何が自分を繋ぎとめていたのかの回答 03
「アナタならば、この言葉がいいでしょうか?
Heaven helps those who help themselves.
日本語で何というのか……知らないので。すみません」
「天はみずから助くる者を助く、かな」
「みずから、ですか、自分自身という意味ですよね」
ルディーはカフェオレを一口すすった。実は甘いもの大好きなんですと笑った。
「アナタは、自分自身も助けて、それに私たちをも助けてくれました」
「仕事だからね」
「信者の人々も、結局助けられたのではないですか?」
「それは……」確信できない。
一斉捜査が入った時、現場検証のために同行した彼が見たのは、必ずしも喜んでいる顔ばかりではなかった。
むしろ、戸惑った果ての無表情が多かったような気がしていた。
分からない、それにオレの布教活動で更に信仰心を深めてしまった人がいたかも知れない、それだって償うべきかどうかが自分でも解らないのだ、と正直にルディーに答えたら、びっくりしていた。
「それでも、アナタがおっしゃったように、道具としての宗教を彼らは手放さざるを得なかったのですから」
そう、後は、いったん信じていたその言葉全てを白日の下に晒し、それらが純粋な心の拠り所となり得るか、自身に常に問うていくしかない。
自分を信じる、というのはつまりそういう事なのかもしれない。
その時初めて、彼らは新しい門出を迎えることができるのだろう。
廃人になった梶川輝臣は、どうなのだろうか?
いつかは癒される時がくるのだろうか?
彼は実際、加害者だったのか被害者だったのか、ずっと考えたがよく理解できなかった。ただの夢想家が、弟や周囲に利用されて最後に捨てられた、というだけならば、彼は被害者の一人に過ぎない。でも果たしてそれだけなのだろうか?
彼の最大の罪……それは、その偉大な宗教観を単なる道具として、彼らに投げ与えてしまったところなのだろうか。
しかしそれを言うならば、過去にも同じ過ちは多いような気がする。
人間とはやはり、道具を信じすぎてはいけないのかも知れない。それに
「オレにはやっぱり、宗教を語る能力がないような気がするな。向いてない」
あーあ、と伸びをする彼を見ながら、ルディーは甘いカフェオレをじっくりと味わっていた。
甘いもの好きですが、かなりの猫舌なんです、と言う。
誰にも苦手はある。




