「なんやこれ、おかしいと思わへんか?」 03
ビデオ撮影が無事、終了した頃か、だんだん兄が沈みがちになってきた。
せっかく富士山のふもとに立派な施設もできたんだし、これからじゃないか?
と責めると急に
「オマエ、富士山のとこ……地元の住民団体が抗議に来たの、知っとるよな」
もちろん、実務担当の自分が知らないわけがなかった。
世情にはうとい兄でも、そのくらいは耳に入っていたのか。しかし、その後の兄の言葉に凍りついた。
「何や……団体の代表者が抗議を取り下げたんやて、ケガしたとか。
その頃に変なヤツらが教団幹部に登用された、そういう噂を聞いたん……」
兄はすがるように彼をみた。
「オマエがやらせたんや、ないよな? ミツオミ」
「『もちろん、そんな話は根も葉もないデマだ』とワタシは答えた」
オダを拾ったのがこのすぐ前だった。
オダはカジカワ整体院の土地をさばいてくれた不動産屋の息子で、どうしようもない不良だった。不動産屋の社長から、献金はするからこの馬鹿息子をどうにか修行させてやってくれ、と泣く泣く頼まれて預かったのだが、思いのほか、役に立つことがわかった。
まず、近隣のワル連中と深いつながりがあり、汚い仕事はいくらでも喜んで引き受けた。
ミツオミの現実主義と、オダの人脈と権力への薄暗い野望がぴったり、目的を同じくしたのだった。
「5月中旬、どうも帳簿のコピーとデータがいくつか盗まれたらしい、と幹部から報告があった時、まっ先に疑われたのは、兄だ」
スギヤマは個人経営の保険屋だった。実家に出入りしていた頃からなのでごく初期からの付き合いで、兄弟の性格も熟知していた。
「教主様が、もしかして持ち出されたのでは……」言いだしたのも、彼だった。
ずっと経営の全てを弟の自分に任せておいて苦労をさせておきながら、少しでもマズイ事があると世間に公表して何もかもめちゃくちゃにしてしまうのか、兄の偽聖人ぶりにハラワタが煮えくりかえる思いだった。
「スギヤマとオダに相談したら、それしかない、と」
久しぶりに富士山が見たい、と訪れた兄に睡眠薬を飲ませ、そのまま監禁してしまったのだと彼は告白した。
「……殺せなかった、自分ではね」
スギヤマも昔の彼を知っているだけに、殺すのは猛反対したという。オダは不服だったらしいが、本心では次にやられるのは自分かもしれない、と危惧したようで最終的には監禁に同意した。
「どんどん暴走していった。何故かは分からないが」




