「アオキさん、アナタはいい声ですね」 02
「オレ……いえ、私にですか」
「その本をよく読み込んで、内容をほとんど暗記していただきたい」
えっ? 四百ページくらいありますけど、と目が語ってしまったのかミツヨカワが笑う。
「大変だろうとは思いますが、アナタは、初めの試験でもかなり優秀な成績でしたし、記憶力もよろしいかと」
だったのかなあ、と首をひねるアオキ。
「それに、その声」
スキャニングに映る光景は、いつもとあまり変わらない。もやもやと明るい、霧の中の晴れ間、とでもいうか。とにかく捕え所がない。
「わが教団の広報として、働いていただけないでしょうか?」
「広報ですか?」
急に、チャンスが開けてきたのを感じた。
「ええ、全体集会での朗読、司会進行、他セクションへの勉強会など……ご自分の修行にもなるかと思います。ぜひ、お願いしたいのですが」
「私でよければ」堂々と、ジャカードを探せる。「いつからですか?」
「とりあえず、そのご本を一読されてから。そしてご自分の心に残る個所がありましたら、そのままボーダーラインを引いて頂いて結構です。付箋を貼っていただいても。そうですね、三日あればよろしいですか? もちろん、明日の作業は免除、ということで」
「覚え切れるかどうかは……オレ、いやワタシ」
「それは徐々にで、いいですよ」
にっこりとミツヨカワが応じた。
「教主さまのお言葉は、求めている限り必ず魂に沁み渡りますから」
「だいじょうぶだと思います」
所長の言葉は相変わらず気味悪いが、それでも彼は、久々に心から笑顔をみせた。
「どうも……ありがとうございます」
素直にそう、口から出た。
筆記用具は、先日ルディーが持ってきてくれたので一通りそろっていた。
付箋もちゃんと入れてくれてあった。
事務局のチェックだろうか、一枚いちまいはがして糊の部分まで何か隠されてないか見たらしく、途中からはがれてきてしまうのには少しまいった。
本をさっそく拡げてみる。
まずい、1ページ目からメチャクチャ、眠くなってきた。まだ午前中なのに。
近頃では、夕食のお茶にもあまり薬が入っていないらしく、夜もすぐに倒れ伏して眠ってしまうことが減ってきたような気がする。それでも猛烈に眠い。
この本がいけない、とアオキは本を取り上げる。




