「寝かせてやる、一生な」 03
アオキが血走った目を、やってきた連中に向けた。
「コイツがうざったくてよ、眠れねえ眠れねえって」
襟首を突き放すと、アサダは芝生の上に転がった。
「オレが寝かせてやる、一生な」
更に上から踏みつけようとしたところを、オダの部下2人が止めた。
「どうしたんですか、アオキさん」
スギヤマはあくまでも落ち着いた風に聞いた。
「オレが本読んでる間も、ずっとずっとしゃべくりやがって……」
「それでも、その態度はいけませんよ、もっと、」
「もっと何だ、メガネブタ」
スギヤマがよろめいた。オダがうっすら笑って近づく。
「おっと」アオキは一足下がって、にやにやして言った。
「拷問部隊の隊長様か、今日は誰をいじめにきたんだ? 1人片付いたんで、次の仕事か?」
言いかけた所に、腹を殴られた。
「やめなさい」
ミツヨカワが制した。「ここではみなさんが見ていらっしゃる」
崩れ落ちたアオキからも、周りの宿舎のほとんどに灯りがついているのがみえる。
「では、連れていきます」オダは部下に命じた。「指導室へ」
「建物の中はまずい、見られている」
スギヤマがまた、汗をかいている。もう少しかかせてやろうか、とアオキはわざと明るく言う。
「あ、スギヤマさん、先日はどうも」
案の定、スギヤマはぴょんととび上がった。
ミツヨカワが怪訝そうな顔で、アオキをみる。
「気がふれたのか?」
「いやね、いつも世話になってるんで、このペテン師め」
「清め場に入れましょう」スギヤマが早口で遮った。
「副教主さま、よろしいでしょうか」
ミツヨカワは少し、スギヤマに目をおいた。そこにアオキの声がかぶる。
「おいミツヨ、みっちゃんでいいよな。オマエの留守中に何してたか、ソイツらに聞いてみろよ、みっちゃん」
今度はミツヨカワ、じっとアオキを見おろした。
「キミは数日、魂を清めておいでなさい」
オダとスギヤマに、部下を連れて彼を置いてくるように指示すると、オダもスギヤマも争ってアオキの腕を取ろうとした。
「オダくん、それにスギヤマくんは」
思い出したように、ミツヨガワがふり向いた。
「彼を置いて来たらすぐに、私の部屋に来るように」
「はい」
「アサダさんは、ご自分のお部屋にお連れして、お茶を差し上げなさい」
「はい」
アサダはおとなしく引かれていった。
アサダが酷い目に遭わないように、遠くから祈るしかない。せめて今夜はゆっくり眠れるように。
そしてオレは今度は歩かずに済んでいる、それだけでも感謝しないと。
アオキは4人の男に両手両足を抱えてもらい、満点の星空の下運ばれていった。




