「なんやこれ、おかしいと思わへんか?」 01
サンライズは部屋を出てから、2階の執務室に足を運んだ。
午後になると、捜査員が彼を連れて行ってしまうと聞いていたが、特別に頼んで面会を許可してもらっていた。
ドアの前には、警察官が2人立っていた。
新しい秩序の下でも、やはり見張りは2人なんだな……彼は見張りに身分証を見せて、中に入った。
ミツヨカワは、普通の紺のジャージを着てデスクの前に座っていた。
あたりには、書物や紙類が散乱している。脇に積まれた段ボール箱には、ぎっしりと書類が詰められていた。これから捜査本部に運ばれていくのだろう。
「アオキくん」
懐かしげに、ミツヨカワは微笑んだ。
そのへんのパチンコ屋で出くわしそうな感じだ。まだらなヒゲもそんな雰囲気。
スキャンしようと迷い、止めた。
見ただけで分かる。もはや彼は本当の抜け殻だ。
替わりに、彼は訊ねてみた。
「どうしてなのか、教えてください」
ミツヨカワがにっこりしたまま、彼をまともに見た。
「どうして……兄を監禁していたか、だろう?」
「はい」
「兄が、持ち出したのだと思ったんだ、帳簿のコピーとメールデータをね」
「教祖が、自分の宗教を潰そうと思いますか?」
「この宗教は……確かに兄が創設した」
そこでようやく、彼の顔に誇らしげな表情が戻る。
「しかし、ここまで造り上げたのは、このワタシだ」
元はと言えば、シヴァの追跡調査の結果だった。
「テルヨカワは、各地で除霊相談会を開いているね」
信者の個人ブログやナチュラルマインド事務局のお知らせなどをたんねんに辿り、彼は、ここ2年程の教祖の動きを追っていた。
教祖は、以前は本部の置かれた富士宮の施設にもたびたび足を運んでいた。
「個人口座の入出金が、面白い」
テルヨカワは、クレジットカードを何枚か所有していたがここ数ヶ月、急にカードの使用をやめたのだという。
代わりに、財布代わりに使っていた口座から、度々現金が引き出されるようになった。
「おかしい、彼は全国を飛び歩いているはずなのに、出金はすべて、施設近隣のATMを利用している」
全国行脚の記録にも、変化があった。
大勢の信者の前に、実際に姿を見せなくなっていたのだ。
個人的に相談を受けた、という報告はちらほらあったが、写真などの確実な証拠が、一つも出てこない。
もちろん、この施設にも姿を見せなくなっていた。




