオナと勇者の戦いを見ながら、服の袖を引っ張ってきた。

 顔は俺の方に向けようとはしないのは、最期になるかもしれないレオナの姿を見逃したくないからだと思う。

 それは俺も同じだったので、唯へ顔を向けることなく返事をする。


「良くないって言える立場じゃない。こうなることは分かってたろ?」

「そうだけどさ!」

「だったら、俺たちはレオナのことを見守ることしか出来ない」

「そうだ――レオナさん!」


 勇者の攻撃により、レオナは滑り台へと吹っ飛ばされ、頭から柱に激突する瞬間を見た唯が声を荒げる。

 唯は思わず駆け出しそうになるが、俺が腕を掴み引き止めた。

 近寄れば、危ない事が確実だからだ。


「っ……あ、ありがとう、優太。二人とも来ちゃ駄目だからね。本当に危ないからさ」


 レオナは頭から血を流しながら、にっこりと俺たちに向かって笑う。

 この時点で身体はボロボロになり、足元はフラついているというのに俺たちに向かって笑顔を向けてくる。

 俺たちに心配をかけないように。


「どうした、魔王。いつから人間に甘くなったんだ? それとも、あいつらも自分の手中に収めたのか?」


 対して、レオナの攻撃を食らいながらも余裕の表情を浮かべる勇者は、言葉の一つ一つに憎しみを込めるように言い放つ。

 俺たちが仲良くしている事が気に食わないようだった。


「落ち着けよ、グレン。そいつらは操られてるんだからな」

「そうだったな、すまない。早くこいつを斬り捨てて、君たちの自由を取り戻そう」

「それがいい。だから、南野さん安心してくれ」


 俺たちは背後から聞こえてきたその声の主を知っていた。

 いや、知らないはずが絶対にないのだ。

 元学級委員長、風間拓。


「な、何を言ってるんだ?」

「そうだよ! 私たちはレオナさんに操られたりしてない!」

「いや、嘘だね。じゃないと俺の計画がバレるはずがないんだから。お前らとは違い、俺は頭がいいんだからさ」


 レオナはキッと風間を睨みつける。

 そして、グレンと呼ばれた勇者を見て苦笑した。


「なるほど、『契約』したんだ。だから、私の攻撃がいまいち効いてないんだね」

「そういうことだ。そのおかげで周りに被害がいかないように結界も張れた。お前の考えは最初から外れてたんだよ」

「世界を救うためには、自分の身体をも犠牲に出来るってことか」

「それであの世界が救われるなら俺は死んでもいい。その代わり、絶対にお前だけは殺す!!」

「そうだ! やれ! それで俺たちの世界も救われるんだ!!」


 勇者を後押しするようにそう叫ぶ風間。

 この時点で俺の選択は決まる。


「待てよ!」


 レオナに向かって、刺突しようと向かっていた勇者の動きが止まる。

 そして、俺を睨みつけてきた。

 向けられた殺気が俺に突き刺さり、身体に何倍もの重力がかかってしまったかのように重くなる。


「レオナのことを殺すのは仕方ないとする。だって魔王だからな。勇者のいた世界を壊そうとしたからな。レオナ自身も納得してたから、俺が何を言っても無駄だと思う」

「だったら何で止める?」

「誤解している事があるからだ」

「誤解?」

「そうだ! 少なくとも俺はレオナにあや――」

「優ちゃん、危ない!」


 唯の声が聞こえる前に俺はその場に倒れこむ。

 間髪入れず、頭が踏まれた。

 遠慮なくグリグリと踏みにじられる。

 阿部たちに過去にされた思い出があるけれど、ここまで本気でされたことはなく、かなり痛い。


「何を言おうとしてるんだよ? お前らは操られているんだから、大人しくしとけよ」

「お前こそ、何をしてるんだよ。狂った――かはっ」


 「狂ったみたいに」と口に出そうとした途端、俺の腹が開いている足で蹴られ、言葉が詰まる。

 まるで、その言葉に嫌悪感があるように。


「お前までもその言葉を言うんじゃねぇよ! あんな糞両親共と同じように言ううな!」

「もう止めてよ!」


 唯が叫びながら、風間に向かって体当たりした。

 風間がバランスを崩して俺から離れたことで、踏みつけられていた頭が解放され、なんとか起き上がろうとするも腹部の痛みが鈍く残り、座り込むことが精一杯。

 そんな俺を唯が座り込み、涙目になって心配そうに見つめてくる。


「危ないから離れてろ」

「でも、優ちゃんもレオナさんも危ないから! 私も必死で!」

「分かってるよ」

「南野! なんで邪魔するんだよ! お前が九条に優しいのは脅されるからだろっ! なんで、そんな奴を助けてるんだ!」


 即座に立ち上がった風間が唯の髪を引っ張り、俺から引き剥がす。


「痛い痛い! 痛いよ!」

「大人しくしてないお前が悪いんだろうが!」

「大事な人を助けたいと思って何が駄目なの!」

「お前の大事になる人は俺だろうが!」

「違う! 少なくとも、現在いまの風間くんは大事な人には絶対にならない!」


 唯は泣きながらも、珍しく反抗していた。

 その姿は今まで俺も見た事がない姿。


「ふ ざ け ん な !」

「っ!」


 怒り任せて、風間は唯の首筋に手刀を打ち込む。

 食らうと同時に俺の目の前で唯は目を一瞬見開いた後、ガクンと全身の力をなくなり、風間によって髪を掴まれているおかげで立っているような姿になった。

 しかし、風間が髪から手を離す。

 唯は慣性に従うように、地面に倒れこむ。

 俺は目の前が真っ暗になった。

 思考が『死』という単語に直結してしまう。

 また、大事な人を失った。

 そんな絶望から、目の前にいる風間に対し殺意が芽生え、腹部を襲っていた鈍痛を忘れて立ち上がる。


「風間、お前だけは絶対に殺す」


 低い声でそう言って、風間に向かって拳を打ち込む。


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