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「ちょっと、忘れものをね」

 ミツヨカワの後ろには、雄大な富士の姿が窓いっぱいに広がっていた。

 しかし捜査員が部屋に入り令状をみせて同行を求め、部屋を一緒に出て行くまで一度も、彼はその姿を振り仰ぐことはなかった。

 ただ彼は、廊下に出てから一度だけ立ち止まって「アオキくん」彼を呼んだ。

「はい」

「キミが何者か、何のためにきたのかは知らないが」

 パチンコ帰りのおっさんに、一瞬だけ宗教家の影がだぶってみえた。

「すばらしい朗読だったよ、あれは」

 捜査が全部終了したら、テープの類はすべて処分してほしいもんだな、ジャージ姿が角を曲がるまで、彼はそんな事を思いつつ、黙って佇んでいた。


 ふと思い出して、サンライズは急いでまた宿舎の元自室に戻った。

 ちょうど、部屋から城ケ島が出てきて目をみはる。

「アオキさん、どうしたんだ?」

「ちょっと、忘れものをね」

 サンライズはずっと使っていたベッドに近づき、枕を取り上げた。

 カバーは1週間に1度洗濯に出していたが、枕はずっと同じものを使っていた。

 彼は、脇のファスナーを開けて中身をすべてゴミ箱に空ける。PETのペレットがざらざらと流れ出す。紙を小さく丸めたものがいくつか混じっていた。

「何?」

「涙の日記ですよ、出られたからもう必要ないけど」

「日記?」

 目を見張って見送る城ケ島に軽く手を上げてサンライズは次の目的地に向かった。


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