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勇者登場

 あれから一ヶ月経った。

 あれ以降、何事もなく通学している。

 あの三人も大人しくしていた。

 むしろ、俺のことを気遣ってか、なるべく離れようとしてくれている。その気遣いが逆に辛い時があるので、たまに話しかけに行ったりするぐらいにはなった。

 間違いなく、俺にとって過ごしやすい学校生活を送れている。


 しかし、あれから変わったこともいくつかある。

 まずは風間が学校に来なくなったこと。

 本人が来たくなくなったのか、親のせいで来れないのかまでは分からないけれど、来なくなってしまったのは間違いない事実。

 そして、いなくなった学級委員長の代わりをレオナがすることになった。

 クラス会議をした時にリーダーシップを発揮したせいで、自然とその仕事をすることになってしまったのだ。しかし、全部の仕事をするわけではない。クラス全体でしないといけない時のまとめ役のみ。他の仕事は俺と唯が手伝っている。レオナに「学級委員長としての仕事を全部やれ」、という方が俺にとっては不安なので、仕方ないと割り切って手伝うことにした。


 そして、白石も担任から下ろされた。

 イジメの責任を取らされたらしい。

 それぐらい、今の時代では大問題になることなのだろう。罰としてはたぶん軽い方だと俺は思う。

 良くなった所と悪くなった所。二つの相反する状況が入り混じった状態の中、俺たちはレオナのストレス発散のためにショッピングに繰り出していた。


「んー、自由な時間が短いってのも、ちょっと考えものだよねー。そんなにはしゃげないし、何よりも学校がつまんないし」

「そんな事も知らずに転校なんて考えるなっての。つかさ、真面目に授業も受けていない、学級委員長の仕事はほとんど俺たち任せ、それだけで俺たちよりは自由だろうが」

「それはそうだけど、つまんないものはつまんないってはっきり言わないと駄目だよね?」

「確かにつまらないけどね」


 レオナの言葉に唯も合わせて頷く。

 いくら真面目で通ってる唯でも、そんなことを考えるのか、と俺は意外に思った。

 確かに「勉強が好き」、と唯が言っていた記憶は全くない。しかし、成績は上位のため、そんなことを考えているとは思っていなかったのだ。


「今の唯の言葉に対して意外だって顔してるよ」

「うん、優ちゃんはそういう表面しか見てないところあるから仕方ないよ」

「表面って事は唯の胸とかそういうの?」

「そっち系ではあまり見られたことないかも。そっちはたぶんレオナさんだと思うよ?」

「いやいや、お前ら、なに失礼な事言ってるんだよ」

「優太に限らず、男なんてそんな生き物だからね。私的には諦めてる」


 まるで悟ったように言うレオナ。

 否定は出来ない。

 むしろ、胸の谷間を見せ付けるような服を着ているレオナが言える言葉ではない。

 さっきからすれ違う男共は、一瞬見ては何事もなかったように顔を戻しているのだから。


「っていうか、今どこに向かってるんだよ?」

「さあ? 私もレオナさんの向かう方向に歩いているだけだからさ」

「あれ? 分かんない?」

「分かるはずがないだろ。どうせロクでもないことを考えているのだけは分かる。さっきもゲーセンで人を大勢集めるほどのことをしたぐらいだからな」


 暇つぶしに先ほどゲーセンに入り、あるロボットのアーケードゲームをした結果、レオナが覚醒した。

 最初は自分の手の動きとゲームの動きの誤差に少し悩んでいたみたいだが、すぐに慣れると無傷でボスまでも撃破したのだ。

 乱入なんか本当に関係なく、そいつらも撃破した。

 まさに無双。

 正直、「リアルでも二次でも格闘系ならレオナに誰も勝てないんじゃないか?」と思うほどだった。


「あれはしょうがないよ。私をハマらせたあのゲームが悪い!」

「家庭版もあるよね、あれ」

「ばっ、言うなよ!」


 その言葉を聞いて、レオナは目を輝かせて、俺を見つめてくる。

 言いたいことは分かる。

 買ってくれ、と言いたいのだ。


「今月は無理だな。誰かさんのゲーセンのせいで金がなくなったから」

「うー! 唯、買って!」

「友達に強請ねだるな!」

「他人に強請った方がいい?」

「余計に駄目だろ!」

「だから唯に頼んだの!」

「そういう問題じゃねーから! つか、唯はゲームに興味がないんだよ!」

「え、そうなの!?」


 驚いた顔でレオナは唯を見つめた。

 まるで、地球外生物を見た時のような驚き方をしている。


「子供の頃から興味がなかったから。ごめんね?」

「じゃあ、しょうがないね。来月、買ってもらおう」

「……考えとく。んで、どこに向かってるんだ?」

「そうだったそうだった。あの公園」

「公園ってことはクレープを買いに?」


「さすが、唯! 分かってる!」

「誰が金出すんだよ」

「優太」

「ないって言ってるだろ」

「唯、お願い! 安いのにするから!」

「それならいいよ」

「よしっ!」


 レオナは思いっきりガッツポーズをする。

 せめて、唯に見えないようにして欲しいものだが、これがレオナの性格なので止めようがないのだ。どうせ、言う事聞かないのだから。


「しかし、あのクレープ気に入りすぎだろ」

「だって食べやすいじゃん。パフェだとスプーンがないと駄目だしさ。食べ歩き出来るのが一番の魅力だからね!」

「単純に食い意地が張って――いて」

「女の子にそんなこと言わないの」


 唯に軽く頭を叩かれ、俺の言葉は途中で止められる。

 こういう発言をすると唯は真剣に注意してくる事を忘れていた俺は、


「ごめん」


 と素直に頭を下げた。

 レオナは全く気にしていないようだったが……。

 そんな、どうでもいいような会話をしながら公園に向かっていると、俺はあることに気が付いた。

 人が全然いないのだ。

 平日の昼間ならまだしも休日の夕方にも関わらず、人っ子一人歩いていない。


「ねぇ、何かおかしいよね?」


 違和感しか生まれないこの状態に、唯が不安そうに俺たちに尋ねてくる。

 この言葉だけで、俺の違和感は間違っていないという確信を持つことが出来た。

 しかし、歩みを止めることはない。

 まるで、どこかに誘われるかのように歩を進めていき、公園の入り口でレオナが足を止める。

 公園の真ん中には一人の青年がいた。

 年齢は俺よりも少し上のような大人びた雰囲気が感じられるが、それ以外はどこにでもいる様な感じの人だ。

 なのに、レオナが珍しく緊張しているらしく、ピリピリとしたオーラが漂ってくる。


「や、やっぱり追いかけてきたんだ。ここまで来るとは思わなかったよ」


 今までのような余裕を感じられないほどの怯えた声で、レオナはその青年に話しかける。

 その青年は答えようとはしない。

 返事の代わりに俺たちに向かって歩いてくる。


「レオナ、知り合いか?」

「知り合いだよ。ものすごく知ってる人。だって、あいつが勇者だからさ」


 その言葉を聞いて、俺は考えもしなかった『別れ』について思考が回り始めてしまったのは言うまでもない。


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