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黒幕(2)

 このタイミングで白石が風間を止めると思っていなかったため、俺たちは何度目になるか分からない驚いた反応を示してしまった。

 今まであまり口を挟んで来なかったように、今回も俺たちに任せると思っていたからだ。


「なんでだよ! お前ら教師は俺の親父には頭が上がらないんだろ? 今回も揉み消せるだろうがっ!」

「消そうと思えば出来る。けど、そんなことをしても風間の立場は変わらない。この現状を見ろ。もう無理だろう」


 その言葉に風間は周囲を見渡す。

 周囲にはあるのは失望した目だけ。

 今まで頼りにしていた学級委員長からかけ離れた行動をしている風間に対する当たり前の反応。

 風間はそれを今さら自覚し、勝手に膝を付いた。


「なんで、そんな目を向けるんだよ! 俺は俺なりに頑張ったじゃないか。そんなに悪い事なのか?」

「イジメが悪いってことぐらい知ってるはずだろ、委員長」

「小学生の頃から習ってる事じゃん」

「そうだよ。風間くんがそんなことをするなんて、思ってなかったから……」


 そんな風間に同調するようにみんなは声をかける。

 しかし、近寄ろうとはしなかった。

 今の風間が不安定で怖いからだろう。


「なぁ、九条? お前は両親から寄せられた信頼がどれほど辛いか、分かるか?」

「――分からない」

「だろうな。俺は兄貴が死んだことによって、そのふた――」

「そういう身の上話とかいらないから」


 レオナが風間の話を遮った。

 完全に興味がないらしく、腰に両手を当てて上から見下ろしている。


「正直さ、あんたの家族の話とかどうでもいいの。そういう同情を引く必要もないでしょ? 悪は黙って成敗されればいいの。そういう話をするのは自分の味方になってくれる人にだけすればいい」

「別にいいだろうがよ! 俺の立場はこれで終わりなんだぞ! みんなからの信頼も無くな――」

「だから、そうしたのはあんたの行動のせいでしょ? 家族の問題は家族にぶつければいいの! そうせずに優太にそれをぶつけた。『イジメ』として。その罰はいつか自分に戻って来る。それが今、戻ってきただけなの。だったら、素直に受け止めればいいだけの話じゃない」


 レオナが風間にかける言葉に怒りは含まれていなかった。

 みんなはレオナの言葉を聞いて、風間を励ましているように聞こえたかもしれないが、少なくとも俺は違う。

 まるで、レオナは自分の運命を知っていて、それを自分自身にも言い聞かせているような感じだった。


「ちゃんと自分のしたことを本気で反省すればいいんじゃない? このクラスであんたが今まで頑張ってきたことは、みんな分かってるはずだしね。信用は後からでも取り戻すことは出来るしさ。そうだよね、優太」

「俺に振るなよ」

「さっきから言ってるじゃん。このクラス会議は優太が解決する鍵を持ってるんだから、優太の判断に任せるって」

「それを人任せって言うんだよ」


 レオナを含めて、全員の視線が俺へと突き刺さる。

 どんな答えを出しても、この雰囲気ならみんなの総意になるのかもしれない。そう考えるだけで俺には十分なプレッシャーだった。

 しかし、答えは決まっている。


「風間も許すしか出来ないだろ。ここで『許さない』なんて言ってみろ、色んな意味で荒れそうじゃないか」

「荒れてもいいと思うよ? それだけのことをされたんだしさ。みんなはどう思うの?」


 レオナの問いに、しばらく沈黙した後、


「被害者は九条くんだしね。私たちも共犯してたみたいなものだから、何も言えないよ」

「そうだな。どうしても九条の判断になる」

「馬場園くんたちと同じだよね」

「うん。そうなるね」


 と何人かが答える。


「だって。だから、優太の好きにすればいいってこと」

「許すよ。ここで色々言いあったって解決しないし。つか、あとの処遇は俺じゃなくて、先生が決めることだしな。だから、白石先生に任せます」


 俺は白石先生を見つめると、首に縦に振る姿が見えた。

 白石は風間に近づくとその手を掴み、無理矢理立たせる。

 そして、腕を引っ張り、ドアまで歩くと風間が俺を見てきた。


「九条、お前は本当に恵まれてるんだな。そんなお前が羨ましいよ」

「恵まれてなんかない。今回の事だって俺は何もする気はなかったんだから。結局、レオナの暴走という形で解決したけど」

「『運が良かった』って言いたいのか?」

「そうかもしれない」

「そっか」


 俺を見つめる目は、まだ静かに怒りに燃えているような目だった。

 みんなの前で自分の本性をバラされ、信頼も一気に失ってしまった。いくらレオナの言葉を受け入れたとしても、誰かにその怒りをぶつけたいのだろう。

 だから、その目を気にしないようにすることが俺に出来る精一杯の事だった。


「ほら、いくぞ」

「はい」


 それ以上、言葉が続かなかったので白石が風間を引っ張るように連れて行く。

 これで本当に解決したと思ったのか、全員がホッとした顔を浮かべて席に戻り始める。


「本当に大丈夫なのかな?」

「何が?」

「だって、風間くんのさっきの目――」

「私もいるから平気だよ。また、助けてあげられるし!」


 さっきの風間の目の意味に気が付いていたレオナと唯が俺を励ましてくれた。

 そんな二人に言える言葉はただ一つだけ。


「ありがとう」


 二人はその言葉を受け止めてくれたようで、笑った顔を見せてくれた。


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