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しぶしぶ暴露

 場所は俺が父さんから再婚の話をされた例のファミレス。

 レオナがなぜかここが良いと言ったからだ。

 時間は十一時半。

 レオナの下着を買うのに、あれからさらに一時間掛かったが、今回は何着か買えたらしい。

 ちなみに、俺はレオナから見えるぐらいの距離にある休憩イスに座っていたので近くにはいなかった。さっきのように「近くに居ろ」と言われたら、本当に心が持たなかったのは体験しなくても分かる。

 ぶっちゃけて言うと、今でさえ違う意味で精神的に磨り減りそうだから。


「唯に大事な話があるんだ」


 昼前という事で何人かいる客から離れるように奥の方の席に座ったところで、俺は唯にそう言った。

 席は俺とレオナが一緒に座り、向かい合うように唯が座っている。

 唯は「やっとか」みたいな顔。


「レオナ、お前の話なんだからメニュー表を見るな。そんなもの後だ」

「えー、お腹空いたのに?」

「ワガママ言わない」

「はーい」

「それで話って何?」

「唯が怪しんでいることだよ。信じるかどうかは分からないけどさ、レオナが色々と知らないのには理由があるんだ」

「そうそう」


 他人事のように相槌を打つレオナに俺は緊張感を崩された気がした。

 お前が下着を買ってる間にどうやって話した方がいいのか、と真剣に考えていたことが馬鹿にされたような気分になり、一瞬で白けてしまう。


「相槌打つぐらいならレオナが言えよ」

「別に良いけど」

「なら、言え」

「私、実はこの世界の人間じゃなくて、違う世界の魔王なんだよね」


 あっさりと言い切りやがった!

 もうちょっとオブラートに話そうかと思っていたのに!

 結果的に言うと、きっと同じような言い方にはなっていたと思うけれど、レオナみたいに直線的に言うつもりはなかった。

 この発言に唯は軽く固まっている。

 普通の反応だと思う。


「だ、大丈夫か?」


 俺はそんな言葉しか、かけることが出来なかった。


「な、なんとか。けど、その魔王って人がどういう理由でこの世界に来たの? もしかして、この世界も滅ぼしに?」


 恐ろしい発言を耳にしてしまった。

 というより、俺は一度もそんなことを考えなかったことを思い出す。

 いきなり現れて、いきなりいなくなって、次会った時は父さんの再婚相手の娘として現れたのだから考える余裕がなかったのだ。

 きっと、今の唯の反応が一般的な反応なのだろう。


「ん、違うよ。そんなことも考えてないし。私がここに来たのは勇者の攻撃のせいだから」

「情けない話だ」

「あ、そういうこと言う!? ゲームでは嬉々として魔王とか倒してるくせに!」

「そりゃゲームだからだろ」

「ゲームの中だろうが、本の中だろうが、その魔王にも色々と事情があるかもしれないじゃん!」

「それ言ったら、話として成り立たないだろ」


 唯は黙って、俺たちのやり取りを見ていた。

 レオナの様子を見て、信用出来るのかを確認しているようでもある。


「優太のバカ」

「バカはお前だ。ま、こういうわけでレオナは無知だったんだ。黙っててすまん」


 俺は軽くだが、唯に向かって頭を下げる。


「ん、いいよ。優ちゃんの言う事信じる。優ちゃんがこのタイミングで変な嘘を吐くはずなんてないの知ってるし。でも、レオナさんはなんで再婚相手の娘としているの? そこのところが分からないんだけど……」

「幻術をかけたらしい」

「幻術? どうやって?」

「催眠とも言うかな。ちょっと見ててね。すいません」


 レオナはそう言って、偶然やって来た店員を呼び止めた。


「はい、ご注文はお決まりでしょうか?」


 店員がポケットから機械を取り出し、レオナと店員が見詰め合う。時間にして五秒ぐらい。

 何も言っていないのに、店員は「かしこまりました」と言って、店員が機械に何かを打ち込んで去って行った。


「何をしたの?」

「すぐに分かるよ」

「ロクでもないことだってことは分かった」


 そんなわけで注文もせずにしばらくの間待っていると、その店員が持ってきたのは三つのパフェだった。種類は定番のチョコ、イチゴ、バナナ。

 つまり、さっきの五秒でこれだけのやり取りをしたということになる。

 もちろん伝票はテーブルの置いてある筒に入れられた。


「昼飯食う前からこれかよ。つか、これ誰が払うんだよ?」

「優太に決まってるでしょ?」

「自分の分は払うよ」

「いや、俺が払うわ。唯まで巻き込んでしまったお詫びに」

「ありがと」

「おう」


 レオナはそそくさとチョコパフェを食べ始めており、唯はイチゴパフェを取る。

 俺は残ったバナナパフェを食べる事になった。


「でも、唯は今の俺たちの状況を簡単に信じてくれるのか?」

「信じるも何もこのタイミングで嘘吐くはずがないし……。嘘付くにしても、もうちょっとマシな嘘を吐くんじゃない?」

「それはそうだけどさ」

「訳ありで本当は説明するつもりはなかったみたいだけど、女の子のことに関しては疎いから仕方なくって感じでしょ?」

「よく分かったな」

「付き合い長いからね」


 考えていた通りのことをここまで当てられると、気持ち悪いものを感じるのは気のせいだろうか?

 それぐらい唯は俺の事を分かっているということだ。

 いや、それは俺の事だけじゃない。

 本人は気付いていないのかもしれないが、よく気が付くことから、色々な男子生徒から好かれている。女子も嫌っている人は少ないと思う。それぐらい周りのことを気にし、配慮していた。


 そういう性格になってしまったのは昔、イジめられていた影響のせいだ。

 あの頃は俺が助けていたが、いつまでもあのままでは駄目だと感じ、自分でなんとかしようと頑張った結果がこれである。

 悪いとは言わないが、そんなに周りのことを気にするのは疲れないのか、と俺は思ってしまう。しかし、余計な口は挟めない。そうすることを唯が選んだのだから、俺がとやかく言うべきではないからだ。


「どうしたの?」


 ついついボーっとしてしまい、唯の言葉に俺は慌てて返事。


「え、あ……なんでもない。サンキュー、信じてくれ」

「うん」

「ご馳走様!」


 レオナはちょうど食べ終わる。

 唯はまだ半分ぐらいしか食べ終わっていない。

 俺なんてまだ三分の一ぐらいだ。


「食べ終わるの早すぎ」

「だって甘いの美味しいじゃん」

「否定しないけどさ。おかわりしていい?」

「駄目に決まってんだろ」

「えー、じゃあ優太の頂戴」

「はいはい」


 俺は自分のバナナパフェを差し出すと、レオナは再び喜んで食べ始める。

 そんなレオナの姿を見ながら、唯が俺に尋ねてきた。


「ねぇ、本当に魔王なの?」

「間違いなく」

「全然怖くないんだけど」

「だな」


 唯の想像上の魔王も俺と同じらしく、唯からその言葉が出てきてくれた事で、自分の感覚が狂っていないという事が分かり、少しだけ安心した。

 そんな俺たちの会話がレオナに聞こえているのか、それとも聞こえていないのかは分からない。ただ、分かることは俺のあげたチョコパフェを美味しそうに食べているということだけだった。


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