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黒幕(1)

 レオナはもったいぶったように再び教壇の上に座り、真剣な顔をしてある人物を見つめた。


「その黒幕は学級委員長こと風間拓くんでーす」


 白石の時のように、全員の視線が学級委員長へと集まる。

 学級委員長も驚いた顔をしていた。

 黒幕としてバラされたことになのか、それとも誤解からなのかまでは分からない。


「い、いやいやいや! 俺がそんなことするはずがないだろ!」

「私もするはずがないと思ってたよ? 私が転校して来た時も助けてくれたしね。だから、名前を聞いた時は驚きを隠しきれなかったし」

「っていうか、本当に誤解だって!」

「こ・い・が・た・き・♪」

「っ!」


 ここで、初めて学級委員長が唾を飲む。

 というより、レオナの的を得た発言により、何か心に突き刺さったように見えたのは俺だけじゃないはず。


「あ、あのさ、それはどういうことなの? 風間くんはそんな指示する人じゃないと思うんだけど。誰から聞いたの?」

「そこの二人」


 レオナが馬場園と斉藤を指差す。

 二人はこのタイミングで説明する事が分かっていたように、お互いが見つめ合い、頷いた後話し始める。


「九条、お前が南野さんのことをどう思っているかは分からないけど、『どうにかしてくれ』って俺たちは風間に頼まれたんだ」

「お前の不甲斐ない姿を見せるように、ってな。もちろん、金を貰ってさ。俺たちが動くのはやっぱり金を貰ってだしな。俺たちに金をホイホイと渡せるのって風間ぐらいだろ?」

「金を渡せるだけで考えるなら、確かに風間しか思いつかないけどさ」


 二人の的確な発言に俺も自然と頷いてしまう。


「今さら嘘なんか吐かない。吐いたってしょうがないし」

「いや、それぐらい分かるけど」


 二人の説明を聞いている間に、学級委員長の周りにいた人たちは距離をとるようにように移動していた。

 学級委員長は席から立ち上がるとレオナに近づく。

 レオナ、俺、唯、馬場園、斉藤以外のクラスメートたちは後ろに下がる。この場は静かに見守った方がいいと判断したらしい。


「九条さん、これは新手のイジメか?」

「へー、イジメに見える?」

「見えるね。言い方は悪いけど、このクラスの支配者にでもなりたいのかい? さっきから横暴が過ぎるよ!」

「別に支配者になんてなりたくないけどね。私にとって、優太がまた学校に通えるようにしたいだけだしさ」


「だったら、もう――」

「でも黒幕がいるのなら、そいつもなんとかしないといけないんじゃない? 馬場園くんたちだけこんな痛い思いをしてるのに、黒幕だけ関係ないって生活は駄目だよね。再び違う方向でイジメみたいなのが起きるかもしれないしさ」

「それはそうだけど……、俺じゃないのは間違いないっ!」

「優太に関係する人が風間以外いないんだよ。みんなも今までのことを思い出してみたら? 優太がイジメられてる最中に接してきた人が唯以外の他に誰がいたか」


 全員が「あっ!」と声を漏らす。

 学級委員長しかいなかったからだ。

 そもそも、馬場園たちも学級委員長には危害を加える事がなかったことから、何らかの確約を付けていれば暴力を受けることは決してない。


「ほらね。だいたい、二人が今さら他人のせいに出来るはずないじゃん。ね?」

「もう逆らわないって決めたしな」

「ああ、次は本当に死が待ってそうな気がする」


 魔王であるレオナが、こんな不良共が負けるはずがないのは俺が一番知っている事だ。

 だからこそ、最初から「手を出すな」と注意していたのだが、結果的には良くなりつつあるため複雑な気分だった。


「そういうことで、そろそろ正体を出せば?」

「……」

「唯のことが好きなのはみんなが知ってる事だしね。唯がどうなのかは知らないけど、そんなに相手にされないのが嫌だった?」

「うるせえんだよ!」


 そう言い、学級委員長の拳がレオナへと飛ぶ。

 しかし、レオナはそれを手の平で普通に受け止め、その拳を思いっきり握り締める。

 レオナ以外の全員が学級委員長の暴力に驚いていた。

 今まで怒った顔さえあまり見せなかった人物が、いきなりブチ切れて、手を出してくるなどと考えてもみなかったためである。

 レオナに握り締められた拳が痛いのか、険しい顔をしながら、


「っ! み、南野が悪いんだろ! 俺のことを見向きもしないんだから! 俺を誰だと思ってんだよ!?」


 本音を言い始めた。

 唯は自分のせいにされたせいで激しく動揺し始める。軽く自己嫌悪に陥りそうなのか、涙目になりかけていた。


「私のせいなの?」

「そうだ! なんで、お前は九条のことしか見てないんだ! そんな奴のどこがいいんだ! 弄りやすいっていうだけで、みんなから人気者になってるだけの男だろ! 九条よりも俺のほうが成績もルックスも何もかも勝ってるんだぞ! なのに、なんでだよ!?」

「だ、だって……、お、幼馴染だからっ!」

「唯、もういい。レオナ、その手を離せ」

「え? あ、うん」


 風間に近づきながらレオナにそう命じた。

 レオナも唖然とした表情で俺の指示通りに握っていた拳を離す。と、そのタイミングで俺は風間を本気で殴った。

 風間は予想外の事で体勢を立て直せなかったのか、その場で尻餅を吐く。

 周りは再び驚いた声を漏らす。


「何すんだよ、九条!」

「お前こそ、俺の幼馴染をなに悲しませてんだよ! お前が唯のことを好きなのは勝手だ。俺のことを侮辱するのもいいとしてやるよ。でもな、泣かせることだけは許すかよ!」

「お前はそんなことする人間じゃなかっただろうがっ!」

「本当はな。でもさ、二人も知らない約束があっただけだ。それだけのことだよ!」

「は!? 南野にふさわしいのは俺だ!!」

「んなの、知るかよ!!」


 こうして俺と風間のケンカが始まる。

 かと思いきや、レオナに前に立ち塞がれた。


「おい、レオナ! 退けよ!」

「やっぱり優太は暴力振るったら駄目だよ」

「なんでだよ!?」

「唯が泣いてるよ?」

「え?」


 その言葉に上っていた血が一瞬で下がる。

 俺が唯の方を見ると、床に座り込み、泣いていた。

 必死に堪えようとしているのに、涙が止まらないらしい。

 まるで子供の頃の唯を見ているようだった。

 俺はその様子にショックを受けながら、唯の下へと近づき、あの時のように俺は唯の頭を撫でて慰めることしか思いつかない。


「ふ、ははは、ははははは! 九条、そんなんだから甘いんだよ! そんな優しさじゃ、誰も救えないんだ! 俺が九条の束縛から解放してやるよ、南野!!」

「もう止めろ!!」


 その声を出したのは、担任の白石だった。


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