制裁 【レオナ視点】
週明け、月曜日。
私は唯と学校へ、二人で行くことになった。
優太はやっぱりイジメの件で学校には行けないらしい。
これで、転校して来た日以降、優太は学校に来ていないことになる。
あの様子じゃ、「どう考えても問題そのものを浮き彫りにして、解決しないと意味がないんじゃないか」、と私は考えた。
つまり、あの三人をどうにかしたらいいということだ。
そのチャンスは早々に巡ってきた。
「屋上に呼び出したりして何か用ですか?」
私をフェンス側に追い詰めるようにして、三人が壁を作っているようにも見える。あくまで壁としての働きはしていないけれど。
本当に壁として使うなら角を使うべきだ、と思ったからだ。
「あの時は九条に邪魔されたけど、今なら誰も助けてくれる奴はいないからな」
「そうですね。授業中だから、助けを呼んでも誰も来てくれませんね」
「そういうわけで、九条さんは俺たちから逃れられないわけだから観念しろよ」
「そうそう、気持ちいいことしてやるからよ」
「へー、そんなに気持ちいいんですか? 楽しみだなー」
やっぱり、この三人はそんなことしか考えていなかった。
視線が私の胸や脚に向いている事はとっくの昔に分かっている。
でも、優太のように自制することを知らない時点で苛立ちを隠せそうにない。
「っていうか、何をされるか分かっているみたいだから、俺たちもやりやすいな」
「逃げようとしない時点で、同意でいいよな?」
「あ、逃げてもいいんなら逃げますよ?」
「逃がすはずないんだけどな」
「だから、抵抗をしてないだけです」
その間に私は魔力を自分の肉体強化へ移行させる。
本来の力が出せるのならば、こんな相手に肉体強化なんて使う必要はない。素の力で一瞬の内に肉塊にしてしまう事が出来る。この状態でもやろうと思えば簡単に出来るが、そんなことをすれば優太に怒られるし、何の解決にもならない。
我ながら優太には甘いな、と思ってしまう。
「大人しくしてたら、痛くから大丈夫だからな」
「大丈夫だって、すぐに気持ち良くなるから!」
「悪いのは全部、九条だからさ。文句があるなら、九条の両親や九条本人に言えよ?」
ジリジリと迫ってくる三人。
暴れた時のために、私の両手を束縛しようと狙っているらしく、馬場園と斉藤は手に視線を集中させていた。
「気持ち悪いんだよ!」
両手を掴まれる前に、目の前にいる阿倍の顔面に拳をめり込ませる。
「ぶふっ!!」
意味の分からない言葉を上げ、安部はその場に倒れこむ。
殴る瞬間、変な感触がしたことから、鼻でも折れたらしい。
顔を両手で押さえながら、安部は床を転げ回っている。
馬場園と斉藤は予想すらしてなかった出来事に固まっていたが、そんなことは知らない。
遠慮なく、私は斉藤の腹に蹴りを入れる。
「かはっ!」
「おまっ!」
「当たり前の行動をするな!」
馬場園が私の行動を止めようと、羽交い絞めしようとしてきた。
が、即座に後頭部を馬場園の顔面に打ち付ける。
二発ほどで解放されたので、様子を確認するついでに勢い良く馬場園に回し蹴りを食らわせると地面に倒れ込んだ。
「舐めたマネしてんじゃねぇぞ!」
腹に蹴りを食らわしていない斉藤が私にパンチをしようとしてきたので、
「女の子に負けたとあっちゃ、恥ずかしいもんねー」
振り返ることなくスレスレでかわし、カウンターで斉藤の顎にパンチを打ち込む。
すると、斉藤は脳震盪でも起こしたらしく、その場でふらつき始め、バランスを崩して倒れこんだ。
私は遠慮なく、斉藤の背中を踏みつける。
「んで、まだやる? それとも降参する?」
三人はそれぞれに蹲り、呻いている。
問いに対する答えがないので、私は安部に近づいた。
そして、安部の胸倉を掴んで、
「まだやるかって聞いてるの? どうする?」
睨みつけながら問いかけると、
「ひっ! ま、まひりまひた」
怯えているため、呂律が回らないのか、言いにくそうに答えた。
もちろん、言葉だけではなく心から戦意を喪失しているらしく、私を見る目は恐怖で染まっている。
「ん、それならいいよ? あ、でも本当に解決したわけじゃないから、今から教室行くよ?」
「へ?」
「みんなの前で話し合おうよ? いったい、なんで自分がこうなったのか。だって私のせいにされたんじゃ私が悪者みたいでしょ?」
阿部はさっき以上に絶望した表情を浮かべる。
その代わりに私が満面の笑みを浮かべてあげた。
「プライドがズタズタになるから嫌? それともイジメをしてたって事実をバラされるのが嫌?」
「りょ、りょうひょうれす!」
「うんうん、分からなくもないよ? でもね、安部くんたちは優太にそれ以上のことをしたってこと分かってる?」
「ひゃ、ひゃい! は、はんしぇいしてまふ!」
「反省? そっか、反省してくれるんだ! ありがとう!」
「ひゃい! だ、だから――」
きっと、許してくれる。
これで助かる。
阿部はそんな顔をして、見つめてきた。
「でも、優太が味わった痛みとの釣り合いがとれてない。だから、反省じゃなくて全力で後悔させてあげるね? 優太はさ、未だに阿部くんたちのことを敵と思ってなかったんだよ。甘いと思うけど、亡くなったお母さんとの約束を守ってたんだー。だから、そんな優太の代わりに私が『全力で後悔させる』って決めてたの」
それだけで再び安部くんの顔は青ざめていく。
「そういうわけで……私が本当の恐怖を与えてあげるから、覚悟してね?」
その後、私は三人を教室に連れて行こうと思い、立ち上がる。
「ま、まっひゃ! ほ、ほんとうのこともひうかりゃ!」
「え? 本当の事?」
「しょ、しょう! た、たのまれてたんだ! く、くひょうをいじめふように……、たにょまれてたんだ!」
予想もしてなかった言葉に、さすがの私も驚いてしまった。
まさか、黒幕まで出てくると思っていなかったから。
もちろん、そいつも関係しているなら徹底的に追い詰めることは変わらない。一人二人増えようが、やると言ったらやるだけだから。
「名前は?」
「そ、そひつは――です! ……れす!」
「え? 嘘!?」
「ほ、ほんとうれす!」
「ふーん、そっか。理由も教えてね?」
「ひゃい!」
意外な名前だった。
きっと、クラスメート全員も意外だと思う。
理由を聞けば納得出来ることだったが、それでも「許せない」という気持ちの方が私には強かった。
安部から私は手を離すと馬場園に近づき、気付けをして意識を回復させる。こちらも心が折れているらしく、反撃してくる様子すらなかった。
その後は私の指示通り、安部は自分の力で歩き、脳震盪を起こしている斉藤に馬場園が肩を貸して、教室へと向かった。




