「ピアスは無くなってました」
支部に帰ったルディー、さっそくシヴァに本を渡す。
「ハードカバーは、返してくれって」
「ふうん……書き込みはないね」
「ではペーパーバックがメッセージか」
シヴァは注意深く、ページを開いていく。
「赤線だらけ、線しか書き込みはない」
「ヤツらが全ページ目を通しているはずだからね」
じっと線の部分を見つめるシヴァ。そこにデスクトップチームの応援が終わったボビーが戻ってきた。
「何見てんの?」
「サンライズ・リーダーからの手紙」
えっ、リーダー? 生きてんの? よかったぁ、と横から覗き込むボビー。
彼にとって『リーダー』と言えばサンライズただ一人だから。それはシヴァも同じだった。
「で、何よこれ」
「宗教書です」
ここでも控えめなルディー。一応、薄塗りでも有効な傷の隠し方など、親切に教えてくれたボビーではあるが、やはり微妙に自分に反感をもっているのを感じてはいた。
「赤い線引いたの、彼なの?」
「のはずです」
「鉛筆削り、ないのかしら」
「は?」
「線がかすれてる、あちこち」
シヴァが何か気づいて、本をひったくった。
「わかった」地面に降りたスズメをみつけたネコのようだ。
「ルディー、ペン貸して」
ルディーがペンを貸すと、シヴァは最初のページからずっと線の部分をたどりながら、かすれて線がちょうど切れている部分を書き出していった。
「ロケットの『ロ』、心が通じ……の『通』、信仰に入る……の『に入』、次は」
どんどん書き出して、最後のページまできた。それを二冊分。
出て来た文字があまりにもデタラメなので、シヴァはぽい、とメモをルディーに投げた。
「ボクには日本語やかましい、いや、ええと」
「ややこしいですね、はい」
ルディーが器用に文字を組み直す。
一冊目にはこうあった。
「通シん来を本に入れロ」見守っていたボビーが口をはさむ。
「彼、耳に穴開けたわね、そこにセットできればいいのね」
「いや……」ルディーが額に手をやった。
「ピアスは、無くなってました。耳から引きちぎられたような傷が」
えっ、とボビーが絶句する。シヴァは意外なほど冷静だった。
「きっとリーダーは他に考えるよ、とりあえず用意しよう。ルディー、作戦課に頼んでよ」
もう一つのメッセージを、三人は声に出して読んだ。
『テルヨカワは今どこかさがせ』
「どういうことだろう」
ルディーは、さっき見て来た教団施設の様子を思い出していた。
「教主がいない、ってことなのか? シヴァ、調べてもらえるか?」
すでにシヴァは、端末に向き合っていた。
「本部とは、大違いでしょ?」
ボビーが、ルディーの方をちらっとふり返った。
ルディーは黙って、作戦課に向かった。




