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「守れるだけは守ろう、と」 02

 城ヶ島は、警視庁刑事部の警部補だった。凶悪犯を追うのが主な仕事だったが、急に疲れを覚えて仕事に出られなくなった。

 うつ病だと診断された。

「女房や子どもにも出て行かれて……やけになっていた」

 そんな時、心配して何かと彼の所を訪ねてきてくれたのが、部下の浅田だった。

「ジョウさん、っていつも呼んでくれて、ジョウさん、ご飯まだでしょう? チャーハン作って来ましたよ、とか一緒にトンカツ食いに行きましょう、とか、とにかく昔から落ち着いてなくてさ」

 仕事の合間を縫ってちょくちょく寄って行ったのだと。

「そんな時、別れた女房から電話があった」

 正式に離婚したいとか、そういう話かと思っていた彼は、意外な相談を受けた。

 20歳を過ぎたばかりの娘が、変な宗教に入り浸るようになり、ついに荷物をまとめて出て行ってしまったのだと。

「パパ、アナタのせいよ、何とかして、どこにいるかとか調べてよ、刑事だったんでしょ?」

 追いかけて来た所が、このセンターだった。

 娘を探すために自らも入信した。

 多分、気持ちも弱っていたのだろう、すんなりと教義が耳になじんだ。

 いつしか、宗教こそが自分の求めていたものだと思い込んでいた。そして、娘を探すことも忘れていた。


 そこまで話した時、浅田が戻ってきた。

「紙、見当たりませんでしたよ、事務局の人はちょうどどこかに連れていかれて」

「おかしいなあ」城ヶ島はとぼけて

「3階の資料室だったかなあ、見てきてくれ」

 浅田は文句も言わずにまた出かけた。

 そんな彼を、城ヶ島は笑いながら見送る。

「ああいう所も昔からだ、要領が悪い」

 かなり、彼のことが可愛いのだろう。


「……いつ頃から、ここに入ったのですか?」

「この10月で、2年になっちまった」色々あったかな、と、遠い目になった。

「元々がへそ曲がりだからね、かなり特別指導も受けた」

 ひじのあたりの、白くなった傷をみせる。

「清め場にも、一泊されたとか」

「ああ」苦笑している。

「娘を探しに行ってね……すぐに捕まった、エロおやじって言われて」

 穴倉はキツイ。もう絶対に思い出したくない場所だね、と言うので強く賛同した。

 城ヶ島はまた、明るい空に目を向けた。

「何度も同じような目に遭ってようやく、ここでも娑婆と同じようにしたたかに生きることを学んだ」


 水面下に潜ると、見えないものも見えてきた。

 娘の居所もすんなりと判明した。

 彼女はすっかり宗教に心酔し、その時には女性幹部候補だったという。

 母親の姓を使っていたため、関係はバレずに済んでいた。

「ここに居場所ができたなら、もう仕方ないと思っちまったんだな、オレも」


 しかし、そんな時にやってきたのが浅田だった。


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