「支部の方ですか?」(言ってない) 03
中に踏み込んで、体を担ぎあげる。一杯いっぱいだったが、相手が思いのほか軽くて助かった。
よろめきながらも、サンライズは彼をなんとか外に連れ出す。
「階段は、どうしようか」
「這ってみる」
すっかり老人のような声だが、ジャカードは腕に力をこめ、それでも何とか階段を上っていった。
もう一つ、残った囚人についてはどうしよう? とりあえず鍵だけ開けておこう、と扉に向き直った。
中はやはり、ものすごい臭気だった。
部屋の片隅に、先ほどのように何かの塊がいた。
「だいじょうぶですか?」
声をかけたが黙りこくっている。しかし、頭は上げたので意識はあるようだ。
サンライズはライトを頭から外し、少しだけ近づいて顔を照らしてみた。
黒い垢にまみれ、やせこけた顔、長い髪にもつれた長い髭、目の中には、何も表情がない。
スキャンしてみようと彼に触れてみたが、ぱっと手をひっこめた。
心には何も、映っていなかった。虚無だ。
虚無が口を開いた。「あああああ」ダメ、今はこんなのは受け止められない。
「また来ます」
とりあえず鍵はかけずに、ドアだけバタンと閉めて逃げ出した。
外に出て、まず発信器の電源を入れた。
あれから何日経っているか分からないが、近くに味方が来ていると信じるしかない。
それから、モップと化した同僚の状態を確認した。やせ衰えてはいるが、表情は力強かった。
「すまないが、世話になる」
まず着替えたい、と言うので看守の詰め所に入る。




