「守れるだけは守ろう、と」 03
「ヤツはね、全然信仰心なんてなかったんだ、ただオレが心配で連れ出そうと思っただけだ。女房に聞いたら、オレが入院中だと答えたらしい。それでもあまりに退院しないと思ったらしく、しつこく聞いて事情を察したらしい。本当に昔から、うっとうしいヤツだったからね」
浅田は最初から、何もかも戸惑っていた。
城ヶ島のことを見かけた時にもあやうく、正体を明かしそうになった。
とにかく、要領の悪さは天下一品だった彼は、入所当日から目をつけられた。
彼のあまりの落ち着きのなさに、城ヶ島は不安になり、うまく取り入って同じセクションに配置換えしてもらった。近くで見張れたほうがいい。
「薬はね、下の薬局から盗んできたんだよ」老獪な刑事の顔がのぞく。
「ではあの人が夜になるとあんなだったのは……」
「夕食の時に、オレがやったんだ、こっそりね」
オダに目をつけられていたんだ、浅田は。入所の時からずっと。
「今朝来たヤツ、アサダか。顔が気に入らねえ。しかも何だあの体操は。夜に廊下であんな事してやがったら、特別指導でしごいてやるか」
たまたまオダが廊下でうそぶいたのを小耳にはさみ、城ヶ島は決心した。
せめて、守れるだけ自分が彼を守ろう、と。
浅田はしょっぱなから続けて2回ほどリンチを受けて、更に言動が不穏になりだした。
それでも飲み物に薬を入れ始めたら夜だけでもようやく落ち着いてきた。
しかし副作用なのか、記憶を失いつつあった。
「アンタが来た時は、ぞっとしたよ」彼はサンライズを見た。
「チンピラがアサダと同室に入った、2人とも一と月と持たないだろう、ってね」
耳ピアスのチンピラがこんどセクションCに来た、前日の夕食前、セクション長が耳打ちしたそうだ。
アイツ、すぐ清められるだろう。アサダ君もとばっちりがきたら、不運だな。
初めての朝食で、城ヶ島はチンピラをよく観察するために、やや長めのスピーチをした。
観察の甲斐はあった。
この男は、切り札になるかも知れない。同じ匂いを感じた。
翌日には早速、接触を試みた。
「オレも、まだまだ少しは勘が残っていたのかな」
「お終いの方で、薬を入れるのをやめたのは?」
「アンタが何か仕出かそうとしているのが分かった……安全かどうか判らなかったので、見極めがつくまで逆に浅田がジャマしてくれれば、と思ってね」
それがあんな結果になるなんて……城ケ島の苦笑は、しかしどこか爽やかでもあった。
城ヶ島がそう言い終わった時、ちょうど浅田が戻ってきた。
「3階にもありませんでしたよ、ジョウさん」
「オマエ……」あきれたように城ヶ島が言った。
「本当に、使えねえなあ、相変わらず」




