「どうやってここから出る?」
すでにサンライズにも、時間の感覚がなくなってきた。
暗闇が、体をぴったりと押さえつけているようで息苦しい。それに臭気。
床に接した体に時々、何かの虫が触る。おかしな感触がするたびに、神経質に払いのける。ずっとぴょんぴょんと、跳んでいたいくらいだ。
しかし排水口からあまり離れると会話もできない。今は会話だけが、狂気から自分を救う手段だった。
ジャカードとの会話で、彼がすでに一度敷地外への脱走に成功したことが判った。
ただ、逃げ出して間もなく、ヤツらの警備に見つかってしまったのだという。
「それからずっと、ここに閉じ込められている」
ジャカードの信号は、そう伝えていた。彼がここに入れられたのは5月の始めだそうだ。6ヶ月も監禁されていたと聞いて、かなりのショックを受けていた。
時間の感覚をずらすためなのか、食事は不定期らしかった。サンライズのところにも、まだ一度も運ばれていなかった。空腹は、きりきりと胃を絞るような痛みに代わっていた。
ジャカードの話では、運ばれるのはパン一切れとスープ、水がコップ一杯と決まっており、箸も匙もつかない。もちろん食べ終わった後は、食器は残らず回収される。
排泄物の処理は、もっと間隔があいているらしい。
食事の時と同じく、まず上の窓から懐中電灯で照らされ、後ろに下がり、壁を向くよう指示される。そこへ扉が開いて、ホースでそのまま、部屋中に放水するのだそうだ。ついでに気が向けば、体も流してくれる。
「今まででも、数えるほどだった……4回か5回」
サンライズはぞっとした。
それでなくても暗くて狭い所は耐えがたい。
ジャカードはよほどタフらしいが、自分はただの郵便局あがりのオッサンです。絶対ムリムリ。
でもさすがに、半年も穴倉に詰められていた人にそんな弱音は吐けない。
「どうやってここから出る?」
「発信器を付けている。スタッフが数日内に近くに来ることになっている」
「警察の令状も要るだろうな」
信号だけでは、感情までは伝わらない。
しかしすでに、彼のたてる音にはあきらめの色がにじんでいた。
「ここは私有地の真ん中だ、どうしても受信者が敷地に入りこむか、オレたちが外に出ない限りは電波が届かないだろう」
かなり考えてから、サンライズは伝えた。
「どうにか出られないか、考えてみる。待っていてくれるか?」
「もう半年も待てたんだ、平気だよ」かなりの時間がたってから、
「歩けないかもしれない」弱い音だった。
「そうしたら、一人で先に出てくれ」
「資料は、手に入れたのか」
それには答えがなかった。まだ完全には信用されていない。
「オレは少し眠る」
彼はぬるぬるする床にできるだけ高い手枕で寝ころび、少しまどろんだ。




