「くれぐれもご内密に」 02
開けっぱなしの物置から、アオキは身をずらすようにしてようやくはい出してきた。
そこにちょうど、彼らが入ってきた。
「ちょっと衝立を運ぶのを手伝って……」彼の恰好と、法衣についた汚れをみて、スギヤマは硬直した。
「な、な、な」
「そこの物置に、人が倒れていました」
酷い頭痛を悟られないよう、ごく当たり前の口調でアオキが答えた。
「なんだって」
スギヤマは、全然知らなかったようだ。あごが外れそうだ。
「誰? 何? どうして?」
アオキが黙って招くと、おそるおそる見に入ってきた。倒れた男をみて、
「おえ」吐きそうになる。
「スギヤマさん、何ですか?」
他の2人も不安そうに物置をのぞき、同じように口を押さえた。
「これは……これはあの男です」スギヤマの顔色は真っ白になっている。
「…なぜこんなこと…オダのヤツ」
完全に思考が停止したようにみえたのもつかの間、すぐにいつもの、穏やかだが有無を言わせぬ口調が戻った。
「アオキさん、まずその服を脱いで。ナルオカさんはすぐ、クリーニングに持っていって」
「はい」
1人がアオキから法衣を受け取り、すばやく出ていった。
「アオキさん」
スギヤマは、いつもの口調だが、額にはじっとり汗をかいていた。
「このことは、くれぐれもご内密に願います」
「どこからどこまで?」
「アナタに、祈祷をお願いしたところから。ここに来たことは全て内緒です」
スギヤマは寝台に横たわったままの骸をみつめながら、言葉を選んでいた。
「この女性は、そうですね……私とこのイドタ、あとナルオカで出来る限りの法要を執り行った、ということにします。確かに過失ではありますが、ひどいミスではない」
「……清め場に入るまでも、ないんですね」
スギヤマと残ったイドタが言葉を飲み込んだ。
「アナタ……」
スギヤマがわずかに後ずさる。
「アナタは、知り過ぎているようですね、色々と。本当に入らないように、十分お気をつけください」
建物裏手、真ん中通用口から入ってください、人に見られないように、とだけ言い、スギヤマは彼をその場から追い払った。
そこからどうやって歩いたかも記憶になかったが、気づいたらちゃんと、自分のベッドで目が覚めていた。




