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「いつ頃帰れるんだよ」 02

 髪は長いままだったが、髭をあたってもらい(危険防止のためか、自分ではやらせてもらえなかった。先ほど腕を掴んでいたうちの一人が、かなりの手際の良さで髭をそってくれた。もう一人と、更にもう一人が脇で見張りに立っていた)、着替えも済んですっかり、娑婆っけの抜けたアオキさんを、後でやってきた丸メガネの男が小さな部屋に案内した。

 何の飾りもない、窓もない四畳ほどの部屋。一番奥には教主である男の写真が額に掲げられていた。

 そこに風呂までつき合っていた二人も一緒に入ってくる。

「ここが、泊まるとこかい?」殺風景だねえ、ときょろきょろする。

「いいえ、宿舎ではありません。指導室といいます」

 向かいに座った男は、アオキにも椅子を勧めてから、小さなパンフレットを取りだしてみせた。

 あとの二人は、ドアの前に並んでいる。

 二人がドアの前に立つのが、ここのお約束らしい。

「修行に入られる前に、いくつかお願いしたい点がございまして、ここで確認させていただきます。細かいオリエンテーションは明日ですが、その前にいくつか」

「へえ」

「まず、もうしわけありませんが」

 パンフレットの中に、小さな文字が並んでいるところを指さして、本当に申し訳なさそうに告げる。

「修行中の言動についてですが、言葉はあくまでも、丁寧にお願いいたします」

 オレ、オマエ、~だ、~である、などではなく、です・ます調でお願いします、と。

「へえ」へえ、ではなく、はい、ですね、と目の前の男が笑った。

 ドアの前の二人もにこやかな目をしている。

「はい」一応、言い直した。「くすぐってえなあ」

「……なるべく、そういったつぶやきなども気をつけていただければ」

「はいはい」

「今後、他の信者さんとも交流が増える事と思いますが、そういう時にもお気をつけください。仲良くなられるのは、こちらとしてもたいへんうれしいのですが、あまりにもくだけた口調ですと、色々な御事情の方もいらっしゃいますし」

 だったら、やっぱりルディーが来ればよかったのだ、とアオキは心の中でつぶやく。あの話し方なら一発合格だろう。

「まあ、徐々に、ですがね」

 丸メガネの奥の目が、やさしくこちらを見た。


 スキャンしてみようか、ほんのいっとき、彼の目線を捉える。

 しかし逆に、何を考えているのか知るのがこわい。

 やめた、次の機会を待とう。アオキは目線を外してテーブルの端に目を戻した。


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