「寝かせてやる、一生な」 01
2014.07.09 書き替え 01~03
夜のアサダは、相変わらず落ち着きがない状態が続いていた。
やはり薬が切れてしまったのだ。
終始、体を前後に揺するようにして指をくわえたり意味もなく会話をしかけてきたり、明るさの中に、明らかに不安げな様子も加わってきている。
夜、あまり眠れていないらしく、何度も起き上がるのが分かる時もあった。
彼を使うしかないだろうか、アサダを横目で見ながら、アオキは逡巡する。
状態が更に悪化してどこか自分の目の届かない場所で何かしでかしたら、それこそワタナベの二の舞だ。
彼だって何かの覚悟で来たのだろうから、最終的にここで朽ち果てようが本来ならば知ったこっちゃない。しかし
「袖すり合うも……かな」
共倒れになるか、それともどちらかは助かるか……可能性に賭けてみる時が来たようだ。
真夜中、アオキはそっと起き出してアサダのベッド脇に立った。
その晩もアサダは眠りが浅いらしく、横にはなっていたものの、終始指を口に持っていったり、落ちつきなく寝がえりを繰り返している。
近ごろひどくなった寝言も聞こえている。「これ食べてください、元気出して」
「アサダさん」マイクに拾われないよう、ごく小さな声で呼びかける。
「ここを出よう、起きてくれ」
アサダは目を開いた。大きく綺麗な目で、上から覗きこんでいたアオキを見る。
焦点は合っていない。
「出る? ここを」
「静かに、ついて来て」
まさかこんなに簡単に言うことを聞くとは思わなかったが、アサダは上背のある割には静かな動作で起き上がり、両手を幽霊のように前に垂らし、彼に従った。
アオキは掃き出しの窓をそっと開けた。
強い冷気がいちどきに室内に侵入する。
彼はアサダの手をとって、そのまま掃き出しから広い中庭に出た。
「寒い? アサダさん」
訊いてみても、アサダはまだ夢の世界なのか、うっとりとどこか遠くをみたまま歩いている。
中庭は、半円形になった棟に囲まれ、しん、と静まり返っている。真っ暗な中、ちょうど真ん中に植えられた白樺に、白いスポットライトがいくつか当てられている。
彼らはその樹の前に立った。
アオキは、アサダの肩を両手で掴み、その幹に静かに寄りかからせた。
「アサダさん」束の間、スキャンの触手を伸ばしかけたがやはり、手ごたえを感じられずにすぐに引っこめる。
代わりに、優しく告げた。
「これからすることを、許してくれ」
分かっているのかいないのか、アサダは薄く笑った。
アオキは少しの間、待ってみる。
もしかしたら、冷気に当たって少しは彼も落ちつくかもしれない。
そうしたらこの計画は、いったん延期だ、そのまま静かにまた、棟に戻ろう。
だが、
「ああああ」急にアサダが両手で頭を押さえた。




