何が自分を繋ぎとめていたのかの回答 04
「ところで、オマエの本名は何て言うんだ?」
急にサンライズに聞かれ、ルディーは反射的に答えた。
「ヨーナスですが、どうして?」
「なぜジャカードに、ゼブって呼ばれたのかな、と思って」
ルディーは思い出して、笑い出した。
「あの人は、ひどいんですよ」
「誰?」サンライズが聞くと、ルディーは
「ジャカード・リーダーに決まってるじゃ、ありませんか」
とかなり身を前に乗り出してきた。
このリーダー、色々特技はあるのだが、何と言っても一番得意なのは人にあだ名をつける事なのだと。
スゲをポチ、と呼び始めたのも彼だし、本部長をドルーピー呼ばわりしたのも、どうも彼が一番初めらしい。
ナカガワのことは、ナカガワと呼び捨て。ルディーがある日、何故? と聞いたら平然と
「オレは気に入った相手にしかあだ名をつけない」と答えたのだと。
「どうしてゼブ、なのかお聞きになりたいですか?」
聞きたいな、何だろう?
「シマウマですよ、シマウマ」
温和な草食系だが顔に縞模様があるからだとか、思わずサンライズ、飲んでいた珈琲を吹いてしまった。
「アナタまで……ひどいなあ」
「すまんすまん」笑いながら、ティッシュでテーブルを拭く。
「でもね、アナタも自分が何て呼ばれているか知らないから……」
えっ、何かあだ名つけたのか、アイツ?
「それは……」
言いかけて、ルディーは言葉をきった。悪戯っぽい瞳が笑っている。
コイツ、ボビーとうまくいかないはずだ。性格的に似ていなくても、妙な共通点が多い。まず、上司を上司と思ってない点だ。
特にオレをおちょくるのが好きらしい、サンライズは嬉しそうに笑う彼を睨みつけてやった。
「……これからずっと、下で働かせてくれるなら教えます」
「さっさと田舎へ帰れ、ゼブくん」
今度ジャカードに会えたら、オレの方が変なあだ名で呼んでやる、絶対に。
ホームベースくん? いや、ガマグチくんでいいや。
立ち上がって暇を告げる時、ルディーがまじまじと耳たぶを見ていたので
「これ?」手をやった。
発信器は既に取り外していたので、傷は2つになっている。
「もうピアスは、なさらないのですか? 上の穴はちゃんと残っているのに」
「これか」上の穴に触ってみる。
「傷は傷として、残しておかなければ、と思ってさ」
指を3本立て、横向きに自分の顔の前にかざしてみせる。
「キミも同じ気持ちなのかな」
整形で治せるはずの傷だが、なぜ残しているのか、聞いてみたいと思っていた。
また話してくれるだろうか、いつか。
ルディーは照れたように下を向いた。しかし、はっと顔を上げた。
「そうそう、ずっと聞きたかったのですが、いいですか?」
先にきたか、まあいいや、とルディーに向き直る。
「何だい?」
「どうして……最初、トルコ石を?」
ああ。サンライズ・リーダーは晴れやかな顔をして笑う。
「妻と娘の、誕生石なんだ」
了




