「どうせコイツは逃げられない」
建物の裏手に来ると、スギヤマが小声で毒づいた。
「元々オマエがちゃんと、始末をつけないからだ。あんな所に……」
「黙れ」今ついている部下に聴かれたくないらしく、オダは低い声で制した。
「話は副教主様の小言が済んでからだ、いいな」
さすがの彼もミツヨカワが怖いらしい。
森の入り口あたりで
「コイツ……」オダが足を抱え直した。「コイツに話したのか」
「いや、偶然見たんだ」
スギヤマは少し上りになった道で、息が切れてきたらしい。
「最初から、信用できないヤツだった」
だったら頼みごとなぞしなければよかったのに、と息も切れずにアオキは心の中でつぶやく。
踏みならされた森の小道を十分以上進み、ようやく、清め場に到着した。
「気がついてるんだろう?」
入り口でどさっと落とされた。
「自分で歩け、クズ」
森の中では、宗教色も何もない、単なるチンピラにしかみえない。
「そこを降りてください」
スギヤマが重いドアを開けて、懐中電灯で中をさしてみせた。
真っ暗い階段がまっすぐ、建物の中に降りているのが電灯の輪の中にちらっと見えた。小さな黒い影がその輪をすばやく横切った。
「一発殴らせろ」オダがアオキの胸ぐらをつかんだ、がスギヤマの一言が効いた。
「先にあっちだ。どうせコイツは穴倉から逃げられないから」
つるし上げられたまま、アオキは目の前の男に集中する。ほんのわずかに、何かがひらめいた、見えるか?
捉えられそうで、とらえられない。なぜか斜面を上がった敷地の外れが見えた。そこにスコップを抱えてたどり着くオダ、穴掘り? そして脇に転がるのは……死人?
建物の脇から、また2人が出て来た。
額に懐中電灯のベルトをしている。炭鉱の人みたいだが、ここの見張りらしい。
「どうしましたか」
「もう1人お客様です」スギヤマは急に澄ました声になる。
「一番奥が空いたでしょう? あそこにお通ししてください」
また、オダの思念が一瞬ひらめいた、キーか? できるか?
がつん、とあごに一撃。意識がとんだ。一瞬遅かったようだ。
両脇を掴まれ、朦朧としたままのアオキはそこを降りていった。




