「今は何月何日だ?」 02
そろそろと、部屋の中をさぐるのと同じくらい慎重に、徐々に、網を拡げて行く。
久しぶりのことで、すぐに動悸が激しくなってきた。
ダメだ、気分が悪くなるのが早すぎる。匂いにも我慢できなくなりそうだ。
仕方なく、立ち上がってまた手をのばし、ドアの前に寄る。
匂いを避けるためもあって鉄格子の間に顔をおしつけるようにして、まずは看守の出方を見るために大声でさけぶ。
「出せ、出してくれ」
更に5分ほど叫び続ける。久々に小汚い罵倒も混ぜる。かなりスッキリした。
誰も降りてこない。
しばらく耳をすませて様子をうかがう。
看守は慣れているのか、聞こえていないのかは不明だが、全く反応がなかった。
彼は急に声のボリュームを下げた。
「誰か、いませんか」
名前を呼んでみる。ジャカードのカイシャ名は確か
「ええと、トガシさん、トガシさん」少し声を大きくする。
「トガシさん、いませんか」
今度はゆうに10分以上は呼んだ。呼び疲れて、通路のやや匂いのきつくない外気を吸いこもうと少し伸びあがった時、
かすかな、金属音。
彼はそのまま身を固くして、次を待った。
しばらく何の音もなかったが、また、小さな音が続けざまに聞こえてきた。
排水口の蓋だ。彼はがばっと身を伏せて、自分の部屋の排水口に耳をよせた。
小さいが、はっきり聞こえてきた。
―― SOS SOS
モールス信号だった。彼は爪をたてて、丸い蓋をたたく。
―― ジャカードに告ぐ こちらサンライズ
これだけを何度か繰り返すうちに、向こうの音が止まった。じっと聞いているらしい。
しばらくして、返事があった。
―― こちらジャカード マイロックから?
―― そうだ 状態を聞きたい
―― 立てない オレはどのくらいここにいる? 今は何月何日だ?
アオキカズハルとして施設に入所して、11週目に入ったところだった。




