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「ここで変われるんだよ、カズさん」 01

<八月二四日(月)

 日記を始める。いつまで続くか、ばれたら終わりだが。ここの初日、妻と弟と訪れて入所>


 宗教法人『ナチュラル・マインド』富士山麓昇浄(しょうじょう)センター。

 一般相談室Aには7人の男女がいた。

 部屋自体は、落ち着いたサーモンピンクが基調になっている。テーブルは丸く、そのまわりにゆったりと座れる椅子が6つほど、並んでいた。

 椅子に5人、あと2人はドアの前に並んで立っている。

 しばらくの沈黙の後、椅子にいた1人が、ファイルをめくりながら言った。

「精神科への受診は、されていない……と。今まで一度も、ですね」

「はい」面やつれした女性が、うなだれたまま答える。

 その隣に、シャツの裾をだらしなくズボンからはみ出させて、それでも少しは行儀よく座っているのが

「アオキ・カズハルさん?」

 急に呼びかけられ、今まで貧乏ゆすりをしながらテーブルのふちをにらんでいた彼は、ひざを止めて、ゆらりと目をあげる。

 少し長くなった前髪の間から、無精ひげに覆われた小汚い顔が、油断なく前を見た。

 黙ったままだったのを、右隣りに座った男が困ったように

「……」これまた黙ってひじで突く。

「アオキ・カズハルさん、」

 向かい合って座るのは、このセンターのセンター長、ミツヨカワ・カイ。

 教祖のテルヨカワと同じく、本名ではなさそうだ。

 40前後だろうか、上背があってかっぷくがよく、ミシュランのキャラクターにもどこか似ている。さすが宗教家、笑顔がさわやかだった。

 その隣は小柄な男。ミツヨカワと対照的な、俗世間を引きずっているような神経質な顔をしている。秘書のようなものだろうか、しきりに、メモを取っていた。

「横浜の中山にお住まい、なんですね。新横浜の相談所で、こちらを紹介された、と」

「はい」

 妻が代わって答える。彼はまた貧乏ゆすりを再開。

「なんだよここは、病院か?」上目づかいにあたりを見渡す。

「オレはこんな所に入らねえぞ。何度も言ってんだろ、ビョーキじゃねえんだ」

「兄さん」

 脇に座る弟、アオキミツヒコは、弱ったような目をカズハルの妻に向ける。

「ねえカズさん」

 妻は小声で、夫の肩を揺らす。

「横浜でさんざん、話したでしょ? オレは変わりたいって、言ったよね?」

「……」

「ここで、変われるんだよ、カズさん。新横浜の相談の方もおっしゃってたじゃない。まだ全然遅くありません、修行すれば全く別の人生が……」

「このまんまでいい」

「よくないから、来たんじゃん」妻は激昂した。


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