「くれぐれもご内密に」 01
仕切り壁の向こう、短く細い廊下の突き当たり、物置にらしい小さな扉が、少しだけ開いていた。
アオキは脇から寄っていって、ゆっくりと扉を開けた。
麻袋や掃除用具などの間に、同じような色合いの何かが転がっていた。
動いている。
「……助けてくれ」
ささやくように、その男が言った。
のびてきた手のひらは、他の部分に比べてびっくりするほど白かった。ぶるぶると震えていたが、彼のズボンのすそをつかんだ力は思いのほか強い。彼はかがんで頭を抱き上げた。
ワタナベだった、こちらに目だけを向けていた。
頭の半分は、砕けて内側にめり込んだようになっていた。そちら側の目は真っ赤に染まっている。使えない方の腕と両足も、だらんとしていて自分では動かせないようだ。
「ワタナベさん?」
法衣を着けたままだったので、ワタナベは幹部の誰かと間違えたらしく、身を振りほどこうと少し暴れた。が、全身を激しいケイレンが襲い、そのまま床に落ちた。
「だいじょうぶ、おちついて、ワタナベさん」
そのまま横たわらせて、背中をさすりながら穏やかに話しかける。
「もう、だいじょうぶだから」
「閉じ込められて……」
イメージが彼の頭の中に奔流のごとく押し寄せる。久しぶりの、生々しい感触に、アオキはぐっと奥歯を噛みしめた。これも久々の頭痛、こめかみを錐で刺されるような鋭い痛みにぎゅっと目をつぶるが、イメージはとどまることを知らない。
ずるずると引きずられ、建物の裏手の森にまっすぐ入っていく。こじんまりした四角い平屋の建物。階段を下りる。真っ暗なイメージ、臭くて息がつまる、熱い、ずっとここから出られない。あとの2人はもっと前から……見せられる。こうなりたいか? と。
「もう2人?」思い出せ、どんなヤツだった?
1人の顔がぱっとひらめいた。
ガリガリに痩せている。今のアオキよりもずっと髪が伸び、髭も伸び放題、少しえらの張った顔を覆っていた。暗がりで目がひかっていた。
ようやく、見つけた。
ジャカードは『清め場』に幽閉されていたのだ。
「もう1人……いるのか?」
背中を押さえる手に、急に震えが伝わった。
ごろごろとのどを鳴らすような音がひびき、手のひらに当った筋肉が、ぴん、と張った。
そのまま、次の問いには答えず彼は息絶えた。




